11.班決めは前途多難
先に謝罪します。長くてすいません。大事なのは◇の後です。すいません。
【潜行士はチームワークが大切】
それは養成学校時代、耳にタコができそうなほど何度も刷り込まれてきたことだ。
どれだけ技術が高くても、一人では決して人命救助を行えない。6人チームで戮力協心で救助する。
チームを先導する戦略担当。
水中へ潜り救助をする潜水担当。
ボートの上から引き上げ、応急処置等をする救命担当。
戦略担当の右腕であり、安全かつ迅速な救助を支える情報担当。
そして必要器具のメンテナンスや道具面でのサポートをする技術担当。
―そのメンバーが今、決まろうとしていた。
「さて、一応復習しようか。
養成学校の時に習ったと思うけど、アルナ学園の潜行士は第七部隊から第一部隊に分かれてるよ。
入学したらまず第七部隊に所属して経験を積んで、学年末にある昇格試験で部隊昇格ができる。
第一、第二部隊あたりになると任務の難易度も上がって得られる情報も多いから、そこを目標に頑張る人が多いかな」
「ちなみに海上基地に勤めるには、最低でも第三部隊までに入隊していないといけませんね。あくまで最低ラインですが」
厳しい現実に、生徒たちは戸惑い、悔しさ、焦りを含んだ瞳で教官を見つめる。
やがて帰蝶は模造紙を取り出した。拓海は生徒の心を見透かすように順繰りに視線を巡らせる。
澪も目が合い、唇を噛んで見つめ返した。
「先に補足点。担当は変更可能だけど、こちらも適性を考えて班決め、担当決めしているのでそこをよく考慮してね。それと勘違いされると困るから言っておくけど、班の数字は決してランキングじゃないから、自分の力を過信しないように。
―それでは発表します」
拓海の合図とともに模造紙が壁に張り出される。同時に生徒が模造紙に詰めかけた。
六人組の班が合計十班。そこから名前を探すのは、なかなか苦戦する。ましてや澪の身長は平均より少し低いくらいなので、つま先立ちでも名簿は見えない。
(くう、身長の低さが恨めしい!)
誰かー、ろくろ首の人連れてきてください。
やがて、隣の玲奈が髪を揺らしながら弾んだ声で伝える。
「澪!一緒の班だよ!三班!」
「え、やったぁ!」
きゃー、と興奮して抱き合う二人。六十人の中から同じ班に配属されるとは、やはり澪と玲奈の絆は固く結ばれている。
「私は潜水担当で・・・・・・玲奈は救命担当だね」
「救命、花形だけど責任が重いわね」
「玲奈なら大丈夫だよ」
(他のメンバーは誰なんだろう?知ってる子がいるといいな)
高校生になっても、相変わらず名前を覚えようとしない澪であった。
◇
やがて全ての班が決まると、岬橋により自己紹介を班ごとに集合して行うことになった。
澪が三班の場所にたどり着いたときには、見覚えのある二名の男子の間に火花が散っているのが見える。
「なんかお前、俺にだけ態度悪くね?」
「だって君、岬橋碧先生に喧嘩を売って僕が仲裁した時、ガン飛ばしてきたよね」
「それをずっと根に持つお前も、どうかと思うけどな」
「あ、帆梶さんきた。久しぶりだね」
なんと養成学校時代の同期、霧原と鳳光だった。霧原はあの頃と全く変わらない様子だ。そして相変わらず・・・・・・。
(切り替えがすごすぎる)
霧原の霧は切り替えの切りなのではないか。そう思うほど対応が完璧で、澪の笑顔は少し引きつる。
そういえば養成学校時代も常に笑顔で、感情が荒れることは試験の時ですら決してなかった。演じることが上手い性格だ。
澪は「久しぶり」と挨拶を返すが、玲奈は無言だ。しかし顔にはっきりと、感情が隠すことなく現れている。
「清水さんも久しぶり。悲しいな、そんな露骨に嫌な顔されたら。嫌われてる?」
「嫌ってないわ、面倒くさそうと思っただけ」
笑みを崩さない霧原に、玲奈はいささか低い声で応答する。だが玲奈の意見には同感だ。
(特に霧原くんと光のペアが面倒くさい)
今後も犬猿の仲でバチギスするのかと思うと、胃が痛い。
「ともかくこれからよろしくね」
「うん・・・・・・」
澪は苦笑いで円形状になるように、玲奈の隣に座る。左隣は一部の髪を右耳の上でお団子にし、残りは垂らしている大人しそうな女子だ。正座の状態でずっと床に視線を落としていて、どこか控えめな雰囲気が漂っている。
そんな彼女の隣は、澪が来てからずっと手元の機械をドライバーで解体している男子。
左側が長く、色素の薄いふんわりとした髪。瞳は手元だけを映していて、周りに視線を向ける気がさらさらない。光や霧原と比べると肌は白く、瞼が気だるげに降りている瞳は大きいからか、どこかあどけなく見える。
マイワールドを持つ独特な性格だ。
「さて、自己紹介をしよっか」
霧原は相変わらずの余裕面で場を取り仕切る。澪、光、玲奈は今更なので諦念の感情しか浮かばない。
残りの二人はまるで関心がない。
「順番は僕から時計回りで。とりあえず名前、食べ物の好き嫌い、あとは好みの色と出身地、それと希望の担当を言ってもらおうかな」
「「「・・・・・・」」」
「余計なの多くね?」
「―別に強制じゃないと思う」
面倒くさそうな顔をする光に、あっさりと霧原の提案を砕くのはなんとドライバー男子だ。多分、強制だが。一方霧原は沈黙する女子三人をまるで見ていなかったかのように無視をして、口を開いた。
「改めて僕の名前は霧原諒。戦略担当です。
好きな食べ物は牛乳寒天、嫌いな食べ物はピーマンとレンコンとちくわ、あとトマト。好きな色は青で東京出身だよ」
「「「・・・・・・」」」
(小学生じゃん!)
