表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

3/6

イヤーエステ60分コース アンナ3

「……エドガーさん?」


 立ち上がって辺りを見回してみるが、あの手が綺麗でブルーの服を着た男はいない。

 代わりに遠巻きにしていた侍女やお付の者が、いぶかしげな視線を向けた。

 その時、アンナのドレスの裾から紙が一枚ポロリと落ちた。

 彼女は身をかがめて、それを拾い上げる。


「こ、これは……!」


 それは一枚の絵であった。フワフワの白い雲のような布の上に、黄色や茶色の垢がたっぷり乗ってる。その下には見たこともない、文字のようなものが書かれていた。

 彼女は知る(よし)もないが、それはポラロイド写真と呼ばれるもので、マジックで書かれたのは『こんなに取れました!』という日本語である。

 アンナは素早く絵を懐に隠し、辺りをキョロキョロと見まわす。


「夢みたいだけど、夢じゃないわ」


 その証拠に、耳の奥の不快感がキレイサッパリ消えている。

 それにあの甘くて良い匂いのオイルの残り香が、まだほのかにするのだった……。

 アンナは入り口いた衛兵に、エドガーという男が出て行かなかったかと尋ねた。


「エドガー!? 姫様。それはどなたでしょうか!?」


「ちょ、ちょっと……あなた、声が大きいですよ!」


 衛兵の声の大きさに、アンナはビックリした。

 叱られた衛兵は、キョトンとした後で申し訳なさそうに声を落として言う。


「ハッ。す、すみませんでした、アンナ様……」


「次からは気を付けてくださいね」


 衛兵と別れて、他に知ってそうな人はいないかと歩き出すと、侍女が何か言いたげにモジモジしていた。


「どうしたのですか? 気になることがあるなら、遠慮なく言ってください」


「はい……ええと、その。恐れながら姫様は、ずいぶん前から声を張り上げないと、お返事なされないことが多くって。先ほどの衛兵に、悪気はなかったと思うのです」


 そう言えば、今日は風のそよぐ音が聞こえる……。

 チュンチュン……ピチチチ。

 耳をすませてみると、どこかで楽し気に遊ぶ小鳥たちの歌が響いた。

 温かな陽の光に照らされた中庭には、自然の音が満ちていた。


 その夜、アンナは自室で耳垢の写真を取り出して、それを見つめてホウと息を吐く。


(どうして? 自分の耳垢なんて汚くて恥ずかしくて、もう二度と見たくないはずなのに……誰にも見られちゃいけないのに。どうして、わたくしはこの絵を見てしまうのかしら……?)


 ドッチャリ取れた耳垢を見つめていると、耳の奥にあの時の快感が蘇る。

 ゴソゴソと探る音、耳垢をこそげ落とすカリサクという音。

 怖かったはずのハサミの音まで、今は全部が懐かしい。


「あの場所は一体……? エドガーさんには、どうしたら会えるの?」


 また耳垢がたくさん溜まれば、あの人の元へ行けるのだろうか?

 アンナは悩まし気にそんなことを考えながら、そっと己の耳の穴に触れた。

ブクマ評価お願いします!


次は、『肩こり解消40分コース ハリー』

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