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追憶の潜水士  作者: 今璃 咲
Ⅰ 初任務
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6.幼馴染

凪沢佑磨(なぎさわゆうま)

近所に住む同級生で、幼稚園、小学校を共に過ごした幼馴染だ。

正直同性の友達よりも気を許していたほど、仲がとてもよかった。

小学校中学年までは時間を忘れて夜遅くまで遊び、高学年の時は理数系に強い彼と文系に強い澪で勉強会をしたり、とまるできょうだいのように接していた。


そんな彼の趣味は実験。

庭にある小さなプレハブ小屋に研究者の父と引きこもって、2時間ほどしたのちになぜか真っ黒になった顔で出てくる、なんてこともしばしばあった。


実験に失敗し、右腕に包帯を巻いて処置をした時も「名誉の負傷だよ。将軍みたい!」と無邪気に笑っていたほどだ。「実験をしたいから学校を休む」と言ったときには、さすがに呆れたが。

それほど彼にとって実験―いや、研究はかけがえのない生活の一部だったのだろう。


『中学生になったらどうするの?化学部にでも入るの?』

『いや、個人で活動して賞とか取ってみたいな。あ、表彰式には絶対兄ちゃんと来てね』

『じゃあしっかり目に焼き付けておくね!』

手をぐっと握り決意表明をする澪に、佑磨はさらりと笑顔で、夢の欠片もないことを言う。

『いや、健康な人の瞬きを我慢できる時間は、2.5分が限界らしいから無理だよ』

『そゆことじゃない・・・・・・』


そんなたわいもない話をしつつ、中学生になったらどんな道を歩むか、当時の澪は胸を高鳴らせ、未来に思いを馳せていた。


―だが、その未来は小学五年生であっさり打ち砕かれることになる。



『え?東京に行く?』

にわかには信じられず、固い声でオウム返しをした澪を気にすることなく、佑磨は言った。

『うん。この間沖縄水没があったよね。それで対策装置製作の補助として、高校生や中学生もプロジェクトに関わるんだってさ。僕は父さんの付き添いだけど』

『え、でも学校は?どれくらい東京にいるの?』

『あくまで補助だから一、二年くらいじゃないかな』


あっけらかんと放つ彼に、澪は戸惑う。なぜそんな軽く考えられるのか。


『じゃあ卒業式は・・・・・・』

『そこは配慮してくれると思う。でもさ―』

そう言って向けられた表情に澪は固まった。

そこには友人と離別する悲しみや、未知の場所へ飛び込む不安や憂いなどは微塵も感じられず、期待と興奮に満ちていた。


『たかが小学校の卒業式だよ?そのために残るより、研究のために東京に行った方が絶対良いよ!』


唖然(あぜん)、いや愕然(がくぜん)として言葉が出ない澪に対し、立て板に水で淀みなく話し続ける佑磨。

そこで澪はやっと理解した。


自分と彼では価値観が違うのだ、と。


彼にとっては学校生活で友人と関わったり、仲間と共に行事に向けて努力するより、一人コツコツと研究に(いそ)しむ方がずっと価値のあるものなのだ。


そして澪は彼にとって研究以下の存在。


思い返すと話しているときに違和感を感じることが、しばしばあった。同じ場所に立っているように見えて実は、溝があるのではないかーと。

その差が今になって明確に示されただけのことだ。

心の中で、今までの思い出だったものに亀裂が入り、ばらばらに崩れていくような気がした。


『澪?どうかした?』


澪に向けられる瞳は、逸らしたくなるほど眩しい。

彼の中に【行かない】という選択肢は存在しないのだ。

澪は本音を押し殺し、口角を上げて目を細めて、笑顔を向けた。


『ううん。研究頑張ってね』

『ありがとう!』


この瞬間、澪と佑磨の道は分かたれた。


■■■


そして小学生6年生の日本列島大規模津波。避難所の一角で佑磨や他の友人の身を案じる澪に、声がかかる。


『澪ちゃん、死者名簿出たって』

『っ、行ってきます!』

『え、ちょっと』


ご近所さんに教えられ引き留めを無視し、澪は避難所から弾丸のように飛び出して、名簿発表場所の広場に向かった。

足元に流れる水をざぶざぶとかき分け、人混みの間を縫って、名簿の前にやっとのことでたどり着いて。


―息が止まった。


《死者名簿  小学6年生 凪沢佑磨》


広場は沢山の人で溢れていて、おびただしい数の人名が並んでいるはずなのに、吸い寄せられるように見つけた名前。下には彼の父親の名前も書いてある。


『・・・・・っ』


倒れそうになり慌てて足に力を入れた。視界がぐにゃりと歪み、過呼吸を起こしたかのように息が浅くなる。空気に酔ったのか、嘔吐しそうになり慌てて口を手で押さえる。

なんで、なんで佑磨が。

それでも何とか人混みから抜け出し、避難所の自分のスペースにたどり着くと、澪は気絶するように床に倒れこんだ。


■■■


『そっか。佑磨くんが・・・・・しんどいね』

『ああ』

誰かの話し声に意識が浮上する。ゆっくりと目を開けると、朧気に自分より年上の男性、いや男子二人が向かい合うようにして話し合っていた。片方は気遣うような遠慮がちな声、もう片方は暗い声だ。


『にしても第一弾でもう名前が載るなんて。―は遺族だから前もって知らされてたんだよね?なんで教えてくれなかったの?』

『・・・・・』


相手は俯いて黙り込む。そしてしばらくの間気持ちを落ち着かせるように手を動かすと、覚悟を決めたように(おもて)を上げた。


『俺はこの発表は嘘だと思ってる』

『え?』


澪は戸惑った。嘘とは、どういうことだ。


『今回の通達が異様に早かった。父親と佑磨ともにだ』

『まあここは埼玉で、佑磨くんたちがいたのは東京。しかも道路がかなり冠水してるから、ボートでの通達でしょ?歩くよりは早いから、そんなことも―』

『絶対に違う』


彼の声が一段と低くなる。


『俺は佑磨から、研究所に勤めてる奴らの名前をちょくちょく聞いていた。そいつらの名前も全員(●●)載っていた。東京は水没した千葉に近いとはいえ、まるまる全員死ぬなんておかしい』

『ちょっと待って。さすがに無理がある。今回の死者数は桁違いで今までのとは比べ物にならない。むしろ助かった方が奇跡だよ』


なだめる声に、彼は絞り出すような声で告げた。


『・・・・・今回の名簿に佑磨の名前を記載されたのは、俺の許可なしだ』


『え?』

澪は不穏な予感がして、髪をぎゅっと握る。


『普通死者名簿に故人の名前を記載する場合は、遺族の許可が必要だ。でも、今回は勝手に発表された』

『それは、・・・・・怪しいね』

『これは推測だが、この大規模津波は研究所が関わってる。そして父親と佑磨は何かしらの理由があって死んだことにされた(●●●●●●)。きっと他の奴らもそうなんだろう。

―つまりこれは偽装だ』



澪はにわかには信じられなかった。

名簿の許可? 研究所? 偽装?


―でも、もし生きているんだとしたら。



『私が絶対見つけ出す・・・・・』


澪の瞳に宿った強い決意と芽生えた信念が、彼女を潜行士を目指す原動力になるのは一目瞭然だった。

活動報告にも書きましたが、リアルが忙しくなってきましたのでしばらくの間投稿お休みします。

復帰のめどは3月後半です。生存報告は活動報告でするのでよろしくお願いします~。


面白かったらブクマコメよろしくお願いします。(現実に泣いている人より)

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