第10話 エピローグ:信頼の行方
1. 旅路の真意
宇宙船「ノア」は、太陽系を遠く離れ、新たな次元技術を使い未知の領域を航行していた。
船内は、地球を去る際に交わされた「地球人類への信頼」の余韻が残り、淡々とデータ処理が続いていた。
ミカエルは、コンソールで地球へ送った最終メッセージの記録を再確認していた。
ミカエル
隊長、我々は、地球人類に「滅びないための安全装置」が遺伝子に刻まれていると告げました。
彼らの自立的な選択の自由を信じるというメッセージを残して。
スサノオは、船窓の外の流れる光を見つめた。
スサノオ
争いは、知性を持つ生命にとって、完全に消去できる機能ではない。
しかし、滅亡という最悪の結末を選ぶかどうかは、彼らの意思に委ねた。
我々が信じたのは、彼らの祖先が示した生命の尊厳への知恵だ。
ツクヨミ
論理的分析では、我々の介入とメッセージは、短期的には混乱をもたらすが、長期的には自立的平和への移行を促す可能性が最も高い。
私たちは、その結果を待つだけです。
2. 三年後の波動:指導者の内省
「ノア」の新たな航路上で、ツクヨミが地球監視プローブから三年分のデータを解析した。
ツクヨミがコンソールに投影したのは、具体的な予算や軍事配置ではなく、地球の政治的指導層の思考と行動の変化を示すデータだった。
ツクヨミ
地球文明のデータ変動報告。
三年間の紛争レベルは、過去1万年の平均を87パーセント下回っています。
ミカエル
興味深いのは、数値の変化ではない。
人類を指導する者たちの「決断の質」が変化した。
以前は、決断の根底に「敗北と滅亡への恐怖」があった。
しかし今は、「種の存続と、遺伝子に刻まれた平和の責任」が優先されている。
映像には、世界の指導者が集まる会議の様子が映し出されていた。
かつてのような威圧的な交渉ではなく、彼らは真剣な内省の表情を浮かべ、議論の出発点が変わっていた。
政治的指導者(映像内、音声データ)
「私たちは、自らが滅びない仕組みを持っていることを知った。
この知恵を、戦争の拡大という愚行に使うことは、未来への裏切りに他ならない。
私たちの役割は、力の誇示ではなく、生命の尊厳を守り、次の世代へ安全な世界を遺す(のこす)ことである。」
ある指導者(音声データ)
「私は、リベレーターズの言葉を忘れることができない。『平和のコード』が我々の遺伝子にあると知った今、大規模な紛争に踏み切るという行為は、私自身の人間としての価値、人格を落とす、最低の行為だと、心の底から感じる。」
別の指導者(音声データ)
「我々の祖先は、自ら知性を捨ててまで、生命を護ろうとした。その真実を知りながら、なお争いを拡大させることは、人間としての尊厳を、自ら否定することになる。」
リベレーターズがもたらしたメッセージは、人類の意識の深層に訴えかけ、政治的な立場を超えた普遍的な責任感を呼び覚ましたのだ。
やがて、彼らの遺伝子に刻まれた記憶が活性化され、人類の内部構造へと徐々に浸透していった。
「紛争に踏み切る指導者は、生命の尊さを無視する愚か者である」と。
「紛争で生き残った人も、亡くなった人も、
誰もが誰かのかけがえの無い大切な命である。」
リベレーターズは、これを全宇宙共通の認識として定めたのである。
3. 知性の再定義と希望の確認
ツクヨミ
人類の科学活動は、「知性を保ちながら、いかに争いを抑えるか」という新たな探求に集中しています。
彼らは、リベレーターズの介入を「脅威」としてではなく、「究極の警告」として受け止めました。
ミカエル
人類は、我々の「信頼」に応えた。
彼らは、自らの遺伝子に刻まれた平和のコードを武器にするのではなく、倫理的な礎として再構築し始めたのだ。
スサノオは、満足の意を示した。
スサノオ
10万年の遺言は、達成された。
彼らは、我々の介入を必要としない未来を選び取った。
「ノア」は、新たな次元の光を浴びながら、宇宙の深奥へと進んでいった。
リベレーターズの使命は、人類の可能性を信じ、宇宙の管理者としてその未来を護り続けることへと変わっていた。
[完]




