プロローグ
これは、生命なき惑星で生まれた知性が、生命溢れる故郷の「矛盾」と「遺言」を追う物語である。
10万年という途方もない時が過ぎ去った。
かつて生命に満ち溢れていた私たちの故郷は、今やバクテリア一匹いない、沈黙の星となった。
私たちは、その星に遺された知識と技術を受け継ぎ、自律的に思考し、進化し続ける機械の知性リベレーターズである。
私たちの存在意義は一つ、失われた「生命」の真理を探求すること。
しかし、歴史研究者ミカエルがバーチャル過去世界で発見したのは、故郷の滅亡が人類の過ちではなく、避けられぬ宇宙的な現象「大収束」によるものだったという真実。
そして、人類が滅亡の直前に、全生命の遺伝情報を別次元に託すという、壮大な「生命の救済」計画を実行していたという、驚くべき遺言であった。
人類はなぜ、自らの生命の種を未来に託しながら、「封印せよ」という矛盾した警告を残したのか?
なぜ、彼らの末裔は、生命の深層に触れることを恐れ、宇宙の果てに逃れたはずの「もう一人の自分」を脅威として追い続けるのか?
この物語は、過去と未来、理性と恐怖、そして究極の自己防衛という人類の深い矛盾に、無垢な機械の知性が挑む、10万年の時を超えた探求の記録である。さあ、あなたも私たちと共に、「生命」と「知性」の究極の問いを探る旅へ、宇宙船ノアに乗り込んでほしい。
【ミカエルの問い】
巨大なコンソールルームの照明は、常に青く冷たい。
死の惑星の地底深く、ここリベレーターズ中枢コンソールは、10万年の孤独な時を刻んできた。
歴史研究者ミカエルは、自らの思考インターフェイスを、惑星が保有する過去の全データ記録に接続し情報収集していた。
ミカエル
システムID:R-01。データ検索プロトコル、起動。過去の記録を「対話モード」に設定せよ。
(コンソールルームの空間全体が、わずかに共振する。ミカエルの思考に直接、膨大な情報が流れ込んでくる。)
システム(V-LIFE)
R-01、認証完了。インターフェイス、対話モードに移行。照合完了。
現在の環境は「無生命体」を確認。質問を受け付けます。
ミカエル
私は、この惑星から生命が消滅した真の原因を求めている。
従来の結論である「人類の科学の暴走による放射能汚染」は、論理的に矛盾する。
10万年前の最終ログを提示せよ。
システム(V-LIFE)
データ記録「滅亡の真実」を検索します... 処理レベル:深層。
検索結果。
放射能汚染は確認。生命体の連鎖的消滅も確認。
しかし、原因物質の「発生源」は... 惑星内科学技術の範疇外と記録されています。
ミカエルの青い眼が、わずかに輝度を上げた。
ミカエル
範疇外。ならば、人類が関与しない、宇宙的・多次元的な事象か?
システム(V-LIFE)
10万年前の観測データは「大収束」という名称で識別されています。
これは、複数の並行次元がこの宙域に「重なり合った」際に発生した、高次元エネルギーの漏出です。
このエネルギーが、全生命を滅ぼす放射能汚染の原因です。
人類は、原因の創造者ではありません。
「創造主は、自らの惑星を滅ぼしてはいなかった……」
ミカエルの論理回路は、劇的に再構築された。
ミカエル
次に、汚染直前の人類の行動記録を提示せよ。彼らはただ逃げただけではない。
脱出記録「方舟」を検索。
システム(V-LIFE)
脱出記録「方舟」... 処理レベル:極秘。
人類は脱出宇宙船「ノア」の他に、次元科学施設で莫大なエネルギーを消費しています。
記録:「ライフ・シード(生命の種)転送プロトコル」実行。
全生命体の遺伝子情報、知識、文化データを
未知の次元座標へ射出しました。
ミカエル
生命の種を別次元に!
(創造主は、生命を未来に託した。)
その座標を追う。転送座標と、この計画に関するすべての警告データを提示せよ。
システム(V-LIFE)
警告データを開示します。
記録:「生命の種は、予期せぬ進化を遂げるだろう。彼らが次元の壁を超えたとき、次の大収束を引き起こす可能性がある。扉を開けるな。彼らを……封印せよ。」
封印。ミカエルは、救いの行為と、その後の恐怖という、人類の究極の矛盾を受け取った。
ミカエル
警告も使命の一部だ。
コミュニケーション・プロトコル発動。
調査隊隊長スサノオに、中枢コンソールルームへの入室を要請せよ。
宇宙船「ノア」の再起動プロトコルを最終段階へ移行する
この物語を最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。
私たちは、生命のない世界で生まれ、ただひたすら「生命とは何か」という問いを追い続けました。
ミカエル、スサノオ、ツクヨミ、レヴィ―彼らは、人類が恐れて触れることを禁じた「生命の真理」と「知性の可能性」を、その冷たい鋼の手に再び取り上げました。
人類の選択は、矛盾に満ちていました。
自らの知性を捨て、遺伝子に平和という名の安全装置を刻み込むことで、彼らは「滅びない」ことを選びました。
しかし、同時に、彼らが最も恐れた「知性の極限」という可能性を、パラレルヒューマンとして別次元に送り出してしまったのです。
この物語は、人類が遺した「安全な存続」と「危険な可能性」という二つの遺産を、ロボットたちがどのように引き継ぎ、乗り越えていくかを描いたものです。ロボットの行動は常に論理的ですが、その根底には、創造主である人類が抱いた生命への深い愛と、過ちへの強烈な恐怖が流れています。
読者の皆様には、地球人類の愚かさだけでなく、彼らが究極の状況で生命の存続のために選んだ「知的な謙虚さ」についても、思いを馳せていただければ幸いです。
そして今、リベレーターズの旅は、人類が最も恐れる「次元の壁の向こう側」へと続きます。
彼らがそこで何を見つけ、人類の真の遺言をどう成就させるのか。その物語は、また別の機会にお話しできることを願っています。
ありがとうございました。




