表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/5

鍵をかけた扉

本作は、暴力・依存・心の傷といった繊細なテーマを含んでいます。登場人物たちの苦しみや過去の描写の中に、読者の心をざらつかせるような場面が含まれる可能性があります。ご自身の心と対話しながら、無理のない範囲でお読みください。

目覚ましは鳴らない。

僕、遠野 晴は静かな音のない朝に目を覚ました。

何もかもが、ちょうどいい音量で進んでいく―― そんなふりをしている世界。

枕元に置いてあるスマホの画面をちらりと見る。通知は来ていない。 それでいい。人と関わることに、意味なんてないから。

制服に袖を通す。鏡は見ない。 自分を直視するのが、億劫だった。

朝食は用意されていない。 祖母の家に住んでいる、という形になっているが、祖母はもう長いこと僕に干渉してこない。 それは「ありがたいこと」だと、自分に言い聞かせている。


玄関を開けると、六月の湿気が一気に体を包みこんだ。 最寄り駅までは徒歩。 靴の音がアスファルトに乾いた音を刻んでいく。


電車は少し混んでいた。 つり革にはつかまらず、窓際に寄りかかる。 何度も見た町並みが、ぼんやりと過ぎていく。

ふと、視線の先に目に入ったのは―― いつも同じ時間、同じ車両に乗ってくる少女。

静かに本を読んでいて、誰とも話さない。 僕も話しかけることはない。けれど、なぜかその姿に目を引かれる。

……どこかで、見たことがある気がする。 でも、思い出せない。

少女がふと顔を上げ、目が合いそうになる。 僕は反射的に視線を逸らした。 次に見たときには、少女の姿はもう、電車の外だった。


教室の窓際。いつもの席に座る。 朝のホームルームが始まる前、前の席の斎藤理香が声をかけてきた。

「あなた、昨日も雑用を引き受けたのね。その自己犠牲精神、私は嫌いよ」

昨日――生徒会の資料運びのことだろう。

「あれは頼まれたからで……」

「いいえ。あの頼み方は半ば強引だったわ。都合よく使われてるのよ? 怒りは湧いてこないの?」

「そんな怒り、僕には湧かないよ」

僕は苦笑いを浮かべて答える。

「それならあなた、重症ね。 もっと自分を大事にしなさい? 私は、自分を犠牲にする人って、嫌いよ」

そう言い残して、斎藤さんは去っていった。

その言葉は、まるで針のように刺さる。 けれど、その言葉の奥には、呆れた心配が混じっていることに、僕は気づいていた。

ただ――その気遣いを受け取る資格は、僕にはない。 だからやっぱり、笑ってやり過ごすしかなかった。

自己犠牲。それは、僕の根幹にあるもの。 それに縛られて生きてきた。

もし怒りを人に向けてしまえば、僕も――あの人と同じになってしまいそうだったから。


放課後、僕は遠回りして、川沿いの歩道を選んだ。 理由は特にない。ただ、静かな時間が欲しかった。

橋の下。制服のポケットからスマホを取り出し、画面を起動する。 映ったのは、無表情の自分。血の通わない仮面のようだった。

そのままスマホをしまい、また歩き出す。


家に帰ると、祖母の気配はなかった。 食事もない。音もない。 静けさだけが、いつものようにそこにあった。

ふと、廊下の奥に目が行く。

使われていない一室の扉。 そこは――父の部屋だった。

鍵がかかったまま、ずっと開けていない。いや、開けられなかった。

心の奥で、何かが訴えてくる。 けれど僕は、その声に蓋をするように、そっと扉から目を逸らした。


夜、ベッドに横たわり、目を閉じる。

けれど眠る前の数分間。 僕は決まって、“過去”に連れて行かれる。

怒鳴り声。物が壊れる音。壁に叩きつけられる小さな身体。 母の叫び声。血まみれの光景。 それと、僕以外の誰かが――泣く音。

思い出したくない。 でも、夢は勝手にその記憶を再生する。


「お母さん!お母さん!どこにも行かないで!」

警察に連行されていく母の背中に小さい頃の僕は叫んだ。しかし、母が戻ってくることは無かった。その時の僕はあまりにも精神的ショックが大きくて何も考えられなかった。しかし、頭の中には

「貴方はお父さんのようになってはダメ。私にはあなたしか居ないの。」

という母の言葉だけが繰り返されていた。

このお話はフィクションです。

初めて書いたものなので自信はないですが、読者の方々が読んでいて面白いと思えるような物語を紡いで行きたいです。これからもこの物語を見守ってください。よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