こんなに爽やかな顔で、意外と嫌いな食べ物が幼稚だ。
またしても微妙な顔をする五人を無視して、諒は光に目線を送った。
「はあ、俺は鳳光。救命担当。えーっと食べ物は大体好きだな。しいて言うなら海鮮類。嫌いなのは肉とかイカの嚙み切れないやつ。好きな色は赤と黄色で愛媛出身」
澪と諒は目を見開く。
「ええ!?でも養成学校は東京本校だったよね?」
「ああ、もしかして本校のほうが授業の質が高いから?」
「そんなところだ」
光は軽く流す。続いて玲奈が口を開いた。
「私は清水玲奈。救命担当よ。好きな食べ物はグレープフルーツとタルト。嫌いな食べ物は玉ねぎ。好きな色は橙色で茨城県出身。よろしくね」
「平凡な名字は平凡な県出身なんだな」
「は?喧嘩売ってんの?」
光にからかわれた瞬間、お姉さんキャラは何処に、ヤンキー姉さんに豹変する玲奈。
(玲奈は結構引きずる性格なのに~!)
澪は険悪な空気を換えようと、慌てて言葉を発す。
「私は帆梶澪!潜水担当で好きな食べ物はりんごとするめいか!嫌いな食べ物は納豆とキャラメルだよ」
途端に空気の温度が下がった気がした。全員澪のほうを複雑な顔で見てくる。なんだ、その目は。
「するめいか、ね」
「するめいか」
「するめいか」
「するめいか・・・・・・?」
「癖強」
なぜか諒には苦笑いされ、玲奈と光は遠い目で復唱される。お団子女子は不可解な表情で首を傾げ、ドライバー男子には、辛辣なツッコミを入れられる。
(ごめんなさいね、癖強で!)
まあ、こうなることは分かっていたが、やむなし。
「あー、好きな色は水色で埼玉出身です」
「ダサいたまか」
次の瞬間、彼の脳天に拳骨―あ、いや、雷が落ちた。はい。
「再度それ言ったら訴訟も辞さない」
「はひ」
「ははは、哀れだね」
キミらのほうがよっぽど癖強だよ。
さて、次は控えめガールである。顔を上げると柔らかい髪がさらりと揺れた。
「・・・・・・桜宮百合です。よく『さくらみや』と間違えられますが『おうみや』なのでお見知りおきを」
(なかなか読みずらい名前だな)
名字のほうは初見で『さくらみや』と呼んでしまいそうだし、名前のほうは『ひゃくごう』とも読める。
流石に可憐な彼女に、巨漢のようなゴツイ名前はないと思うが。
「情報担当で、好きな食べ物、嫌いな食べ物は特にないです。好きな色は桃色で京都出身です」
(うわーピッタリ)
想像通りで少し嬉しい。そして最後は最も謎で癖強なドライバー男子だ。
「食べ物は好き嫌いなし。色は緑で担当は見ての通り、出身は愛知。以上」
(にべもない)
木で鼻を括るような態度の簡素な自己紹介だ。ちなみに視線は自己紹介中も機械にロックオンである。一度たりとも視線をこちらに向けない。
「えーっと、あの、名前は?」
「・・・・・・・・・・・・日向」
「それは名字と名前どっち?」
「別に僕のこと呼べればなんだっていい」
つまり、教える気はないと。心の壁がエベレストなみに高く、ロシアのオイミャコン村なみに冷たい態度。心を開くのに五十年はかかりそうだ。
百合は親近感があるのか、気づかわし気に日向を見ている。だが話しかけない。
笑みを絶やさないのが特徴の珍しく諒は笑顔を崩し、頭を抱えている。どんまい。
「これは前途多難かなぁ」
「会話が成立しないのは、致命的ですね」
遠くの方で拓海と帰蝶がこぼした呟きは、澪たちには聞こえなかった。
またしても新キャラ登場。癖強で強烈です。
面白かったらブクマコメよろしくお願いします。




