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追憶の潜水士  作者: 今璃 咲
Ⅰ 初任務
3/7

2.変人エンジニアの総合授業

二時間目・総合の授業は極寒の第一体育館にて、行われる。

講堂からギリギリアウトな走りでやってきた澪たちは、冷気に体をすくませた。

「ひゃー、寒い!先生鬼!」

「ほんとそれな。凍え死ぬマジで!」

「2人って今朝会ったばかりなのに仲いいのね」

「「んなわけないでしょ/だろ」」 

「あ、そう」

何とも言えない玲奈の視線を振り切って、ステージに視線を向ける。

そこにいるのは岬橋(みさきばし)教官だ。外見は細身で身長177cm、顔はそこそこ整っている凡人だが、技術分野においては天性の才能を持つ非凡のエンジニアだ。

じゃあなんで総合の授業なんかやっているのか。答えは簡単、エンジニアとして他校へ頻繁に出向いているため、他校の事情に詳しいからだ。

(その代わり考えがぶっ飛んでるんだよね)

現に今もそうだ。


「はーい、みんな走って体温まったかな?んじゃ床に座って~」

「せ、先生、今めっちゃ寒いんですけどヒーターつけてもらえますか」

ある生徒が震えながら挙手をすると、岬橋は驚いたように眉を上げる。

「あれ?灯油代節約のためにわざわざここにしたんだけど・・・・・・寒かった?」


しーん。

(岬橋先生、発想が)

ぶっ飛んでいる。

誰が灯油代節約のため走らせようとするのだろうか。実際体育館中の生徒が絶句している。

隣で「アイツ今日も絶好調だな」とつぶやいた光には背中をたたいて黙らしておく。

先ほどの優等生、霧原が岬橋に授業開始を促したことで、やっと授業が始まったのだった。



「前回の授業で君たちは学校について浅く教えてもらったんだよね?僕はそこをもうちょい詰めていくからしっかり聞いててね~。あ、復習だからノートはいらないよ」

(浅く教えてもらう、かあ)

言葉の選択に、微妙な気持ちになりながら澪は玲奈と視線を交わす。玲奈も苦笑いで返してきた。

さて、そんなのでも授業は行うわけで岬橋が手をたたくとステージのスクリーンに文字が映される。


「改めて今回の内容を言うね。

【1.職業について】

職業を知らないとついていけないから、ここはざっと復習するよ。

【2.学校の詳細】

これがメインだよ。特にアルナ学園は君たちが試験に受かったら通う学校だから頭に刻み付けてね」

”アルナ学園”の文字が蛍光ピンクで眩しく感じ、澪は視線を下に向ける。

隣で玲奈は真剣な顔で文字を見ていた。


「さて、まずは【1.職業について】。今の日本は各自衛隊と海上基地にいる潜水士達で守られてることは知ってるよね?」

スクリーンにドーンと”潜水士”の文字が表示される。なぜ金色なんだ。

「潜水士は大きく分けて三つの職業があるんだ。このマインドマップを見て」

真ん中に潜水士、と書かれ、そこから三つに枝分かれしたマインドマップが映される。

「えーっと一つ目は【潜行士】、通称【サルヴァー】って呼ばれてる。任務内容は人命救助、人々へ日用品の支給、あと水中から来る違法入国者の捕捉とかかな」

そう言うと彼は目を伏せた。

「志望者が多いけど、死亡者も多いんだよ」

全く笑えない冗談を真顔で言う岬橋に、澪は微かに身震いをした。彼の目は驚くほど冷たくてまるで別人のようだ。

体育館が、息を吐くことさえ躊躇うような沈黙に包まれる。キンとした冷気が体を侵食するような感覚に寒気がして、澪は腕をさすった。

「・・・・・・大丈夫、死なないために特訓してるんだから~」

軽く笑みを浮かべると彼はスクリーンを操作した。


「二つ目は【海底士】。通称【リストアラー】。水に沈んだ日本を[旧日本]っていうんだけど、その旧日本の調査・発掘等が仕事。頭良い人が多い反面、変人も多いから気を付けてね」

(変人・・・・・・)

澪はとある人物を思い出しそうになり慌てて頭を振った。

一方「あ、僕は変人じゃないから!機械が好きなお兄さんだからね!」という岬橋に思わず笑いが起こる。今更その性格は変えられないだろう。


「最後に【回収士】。通称【ディーパー】だね。旧日本にある物の回収、それと毎日の安否確認が仕事だよ。

ちなみに潜行士と海底士は国家資格でアルナ学園でしっかり勉強しないとなれない。けど、回収士は養成学校を卒業して試験を受ければ誰でもなれるんだ。その代わり潜行士たちよりも立場は弱いけどね」

仕方ないけど、と苦笑すると彼はプリントを配り始めた。

どうやら次の【2.学校の詳細】が書かれたプリントらしい。

(レイアウトきれいだなー)

着眼点がずれている澪の横で、光はうたた寝していた。


「今のプリントは再生省のHP(ホームページ)をコピーしたもの。説明はめんどいから今から五分で読んでね。はじめ!」

(雑すぎる!)

