面接。
朝起きてレプトン兄とエリーフラワー研究所に向かった。
なんとエリーフラワー線という路線が出来ていて、主要な場所から研究所にむかう陸蒸気の停車場があった。
もちろん、このホテルからもだ。
「このホテルには各国の要人もお泊まりになり、その足でエリーフラワー様に会いに行かれるのですよ。」
昨日の父の知り合いの方が迎えに来てくれた。
メガネの若い男性だ。
「あの、宜しければお名前を教えて下さいませんか。」
「失礼しました。私はアラエルといいます。お父上には父がお世話になりました。商会のことでね。
私は研究所のリーダーをしております。」
「―こちらこそ、失礼いたしました!」
なんてことだ。もう試験は始まっていたのか。
研究所の入り口には、立派な木彫りのクマが置いてあった。北海道土産で良く見る奴だ。
でも、それってこんなに大きかっただろうか?
ゆうに長さが1メートルはある。
「北海道の名産品?」
アラエルさんは笑った。
「流石に、おわかりになるのですね。王妃様がエリーフラワー様に賜ったものだと聞いております。」
ドアの前で兄が、
「あの、私はこちらで待っておりますから。」
と言うと、アラエルさんは首を横に振った。
「是非お兄様もご一緒に、とうかがっております。」
ドアを開けてくれたのは、先日中庭で私に声をかけてくれた影の人だ。
「あ、あなたは!」
シンゴさん?
軽く目礼された。
そして中を見て驚く。…王妃様がいらっしゃる!!
どうして?
「し、失礼しました。グローリー公爵の娘メリイと申します。」
「私は兄のレプトンと申します。」
とにかくご挨拶をしなければ。
「「グランディの華のなかの華。王妃様にご挨拶申しあげます。」」
兄と二人で何とか声を絞り出すように挨拶をする。
汗が背中を流れていく。
今まで遠くからしかお見かけしたことがなかった。
ご機嫌を損ねたらどうしよう。
なかなか気性が激しい方だと聞いている。
「ほほほ。楽にすると良い。そなたが転生者と聞いての、興味を持ったのじゃ。二人とも座ると良い。
エリーフラワーさん、先に色々聞いてよいかの。」
四角に長いテーブルだ。
隣にいらっしゃるのは、多分。
「ほほほ。構いませんわ。私はエリーフラワー。宜しくね?
隣がもう1人の転生者、レイカさんよ。」
「レイカ・ハイバルクです。」
茶色の髪で緑の目の小柄な女の人が答えた。
妊婦さんのようだ。
「え、それではアンディ様の奥方。」
兄が素っ頓狂な声をあげる。
「私の側近なのよ。おほほほ。」
「ワタクシの大親友で家族同然なのですわ!ほほほ。」
冷や汗が流れる。父に絶対に怒らせてはいけない。と言われた方々の揃い踏みだ。
エリーフラワー様はもちろんである。
そしてこのレイカ様だ。
あのアンディ様の奥方でアンディ様が溺愛してらっしゃることは有名だ。
彼女に粉をかけたパーツ家の息子など、あっという間にアンディ様から粛正されたと聞く。
王妃様が身内以外で優しいたった一人。
それから、エリーフラワー様、ヴィヴィアンナ様、カレーヌ様。
ものすごく対立していた当時の王子妃候補の三人だが、何故か彼女だけは皆と仲良かったとも聞く。
失礼のないようにしなければ。
「早速質問するぞよ。そなたが連想することを述べよ。」
「はい。」
――――――――――――――――――――。
ここら辺はあまり記憶がない。
連想ゲーム的にお答えして、上手く言ったようだ。
確か首相とアイドルと歌手の名前をお答えしたことをかすかに覚えいる。
パチパチパチ!
拍手の音で我にかえった。
「レイカからは何かない?」
王妃様がレイカさんに振る。
「うーん。もう、日本からの転生者ってわかってるじゃないですか?
