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追憶の潜水士  作者: 今璃 咲
Ⅰ 初任務
12/13

12.スマホと歓迎会

長くてすみません!大事なのはまたまた◇の後です。

「はー、疲れた!」

「この学園、敷地も建物の中も面積広すぎ」


澪は、寮の部屋・203号室に入るなり座り込んだ。玲奈は布団にダイブしている。


あの班決め後、まず校内のつくりを叩き込まれ、教科書やら訓練服やら支給された。

そして足が棒になっているのに、早く寝ろと寮の浴場に押し込まれ、食堂で三班メンバーと最後の晩餐かと見紛うほどの、大変静かな食事を終え、今に至る。


「でも本当に設備の質が養成学校とは比べ物にならないね」

「まあ、再生省の息がかかったものだし。私たちは今日から再生省の手となり足となり働くわけだから」

「そうだねえ」


澪は枕に顔をうずめると、脳内記憶保管庫から担任の説明を掘り起こした。



アルナ学園は学園本体と部隊別の寮が四棟ある。


第一棟《勇魚(いさな)》は第一部隊と第二部隊の寮。

出動頻度が最も多い部隊なので、比較的学園の入り口に近く、連絡も取りやすくなっている。

また、常に能力を最高まで高めておくために最新鋭の設備が導入されたトレーニングルーム付きの、まさに最高部隊のための寮だ。


第二棟《逆又(さかまた)》は第三部隊と第四部隊の寮。

位としては第一第二を支える部隊だが、目の届きずらい北海道や九州地方など遠征に行くことも多い部隊。よって見た目は他の寮より小柄だが、トレーニングルームはしっかり完備されている。

特徴としては、全都道府県の情報が詰まっている資料室があるところだろうか。

見上げるほどの棚にはファイルが所狭しと並んでいて、ただただ圧倒された。移動の多い部隊に特化した寮だ。


第三棟《海驢(みち)》は第五部隊と第六部隊の寮。

あまり現場に出ることのない部隊なので、トレーニングルームは大分簡易設備だ。

だが、とにかく経験を積むことが重要な部隊なので、幅の広いスクリーンが印象的な視聴覚室がある。

過去の活動記録や、応急処置の方法がやいてあるDVDを見るために、ひいては自主トレのために利用する寮生もいるらしい。

生徒の成長を手助けする実に魅力的な寮だった。


そして第四棟《海月(くらげ)》は澪たち第七部隊の寮。

クジラだのシャチだのアシカだの、無駄にカッコいい名前をしておいて、なぜクラゲなのかと言いたいが、しっかりと理由があるらしい。


この世の大半は既知だが、クラゲには触手がある。

そしてこの寮にも、寮生を貶める触手がある。その名も【触手回廊】。

倒木や建築物の破片が散らばる、災害後の道でも素早く救助者のもとに行けるようにと作られた、いわば障害物レースができる回廊、だが。

まともに光源の無い上、急に木材や棚のダミーが横転してきたり、足元に突然棒が出現したりとSA〇KE?と思うような地獄回廊。

そして名前にある【触手】とは、壁に埋め込んである筒から飛び出すスライムのことだ。これが不可避でくっつくとどろりと垂れて侵食する挙句、粘着力で持久力がじわじわ削られていくという嫌らしい技である。

この触手回廊によって《海月》という名前らしい。



「ねえ、そういえば・・・・・・玲奈?」


ふと発した澪の言葉は、突如として泡沫(うたかた)のように溶けて消えた。問いかけた相手が手元の”何か”を見つめていたからだ。

いつもの彼女とは違うひどく真剣な表情。こう、ガラス越しに零れる光を覗くような、心の奥深くに秘めた核の片鱗が微かに揺らめいているような、言葉にはできないモノ。


「―れいな」

「あっ、ごめん、なに?」


ぱっと顔を上げた玲奈はいつもの【清水玲奈】だ。澪は少し躊躇いながら言葉を紡ぐ。


桜宮(おうみや)さんが来るまで待とうと思ったのに」

「へ?」

「あ、その、お気になさらず」


瞳を泳がせる百合と申し訳なさそうに百合を見る澪。ようやく玲奈は状況を理解した。

アルナ学園の寮は三人部屋。203号室には二段ベッドが一つとシングルベッドが一つある。

そして現在玲奈はシングルベッドに寝ている。ということは。


「あ」

「あ、や、二段ベッドでも構いません!むしろ私が来るのが遅れてしまってすみませんっ」

「ああああ!ごめん、本当にごめん!てか、澪教えてよ!」

「言おうと思ったんだけど、玲奈が話しかけるなオーラ出してたから」

「はぁ?ってか本当にごめん!」

「い、いえいえ、そんな」


強制的に百合は二段ベッドである。さすがに優しそうな彼女も人が寝たベッドに、自分が寝るのは嫌だろう。ご愁傷様です。

土下座する玲奈を置いて澪は話しかけた。


「それで桜宮さんは上と下どっちがいい?」

「下でお願いします」

「上じゃなくていいの?」

「落ちたことがあるので・・・・・・下はいくら落ちても問題ないですし」

「了解――え」


(ん?)

え、イマ、アナタ、ナンテイッタ?

―とツッコミを入れる暇もなく、百合が就寝したのと同時に消灯時間になったのでした。え?



