アロマヘッドスパ60分コース クリス3
と、お湯が止まった。
チュ……チュ。プチュ……プチョ。
ムニョ……クチュ、クチュクチュ、クチュッ。
頭の上で何かが漏れ出る音、それがかき混ぜられる音がする。
「シャンプーつけますね」
その声と共に、覆うように両手が頭に被さった。
ヒヤリとしたジェル状の何かが、髪と頭皮にじんわり滲む。
赤毛の男の指が立てられて、指先の腹で頭皮をリズミカルに、揉むように動き出した。
シャワシャワシャワ……シャワ、シャカシャカシャカ……。
指は前髪の生え際、こめかみ、耳の横、後頭部へとゆっくり移動していく。
コシュコシュコシュ……クリックリッ……ゴシゴシゴシ、ゴシュゴシュ。
かき混ぜられた部分が、冷たくてスースーする……。
先ほどつけられた、薬液の効果だろうか?
お湯で温められて血行が良くなっているのに、頭皮が冷たい感じがするのは奇妙な感覚だ。
(お、おおう……人に頭を洗ってもらうのって、こんなに気持ちよかったのか……)
クリスはすっかり脱力して、口をポカンと開けて目をつぶってしまう。
「お痒い所はありませんか?」
「えっ? あ、あの、頭頂部の左側……」
急に話しかけられて、素直に答えてしまう。
指先は指示した場所へと的確に飛び、軽く爪を立てられた。
ショリショリショリ、シャリシャリシャリ……シュリ。
爪は、痒みの元をピンポイントで刺激する。
『掻かれる』と『撫でる』の中間くらいの、ごく弱い刺激である。
今まで、ただなんとなく頭が痒いから掻いていたが、本当に痒いのはそこなのだと、そう自覚するような正確な場所だ。
クリスは背筋がゾクゾクした……。
「お湯で流します」
シャワー……ショワショワショワ……。
シュワワワッ。
また、あの柔らかくて優しいお湯の流れだ。
薬液を落とすように、指先が頭皮全体を撫でまわす。
入念に、入念に。毛穴にギチギチに詰まった皮脂が薬液に溶けて、周りを押されてズルズル絞り出されるような。そんな妄想をしてしまうような、力加減だ。
お湯が途切れた。髪をフワフワの布で拭われる。
「では、スパクリームでのマッサージに入ります」
プチョッ、ムニュニュ……ニョルッ。
頭皮に、クリームを撫でつけられる。
いい香りだった。バニラのような、黄桃のような、甘い香りだ。
スーッ、シャ、スーッ……シャ。
指先の他に、目の粗いクシを使っているらしい。
さきほどの薬液の効果か、頭にはまだスースーとした清涼感が残っている。
そんな頭を挟むようにして、手で側頭部をギューっと挟まれた。
中指先は頭頂へと添えられている。
こめかみ、耳の上。手の平の肉厚な部分で、その部分をグリグリと押される。
力強い。少し痛みを感じるほどだ……。
グーーー…………ッパ!
と、しめつけられていた頭蓋骨が解放される。
同時に、血行が戻って目の裏が赤くなってフワっとし、こめかみがカーッと熱くなる。
後頭部と首をつなぐ筋肉に、親指がグイっと入ってきた。
ぐり、ぐり……ぐいっ。
頭を持ち上げられて、可動域を確かめるように、何度も左右に回される。
決して無理やりではなく。一回ごとに、少しずつ筋肉をほぐすように。
ぐっ……ぐいっ……ぐり……ぐっ……ぐいっ……ペキィ。
後頭部から肩にかけて、温度が上がって徐々に首の動く角度が広がってきた。
頭頂部を、親指で強く押される。
先ほどほぐされた肩が、今度は上から押されて少しだけ沈み込む。
ぐぐぐぅー~……ッパ!
髪の生え際にそれぞれの指先が当てられ、頭皮を前後左右にスライドさせるように動かされる。
グニッ、グニッ、グニッ、グニグニグニグニグニッ。
指先は左右に押したり開いたり、あるいはグルグルと回転させたり、縦横無尽に頭皮を動かしまくった。
この頃にはもうクリスは、連日の仕事の疲れとあまりの気持ちよさに、半分寝ているような状態である。
(な、なんだ、この心地よさは……。頭を触られてるだけだというのに、人生で一番気持ちいいぞ……!)
「髪をコンディショナーで整えます」
耳に遠く、男の声が響く。
また髪全体にクリームが回り、柔らかなお湯で流された。布で水気を拭かれる。
「ドライヤーで髪を乾かします」
クリスは、赤毛の男の声を聞き、「ああ」とか「うう」とか、そんな声を出す。
もう、ほとんど眠ってる状態だ。
フォーーーーーーーーーン!
奇妙な高音と共に、熱風が髪に吹き付ける。
髪の水分が飛ばされて、急速に乾いていくのを感じる……。
それと共に、男の指がパタパタと軽く頭皮を叩き……。
(あ、ダメだ……。これは完全に寝てしまう……)
まあ、いいか。
寝たからと言って、叱られることもあるまい。仕事の時間が削られるのは困るが、これほど気持ちのいい眠りならば、その価値はある。
クリスはそう思い、眠りの中に落ちていった。




