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2/6

イヤーエステ60分コース アンナ2

「……耳かき?」


「はい。このような器具です」


 男が手にした『耳かき』は、一見すると木製の匙に見えた。柄の部分は人が持つのに適した長さで、先端は妖精が使う食器みたいに薄くて小さい。

 それを見て、アンナは背筋がゾワゾワした。それは恐怖とも期待ともしれない、不思議な身震いだ。


(あぁ! あんなもので耳の奥を掻いてもらったら、きっとものすごく気持ちいいに違いないわ!)


 耳に棒を入れられる恐ろしさと、やってくるであろう快楽をしばらく天秤にかけた後、やがてアンナは頷いた。


「エ、エドガーさん。どうぞ、耳かきをお使いになってください。……お、お願いしますわ」


「かしこまりました。では、耳かきでお掃除させていただきますね」


 イヤースコープの画面に、耳かきの先端が映し出される。

 小さな匙が茶色い耳垢の先端を、細かく何度も掻き始めた。


 コリコリコリコリ……カリカリカリ。カリッカリッ……クシクシクシ……。


 振動が固い垢を通して痒い所に響いて、『気持ちいい』に一歩足りない刺激を与える。

 アンナは鳥肌を立てながら、ヤキモキしつつ耳垢が剥がれるを待った。

 果たして、その時はやって来る。

 

 ザクッ……ベリッ……グチッ! ギチギチッ……ゾリッ! ザザァ、ズボォ!


(ーーー~~~ッ!!! は、剥がれたわ……!)


 頭の裏がビリビリする……。

 ずっと痒かった所が空気に触れて、ヒリヒリとヒンヤリの中間の刺激を訴えている。


 ズリッ、ズリッ……ズズズゥ……。


 イヤースコープが、耳垢が引きずり出される絵を映している。

 真っ白な布地に、茶色い耳垢がポロリと落ちた。


「庵野様! 取れましたよ、ご覧になってください!」


 男が嬉しそうに、アンナの目の前に布を持ってきた。

 フワフワの雲みたいな布の上には、今しがた取れた茶色い耳垢の他に、大きくて黄色い耳垢がいくつも()ってる。


「エドガーさん! は、恥ずかしいです……意地悪しないでください」


 ()ねたようなアンナの言葉に、男は苦笑した。


「そうですか? 大きな耳垢が取れると、喜ばれるお客様が多いんですよ」


 男は耳かきを手にすると、残った耳垢を少しずつ掻き取り始めた。

 ずっと痒かった所が、小さな匙でチョコマカと何度も擦られる。

 耳かきはよくしなり、余分な力をほどよく逃がし、ちょうどいい強さで掻いてくれる。

 これは、たまらない気持ちよさだ……。


 サク、ザク……サクリ……ズゾッ。匙が上下するたびに、先端に黄色い耳垢が盛り上がる。

 それを何度も回収し、また耳かきが入ってきて、痒みの元を擦りだす。

 アンナは口をポカンと開けて目をつぶり、プルプルと震えて快楽に耐えた。


(す、すごい……。耳の穴って、こんなに深いところまで触れるんだ……!)


 まるで脳を直接いじられてるみたいだった。

 頭の中でバリバリ音が鳴り響いてるのに、痛みはちっとも感じない。

 不思議な感覚だ。

 耳かきが終わると今度は綿棒が入ってきて、こびりついた垢を回転しながら優しく削り落とす。


 ゾゾゾゾゾッ……ズズズズズッ……ジョリジョリジョリジョリ……ショリショリ。


 ……終わった。


「庵野様。次は、反対の耳を綺麗にさせていただきます」

 

「ふえっ!? あ、は、はいっ!」


 夢見心地だったアンナは、その言葉にハッとする。


(そ、そうだった。耳の穴は、二つあるんだったわ)


 今の快楽が、もう一度。

 アンナは期待に胸を膨らませた。


 両耳が終わると、男は手にオイルをつけてアンナの耳を揉み始めた。

 グニグニ……ムニッ……グミグミ……グリュ……。


「耳にはツボがたくさんあって、こうしてマッサージすることで血行が良くなります」


「……そうなんですか」


 アンナはもう、ほとんど聞いていなかった。

 オイルは甘くて良い匂いがして、さわられた所がポカポカと温かくなる。

 長くてしなやかな男の指を敏感な耳で感じながら、アンナは自分が眠りに落ちていくのを感じた……。


 ハッと気が付くと、そこはお城の礼拝堂だった。

 神に祈るポーズのまま、アンナは自分が寝こけていたことを知った。

次は、アンナ3

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