翌日、澪は眠い目をこすりながら体育館で体育座りしていた。

生徒会と第二部隊主催の説明会と称した新入生歓迎会である。朝の会で拓海の説明を聞いたときは、「歓迎会する必要あるの?」と疑問符が浮かんだが、どうやら顔合わせの意味もあるらしい。


忙しい第一部隊に代わり学校の顔兼模範となるのが第二部隊。第七部隊の指導係もどきも行うらしいので、頭に叩き込めと。うーん、15人分の名前かあ。


(一人しか知らないんだよね)


誰かは後ほど。

さて、早速始まるのは生徒会長・桐壺直々の、階級や任務等の説明だ。本人は第一部隊だが生徒会長として出なくてはいけないらしい。お疲れ様です。


『では生徒会長さん、お願いします』


アナウンスと共にステージに上がる桐壺。柔和な笑みと切れ長の瞳、端整な顔立ちは確かに学校の顔だ。


『生徒会長・桐壺空(きりつぼそら)です。僕からは階級と任務についてお話します』


糸で吊るされたようにまっすぐな背筋、遠くまで聞こえる滑舌の良い言葉には社交性が見て取れた。

この話は長かったので澪の脳内要約機でまとめたところによると―


【階級】

色別になっていて女子はタイ、男子は肩のモールで示される。訓練服の場合はスキーウェアと同じように、腕に学生証を入れるアクリル窓のポケットがあるらしい。実際はそれほど重視しないが。

階級を現す色は第七が赤、第六が桃、第五が黄、第四が緑、第三が橙、第二が水、第一が青色。

なお、第一部隊のみ制服の上からマントを装着する。


【任務】

難易度に合わせ各部隊が出動する。第七部隊などの人数の多い部隊は班ごとだが、第一部隊のように人数が少ない部隊は二人一組のバディを組み救命活動にあたる。原則一任務につき一部隊だが、第一から第三部隊は共同任務を行うこともある。



というわけだ。ややこしい。

だが直後、あくびをかみ殺す澪をも叩き起こす発言が彼の口から発せられる。


『ところで皆さんは今日から【再生省第七探索課】ですよね。そこで公認部隊に入隊したお祝いと今後の活躍への期待を込めて、スマートフォンを進呈します』

「!!」


彼の発言に歓喜の声が生徒間で飛び交う。


「すげえ、スマホだ!」

「懐かしい~」

「指紋認証つきだ、便利」

「また会えると思ってたぜオレは!」


いささか大袈裟に聞こえるが、そうでもない。水没化が進んだ現代日本において電子機器は貴重品&高級品。国家機関所属の職員や皇室しか持てない、滅多にはお目にかかれないものだ。

澪は手に馴染むスマホの感覚に口角が上がる。

(お帰りなさい、ニュースマホ!!)


その後、他の生徒会メンバーが年間行事について述べた。直近の行事は海底士コースの生徒との交流会だが、馬耳東風である。

そんなわけで説明会はサクッと終わり、第二部隊主催の歓迎会だ。

移動した大広間はペーパーフラワーやテーブルクロスで、見違えるように華やかな会場だった。


憧れの第二部隊 隊員との対面で皆、緊張の面持ちだが拓海と帰蝶が上手く取り計らってくれたのと、先輩たちがとても友好的に話しかけたこともあってか、場は盛り上がっていた。

”見た目は”社交的な諒は早速人脈づくりに、そして日向はなんと技術担当であろう先輩に質問をしていた。行動力がすごい。


「あれこの前の先輩じゃね」

光の視線の先には、取り囲まれた中心で慈愛の女神のような微笑みを浮かべている先輩がいた。

「ああ、水色のタイで藤本、先輩だっけ。確かに好かれそうね」

「相変わらず容貌(ビジュ)いいな~」

「「・・・・・・・」」


そんなことを話していると―


「はぁ、藤本先輩お綺麗です・・・・・・・♡」


陶酔、いや心酔ともいえるうっとりドリーマーの声が聞こえた。信じられないが消去法で桜宮百合だ。

いつもの控えめおしとやか少女は消え去り、頬は紅潮して瞳はハートに、溢れるピンクオーラと崇めるような眼差しは、脳内にあった彼女の印象を上書きするには十分すぎた。


例えると、木花咲耶姫(コノハナサクヤビメ)に一目惚れした瓊瓊杵尊(ニニギノミコト)、推し活をするファン、王子様に会った少女漫画のヒロイン。


「・・・・・・・すげえな」

「そう、ね」

「美女は人を狂わせる・・・・・・・」


澪も藤本先輩は大和撫子のごとく美しいと思っていたが、アレほどではない。断じて。

(暴走とか、しないよね?)

暴走地獄絵図フラグが立ったような気がして、澪はかぶりを振った。

―と同時に賑やかな広間で陰々寂寞(いんいんせきばく)とした空気を纏う彼を見つけた。


澪は微かに笑みを浮かべ近づく―はずだったが、彼は人気のない廊下へ歩いて行った。

澪は無言で追いかける。おそらく相手もつけられていることを知っているだろう。


「ちょっと、つれないんじゃないんですかー?」


返事はない。別にいい、正体は分かっている。



「ここで出会ったのもきっと必然。久しぶりに話しましょうよ。


凪沢悠斗(なぎさわゆうと)さん」


ゆっくりと振り返った彼は、間違いなく幼馴染の兄だった。

面白かったらブクマコメよろしくお願いします。

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