表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/42

食事会。

中にはいると懐かしい日本食だらけだった。

肉じゃが、卵焼き、唐揚げ。そして…たこ焼き?


ここのレストランは日本食を食べたい王妃様が、レイカさんに料理を作って貰うところなんだそうだ。


わらじサイズのコロッケにメンチカツ。

「猫の目食堂の料理みたい。」

前世の職場の近くの商店街にあった大衆食堂だ。

昼休みに良く通った。

そこは大きなオカズが名物だった。

わらじシリーズと言っていた。


「え、あなた今なんて言ったの!」


レイカさんが弾けるように寄ってきた。

何と、そこの食堂の若おかみだったのだ!

眉間のホクロが印象的でしたよね、というとはたかれた。

大仏みたいなホクロはコンプレックスだったのだそうだ。ごめんなさい。

確かにあの優しいおかみさんの印象がある。

私よりひとつか二つくらい上だったと思う。

良く笑う朗らかな人で好きだった。


そして感極まって、わあわあと私に抱きついて泣いた。

そしてすぐにケロリとしていた。

切り替えが早い人だ。


お食事をいただいた。懐かしいメンチカツだ。

相変わらずメンチカツが美味しくて。美味しくて。

手が止まらなかった。

ルートのせいでここのところ食欲がなかったけど、

ここの料理は懐かしい味で身も心も満たされた。


そしてレイカさんは私のことを覚えていてくれた。

お客の一人に過ぎなかったのに。

「いつも真っ白な顔色だったから、食堂のみんなで白雪ちゃんって呼んでたのよ。

なんだか面倒くさい先輩に、よく絡まれていたわよね、

……貴女が病気になって亡くなった、というのはその先輩から聞いたのだけど。……辛かったわね。」


私が亡くなった後の職場の話をしてくれた。

あの後使ってはいけない色素が(マラカイトグリーンか?)輸入食品から見つかって、物すごく忙しくなったとか。

みんな泊まりこみで家にもなかなか帰れなかったから、普段しない出前を特別にしたとか。

あの嫌な先輩はずっと独身だったとか。


レイカさんは50代後半まで生きていたそうだ。

多分事故にあったんじゃないかなって。

リュウジと一緒か。

思い出すと胸がチクリとする。


それに、私がいなくなっても世界は続いていたのね、

当たり前だけど。

親や兄弟は悲しんだろうか。

それは今まで考えないようにしていたことだ。

同じ転生者にあって記憶を共有することで、

やはり日本と言う国はあった。

私はそこで生きていた、と実感した。


「ほほほ。私はね、前世、阿部マルガリータだったの。ご存知?」

「ええ、存じております。超有名な漫画家さんですね?え、王妃様がですか?」

「ご存知なの。嬉しいわ。それでね、私はレイカよりひとつ上だったの。

それでレイカより半年前に亡くなったらしいの。

多分、病気よね?」

「ええ、報道されましたから。」

レイカさんが眉尻を下げて言う。


「貴女は私より二つ歳下だったのねえ。

聞いてもいい?幾つで亡くなったか。」

「最後の記憶の時は三十五歳です。病院の書類にサインをした覚えがあります。」


その時、

「お久しぶりね。メリイさん。」

「あ、貴女はカレーヌ様!?」

「あら、レプトンさんもいるのね?ふふふ。」

兄たちの憧れの君だったカレーヌ様だ。公爵家のご令嬢で、リード王子様のお妃候補だった。

ブルーウォーター公国内にいらっしゃったのか。


「王妃様、エリーフラワー様こんばんは。」

カレーヌ様はお二人に挨拶をして、またこちらにこられた。彼女もお腹が膨らんでいる。


「あ、ご結婚されたと伺いました。お子様が?」

「ええ、五月に生まれますの。コレからご近所さんだから、よろしくね?」

そして私の耳にコッソリとささやいた。

「良かったじゃないの。あんなクズと結婚しないで。」


王妃様がにこやかに微笑まれる。

「そうか、そなたたちは知り合いであったな。

これからも仲良くな。」

「もちろんですわ。あらメアリアンさんにレイカ。ここにいたの?ご注文のミニケーキ持ってきたわよ。」

「あら、美味しそう!」

歓声をあげる二人。カレーヌ様はメアリアンさんとレイカさん、エリーフラワー様とも仲が良いのか。

「え、カレーヌ様がお作りになったんですか?」

兄が目を丸くする。

「あら、そうよ。レプトンさん。私はこの国でスイーツ工房を夫とやっているの。御贔屓に。」


カレーヌ様はこんな人だったろうか。

深窓の姫君だったのに。健康的に日に焼けて。

はきはきとした話し方でからりと笑っている。


「…お幸せなんですね。」