では…私は横浜生まれの横浜育ち。
貴女は?どこに住んでいたの?」
「私も最後は横浜でした。」
「…最後は?」
「はい、実は。」
そこで私は前世の話をした。
皆様熱心に聞いて下さった。話をするうちに胸が、軽くなる。
私は誰かにリュウジのことを聞いて欲しかったのだ、ずっと。
――日本のことがわかる人に、ずっと、ずっと。
「なんか、甘酸っぱいわね!村下孝蔵の初恋とか、
さとう宗幸の青葉城恋歌の世界よ!」
「ええ、想い出がいっぱい、ですねえ。」
お二人は軽口をたたかれたが、どちらの目も潤んでいて私に寄り添って下さったのがわかった。
それにタイトルを挙げられた歌。どれも私も知っている。
―――とても、切ない。
私が前世の記憶があると言ってもみんな戸惑った顔をして、信じなかった。
家族はそうかも知れないが、秘密にしようね、と言って困った顔をした。
ルートは散々馬鹿にした。一番わかって欲しい人だったのに。
そのうち王妃様が前世持ちだとわかった。
どんなに嬉しかったか。
話は続いて、卒業式の時の話となった。
「腹がたつわね!」
「全くですよ!カス野郎だわ。」
お二人とも物すごく怒って下さった。胸のつかえが取れる気がする。
私は心の傷に同意してくれる女友達がいなかった。
というより、警戒して学園では友人が持てなかった。
どこで足を引っ張られるといけないから。
特に貴族は弱みを見せては駄目。公爵家の看板を私も背負っている。
そう言われて育ってきた。
――兄達とルートがいればそれで良かったのだ。
「私もお二人と同じ意見でしてよ。すぐに寮にお入りなさいな。カス野郎は入れなくってよ。」
エリーフラワー様の言葉に驚いた。
「え、採用で良いんですか?」
何も専門的な話をしていないのに。
「モチのロンのことよ。おほ、おほほほ。」
嬉しい!ここにいられるんだ。
「ところで、レプトンと申したかの。」
王妃様が兄に声をおかけになる。
「ははっ、王妃様。レプトンでございます。」
「そなたも卒業したと聞いたが、仕事はどうするのじゃ。」
「はい、父と兄と一緒に家業に就こうかと。」
王妃様は兄をじっと見て続けられた。
「どうじゃ。しばらくこちらに滞在しては。妹さんの事も気になるであろう。それとも、急いで帰らなくてはならぬ訳でもあるのかえ。」
背筋をピンと伸ばして硬くなるレプトン兄。
「い、いえ。そんなこともございません。」
王妃様に逆らえる者はいない。今実家は大変だと思うんだけど。
「ではとりあえず妹さんの護衛をやってもらおうかの。」
「はい。」
そこでレイカさんがこちらをチラリと見た。
「王妃様。ミノちゃんが挨拶したいみたいです。」
ミノちゃんとは何だろうか?
側近?護衛?侍女?
兄は何か思い当たったようだ。顔が強張っている。
「わかった。さて、この国にはUMAと呼ばれる伝説の生き物がおる。聞いたことはあるであろう。」
「は、はい。」
兄の緊張が私にもうつる。
「まずな、私の護衛にもなっている、ツチノコじゃ。ツッチーと呼んでおる。
出でよー!ツッチー!」
王妃様の背中から何かが、
ペラリ。
とはがれた。
えっ?ツチノコってあの?
幻の動物で懸賞金がかかっていて。
――本当にツチノコだ。こちらにぴょんぴょん跳ねて飛んでくる。
「うわっ、この子跳ねてる!」
驚く兄。
「保護色になっていたんですね。」
驚きすぎてこんな感想しかでない。
「ほほほ。コレでウロコは硬く、刃を通さぬのじゃ。
あの時この子がいればのう。」
「……。」
そういえばもう八年くらい前になるだろうか。
リード王子様を刺客が襲った。
王妃様が身をていして守られた。
その時の傷が背中に残っていると、聞く。
―――滅多刺しだったそうだ。
確かに。その時に生けるヨロイで守られていれば。
「さて、レイカ。呼んであげて。」
「アッ、ハイ。
ミーノーちゃーん、おいでー。おどかさないようにね。」
のそり。
カーテンの後ろから顔を出す、ミノちゃん?
