イヤーエステ60分コース アンナ2
「……耳かき?」
「はい。このような器具です」
男が手にした『耳かき』は、一見すると木製の匙に見えた。柄の部分は人が持つのに適した長さで、先端は妖精が使う食器みたいに薄くて小さい。
それを見て、アンナは背筋がゾワゾワした。それは恐怖とも期待ともしれない、不思議な身震いだ。
(あぁ! あんなもので耳の奥を掻いてもらったら、きっとものすごく気持ちいいに違いないわ!)
耳に棒を入れられる恐ろしさと、やってくるであろう快楽をしばらく天秤にかけた後、やがてアンナは頷いた。
「エ、エドガーさん。どうぞ、耳かきをお使いになってください。……お、お願いしますわ」
「かしこまりました。では、耳かきでお掃除させていただきますね」
イヤースコープの画面に、耳かきの先端が映し出される。
小さな匙が茶色い耳垢の先端を、細かく何度も掻き始めた。
コリコリコリコリ……カリカリカリ。カリッカリッ……クシクシクシ……。
振動が固い垢を通して痒い所に響いて、『気持ちいい』に一歩足りない刺激を与える。
アンナは鳥肌を立てながら、ヤキモキしつつ耳垢が剥がれるを待った。
果たして、その時はやって来る。
ザクッ……ベリッ……グチッ! ギチギチッ……ゾリッ! ザザァ、ズボォ!
(ーーー~~~ッ!!! は、剥がれたわ……!)
頭の裏がビリビリする……。
ずっと痒かった所が空気に触れて、ヒリヒリとヒンヤリの中間の刺激を訴えている。
ズリッ、ズリッ……ズズズゥ……。
イヤースコープが、耳垢が引きずり出される絵を映している。
真っ白な布地に、茶色い耳垢がポロリと落ちた。
「庵野様! 取れましたよ、ご覧になってください!」
男が嬉しそうに、アンナの目の前に布を持ってきた。
フワフワの雲みたいな布の上には、今しがた取れた茶色い耳垢の他に、大きくて黄色い耳垢がいくつも載ってる。
「エドガーさん! は、恥ずかしいです……意地悪しないでください」
拗ねたようなアンナの言葉に、男は苦笑した。
「そうですか? 大きな耳垢が取れると、喜ばれるお客様が多いんですよ」
男は耳かきを手にすると、残った耳垢を少しずつ掻き取り始めた。
ずっと痒かった所が、小さな匙でチョコマカと何度も擦られる。
耳かきはよくしなり、余分な力をほどよく逃がし、ちょうどいい強さで掻いてくれる。
これは、たまらない気持ちよさだ……。
サク、ザク……サクリ……ズゾッ。匙が上下するたびに、先端に黄色い耳垢が盛り上がる。
それを何度も回収し、また耳かきが入ってきて、痒みの元を擦りだす。
アンナは口をポカンと開けて目をつぶり、プルプルと震えて快楽に耐えた。
(す、すごい……。耳の穴って、こんなに深いところまで触れるんだ……!)
まるで脳を直接いじられてるみたいだった。
頭の中でバリバリ音が鳴り響いてるのに、痛みはちっとも感じない。
不思議な感覚だ。
耳かきが終わると今度は綿棒が入ってきて、こびりついた垢を回転しながら優しく削り落とす。
ゾゾゾゾゾッ……ズズズズズッ……ジョリジョリジョリジョリ……ショリショリ。
……終わった。
「庵野様。次は、反対の耳を綺麗にさせていただきます」
「ふえっ!? あ、は、はいっ!」
夢見心地だったアンナは、その言葉にハッとする。
(そ、そうだった。耳の穴は、二つあるんだったわ)
今の快楽が、もう一度。
アンナは期待に胸を膨らませた。
両耳が終わると、男は手にオイルをつけてアンナの耳を揉み始めた。
グニグニ……ムニッ……グミグミ……グリュ……。
「耳にはツボがたくさんあって、こうしてマッサージすることで血行が良くなります」
「……そうなんですか」
アンナはもう、ほとんど聞いていなかった。
オイルは甘くて良い匂いがして、さわられた所がポカポカと温かくなる。
長くてしなやかな男の指を敏感な耳で感じながら、アンナは自分が眠りに落ちていくのを感じた……。
ハッと気が付くと、そこはお城の礼拝堂だった。
神に祈るポーズのまま、アンナは自分が寝こけていたことを知った。
次は、アンナ3