兄がポツリと言う。

「ええ、こちらで幸せに伸び伸びとやっているわ。

うるさいのも、いないし。ふふ。

ここは観光地だから昔の知り合いに時々会うの。その度に皆さん驚くのよね。」


実はカレーヌ様は意に沿わぬ結婚をさせられたと評判だったのだ。

男性達は憤慨し、女性達はほくそ笑んでいた。

男性人気がとても高かったからだ。


レプトン兄も噂を信じて憤慨していた一人だ。

「コレでいいんだな。うん、ご健康そうで、お幸せそうだ。」

ちょっと目が潤んでいる。


「レプトン様。メリイ様。楽しんでらっしゃいますか。」

ネモ様がお見えになった。

「ご就職もお決まりになってようございました。」

「ネモよ。久しぶりじゃな。」

ネモ様が目を丸くした。

「王妃様、いらしてたんですか?

アラン様のお子様がそろそろお産まれになるのでは?」

「転生者が見つかったのよ。じっとしてられなかった。」


「ふふ。王妃様はお仕事バージョンでなくなると、言葉が砕けてくるのよ。リラックスされたんだわ。」

カレーヌ様が微笑んだ。

やはり微笑みの姫と言われたことがある。

花のような微笑みに見惚れてしまう。兄も釘付けだ。


ドアを開ける音がした。

「母上。こちらにいらしたんですか?」


美貌の青年が現れた。皆がうやうやしく頭を下げている。

第二王子様だ!アラン様の弟君の。

こちらに住んでらっしゃるのは知識としてあったけれど、実際すぐにお目にかかるとは。

驚いて汗が出た。


「リードこちらへ。紹介しておくわね。

第三の転生者、メリイさんよ。」

王妃様が声をかけられてこちらへ来られた。


「ああ!グローリー公爵のお嬢様だね?何度かお見かけしたことがある。

私は一度見た人は、忘れないんだよ。

転生者ということは母上と同じだね。宜しく頼むよ。」

麗しき王子様はにこりと微笑んだ。

「は、はい。」

こんな近くで御尊顔を拝するのは初めてだ。

流石に緊張する。それになんと美しい方だろうか。


「おや、そちらは兄君だね?レプトン君と言ったか?

お父上に紹介されたよね?三年前か?兄上とご一緒に。

あちらはサード君だったかな?」


兄は、目を見開いた。 


「覚えていてくださったんですか?」


「ははは。グローリー公爵の自慢の息子さんじゃないか。忘れないよ。確か五カ国を話せるんだったよね?たいしたものだ。」


そして美しき王子様は、微笑んで兄の手を取った。

「君もこちらに住むんだろ?宜しくな。」

兄は感激のあまり目が潤んでいる。

顔も真っ赤だ。


「あ、ありがとうございます!」

 

カレーヌ様がそっと私に耳打ちしてきた。

「あら、レプトンさんって私に会った時より、リード様に会った時の方が嬉しそうじゃないこと?ふふ。」


リード様は人心の掌握に長けていると聞いたことがある。これなのか。

すっかり兄は心酔している。


「そろそろお開きにしようかの。」

王妃様の言葉を聞いて、レイカさんが寄ってきた。

「メリイさん。また是非食べにいらっしゃい。

シンゴくんやイリヤさんに言えばいいから。

ね?ラーメンやうどんやら、もうすぐカレーも用意出来るよ。」

ええっ、嬉しい!懐かしい日本の味だ!


「まあ、レイカ。カレーが食べられるの?」

「ええ、王妃様。カレーヌさんのおかげです。」

「はい、私のおかげですよ!」


まあ、きゃはは、ふふふ、とみんな楽しそうだ。

王妃様相手に不敬にならないのだろうか。


「あのね、私は私を知ってる人に会えて嬉しいのよ。」

レイカさんがこちらを向いてにこやかに笑った。

ああ、やはり猫の目食堂のおかみさんだ。

笑い方が一緒。


「ええ、私も私のことを覚えてくれてる人がいて、

本当に嬉しい。幻ではなかったんだって。」

気がついたら涙を流していた。


そっとレイカさんが私を抱きしめてくれた。


「辛かったわね、よしよし。もう貴女は一人じゃないのよ。私も王妃様もいるから。」


子供のようにレイカさんの胸で泣きじゃくった。

なんて落ち着くのだろう。

背中を撫でてくれる手が温かい。


「お母さまみたい。」


「うん、それ、よく言われる。」


貴女より今世はふたつ上なだけなんだけどねえ。

彼女は笑いながらつぶやいた。


「実はこの国にも桜があるみたいなの。

咲いたら観に行きましょうか。」


ええ、是非。


その次の日、王太子アラン様にお子様がお生まれになった。


王子様と王女様の双子だ。

グランディ王国は喜びに沸いた。


もちろん、ブルーウォーター公国も。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