口をぱかっと開けてしまった澪は、真面目そうな霧原に視線を向ける。だがさすが優等生、全く動じずクールな顔で眺めていた。さすがだね。

さて、気を取り直してプリントに目を通す。



《再生省育成システム》

1.養成学校  在学期間:小学5年~中学3年

 ○体力作り・水中訓練・座学(小中学校の基礎的な強化に加え、海での知識等)・フィールドワークetc…

 ※潜行士、海底士、回収士志望者まとめて通学。全国に分校があり、東京に本校がある


2.アルナ学園  在学期間:高校1年~大学3年(留年で大学四年まで可能だがその場合 合格率は低い)

 ○トレーニング・実際の現場活動・水中訓練・座学(言語等も)・爆発物処理・心理学・集団行動etc…

 ※潜行士コースと海底士コースに分かれて授業。潜行士コースは担当別授業あり

 ※回収士は通学せず、現役の回収士に弟子入りして学ぶ


3.海上基地   在学期間:基本成人(スキップ制度で大学1年から可)

 ○自衛隊と協力任務・国境当たりの警備・海中パトロール・戦闘訓練etc…

 ※第一部隊が穴埋めに入ることも。第二部隊は極稀。



(しっかり考えられてるんだなあ)

読み終わった澪は腕を組んで考える。どうしても気になるところがあるのだ。

「帆梶さんどうしたの?」

「うぃっ!?あ、先生」

目を開くといつの間にか近くに、岬橋がいた。澪の顔を見てニマンと笑う。変な顔。

「さっきのすごい声だったね」

「あー、アハハ」

「それよりなんか質問?なんでも受け付けるよ☆」


物知り面な彼に苦笑しつつ、澪はプリントのあるところを指さす。

「この第一部隊、第二部隊って何ですか?それとアルナ学園の合格率を知りたいです」

澪の質問に岬橋は、ぱああっと喜び破顔になる。小学生みたいだ。

「うんうん!いい質問!説明しちゃうね~」

ぴょんぴょんぴょーんと独特な足音の走り方でパソコンまで走る岬橋。

彼がパソコンを操作すると、スクリーンにピラミッド型のグラフが映る。


「詳しくは学園で習うと思うけど、アルナ学園には第七部隊から第一部隊まであるんだ。入学した当初はみんな第七部隊に入隊するよ」

一番下に第七部隊、と書いてある。どうやらピラミッドの下から上にかけて数字が上がっていくようだ。

「第七は部隊の中では最多人数の60人!で、第一は最少人数の10人だよ。まあ、第一なんて頭脳か体力が卓越した変人しかいないけどね」

でもね、と彼は体を見乗り出して生徒たちを見つめる。

(先生目がギラギラしてるー!)


「第一に近づけば近づくほど任務の内容も上がるんだ。つまり、情報の質や任務で扱う機械の性能も上がるってこと!だからみんな第一を目指してるんだよ」

(情報の質が上がる。つまり情報の内容や量、正確性が増える、上がるっていうこと!)

情報を集めるため潜行士になった澪にとっては、魅力的なプレゼンだ。

岬橋のごとく前のめりになった澪を、玲奈が慌てて抑える。


「落ち着いて澪」

「落ち着いてる玲奈」

「それで合格率は?」

興奮状態の澪の横で、光が尋ねた。こいつ、大事なところはしっかり目を覚まして聞くらしい。バカそうに見えてなんて効率的な奴だ。

「あーそれはね」

ちょっと口ごもる岬橋。さっきとは打って変わって視線をさまよわせ、気まずさが出ている。

「早く言え」

「ちょっと先生にため口は・・・・・・」

「は?」

仲裁に入った霧原を睨み、光は岬橋を肉食獣のような瞳で見る。

岬橋は頬をかき、ため息をつくと、視線を光に戻した。

「潜行士と海底士で違うし、試験前だからあんまり言いたくなかったんだけど・・・・・・」

「別にいい」

「うーん、メンタルボロになっても知らないからね?」

岬橋は腹をくくり、固唾をのんで言葉を待っている生徒たちに言った。





「合格率は20%だよ」

良かったらブクマ・コメよろしくお願いします!

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