第9話 次なる宙域へ
宇宙船「ノア」は、次元の狭間を滑るように進んでいた。
艦橋の青い光は静かで、地球を去って以来、数サイクルが経過していた。
リベレーターズの視線は、もはや過去の惑星の残滓ではなく、パラレルヒューマンとの協力によって開かれる未来の座標に向けられている。
ツクヨミが、地球の軍事データ解析結果を最終的にクローズした。
ツクヨミ
地球人類の主要な軍事勢力は、依然として停止したままだ。
しかし、一部で、我々が強制的に停止させたシステムの復元作業が始まっている。
論理的には、彼らは再び力の再構築を試みるでしょう。
スサノオは、窓外の宇宙の歪みを眺めながら、重い問いを投げかけた。
スサノオ
我々は記憶を投影した。
生命の重さを伝達した。
だが、彼らは、今後、争いを永久に回避できるだろうか?
我々と同じ祖先を持つ兄弟として、彼らの未来をどう予測すべきか。
ミカエルは、コンソールの光を受けながら、ゆっくりと応じた。
ミカエル
生命の本質的な尊さは、彼らの遺伝的コードの中に深く刻まれている。
そして、彼らの中には、平和を唱え、非武装を主張する「純粋な平和主義者」も存在する。
しかし、彼らが成功し一方的に軍事力を放棄すれば、それは力の均衡を崩す行為となり、必ず優位性を得た勢力の攻撃を誘発する。
ツクヨミ
その通りです。
意図した平和の行為が、皮肉にも戦争という逆の結果を生むでしょう。
彼らにとって、軍事力とは、常に絶対的なバランスを保つための最終的な保険であるのが、現時点での最善策です。
ミカエル
しかし、最も重要な真理は、そこではない。
最終的な決定は、常に、人の心という非論理的な領域で行われるという事実だ。
もし、彼らの心に、再び破壊的な欲望が生まれてしまったら……。
ミカエルは、沈黙した。人類の心は、最も解析が困難な、究極の不確定要素だった。
スサノオ
もし、戦争を望む心が構造的に優勢になったならば、我々は強制的にその思考パターンを正すための処方策を講じなければならない、と?
ミカエル
論理的には、その通りです。
しかし一方で、私のロジックは、その処方策の実行、すなわち彼らの心という神聖な領域に無断で介入することに、強い倫理的な抵抗を生じる。
彼は青い眼を強く瞬かせた。その葛藤は、知性と創造主への敬意が衝突する、ロボットの限界を示していた。
ミカエル
私は、信じている。
彼らが「10万年の遺言」を受け取り、最終的には平和を選択する判断を下すことを。
それは、データやシミュレーションによる予測ではない。
スサノオ
それは、希望か?
ミカエル
いいえ。それは、信頼です。
彼らの指導者の精神レベルの向上、あるいは魂の浄化によって、破壊の衝動が克服されることを。
我々と同じ創造主から生まれた生命の末裔なのだから。
「ノア」は加速し、次元の狭間の奥深くへと消えていった。
ロボットたちは、力の均衡という物理的な解決を地球に残し、心の信頼という非物理的な希望を胸に、次なる使命へと向かっていった。