「ドモデズ、ゴニヂワ、ミノダス。」
頭を掻きながら姿を現わすのは!
ミノタウロス!
伝説の怪物。
頭は牛。身体は人間、実在したの――!?
「―――!」
「―――――!」
ミノタウロスに関する伝説が頭の中をかけめぐる!
迷路、いけにえ、そして、、。
こちらへミノタウロスが近づいてきて、ニヤリと笑った。
来ないで!
目の前が暗くなった。
「う、うーん。」
「気がついた?」
そこにはレンガ色の髪をした女性がいた。
年の頃は24くらいか。
「私はね、イリヤ。これからの貴女の護衛の一人よ。初めまして。クノイチよ。」
「は、はい。」
ここは医務室のようだ。学校の保健室を思いだす。
初老の女医さんが診察してくれた。
「少し貧血気味ですねえ、ちゃんと食べてね。」
「OK。夜、沢山食べてね?」
「ええと?夜って?」
イリヤさんはにこやかに笑った。
「ここにはね、会員制の隠れ家レストランがあるの。
はっきりいって、王妃様とかリード様とか、そういう人しか入れないのだけど、今日はそこで貴女の歓迎会だから。
立食パーティだけどね?ま、私もお相伴に預かれるってわけ。レイカ姉さんの料理は、最高よ。」
レイカさんは、アネさんと呼ばれているのか。
「メリイさん、兄上も気がつかれましたよ。
おい、イリヤ。お前砕け過ぎだ。
こちらは公爵令嬢で貴重な転生者様なんだからな。」
カーテンをあけて声をかけてきたのは、シンゴさんだった。
「あ、いっけなーい。ごめんなさいね、お嬢様。
シンゴ共々、護衛を務めますので。宜しくお願いたします。」
イリヤさんは膝をおって深々と礼をした。
随分、シンゴさんと親しいんだな。
胸の奥がチクリとした。
――何故。この人もリュウジではないというのに。
その後、施設の中をアラエルさんが案内してくれた。
「今夜から寮に入っていただきます。
最初はお二人同じお部屋でいいですか?」
「はい。」
お部屋で荷物を整理していると、ノックされた。
「メアリアン様!」
伝説の占い師様は昨日と打って変わってラフなワンピースだった。ゆるいウェーブの焦茶色の髪を垂らしてらっしゃる。
「ふふ。レストランにご一緒に参りましょう。あちらでは、王妃様もエリーフラワー様もお待ちですわ。
そうそう、こちらが私の夫のランド・モルドールですの。以前はお城の騎士をしていましたのよ。」
昨日、後にいた騎士っぽい人だ。ご夫君だったのか。
「ご挨拶が遅れまして。ランドと呼んで下さいね。
先ほど、妹のレイカにはお会いになったと思います。」
レイカさんの兄君なのか!
ああ、本当に良く似てらっしゃる。
髪も目の色も同じで、あったかい感じの人だ。
馬車に乗って向かった。
カフェの奥に隠し扉があって、そこが隠れ家レストランだと言う。
レストランのドアを開けたとたん、黒い髪の人だらけだった。
「こんばんは。お招きありがとうございます!?」
彼等が一斉にこっちを見た。
「こちらの横にある建物には、忍びというか、影の人たちの集会所とか寮があるのよ。そこから来たの。
皆さん、黒髪が多いのよ。…びっくりした?」
今日は顔合わせと王妃様の警備の為集まっているのだという。
だいたいが青年だが、小さな子もいた。
「え、ええ。こんなに沢山の黒髪な人を見たことが、なくて。まるで日本。」
この中にリュウジはいないのだろうか。
「それでね、この中に転生者は誰もいないのよ。
貴女とレイカさんと王妃様以外は。
私には見えるの。転生者はね、魂が二つ重なっているのよ。
この国でも、他の国でも、貴女方以外の転生者は見たことはないの。」
占い師様が残酷な現実を口にした。
続 グランディ王国の、「三人目の転生者。」に面接の一問一答が書かれています。
コメディ寄りなのでこちらでは割愛しました。




