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最終話 貴方が貴方であるように。私が私であるように。

母と学園長こと、ローランド・ミッドランド氏は

結婚することになった。

「母上、展開早いです。」

レプトン兄は半泣きだ。


「レプトンさん、そんなに気を落とさないで。」

イリヤさんが急接近している。

その前に私はすでにグローリーではなく、ミッドランドになっている。

養子縁組がすんで、もう父のグローリー家とは縁が切れているのだ。

母達は新居探しに忙しい。

「三月には初等科が出来るから。その前に籍を入れておきたいの。」

式は挙げないのだと。


サード兄が話を聞きつけてやって来た。

「母上、学園長とご結婚をされるのですか。」

「ええ、そうよ。やっと、やっとなの。」

「そうですか。おめでとう御座います。」

サード兄は穏やかに祝福した。父の部屋には、ロージイそっくりの、バーバラのブロマイドが大量に隠されていて愛想が尽きたのだと言う。


「今、父は病院に入っています。ずっと幸せな夢を見ているようで。」

開きなおった父にバーバラのブロマイドを持ってくるように頼まれた。

それから、悪化したのだと。

「今、ずっと頭の中では学園生活をやり直しているみたいなんです。それから、叔母も生きていると思い込んで。」

「…夢から覚めないで欲しいわ。覚めた時は残酷な現実を知ることになるなら。」

母の言葉は優しさか、怨嗟か。


十一月の末。レイカさんのレストランで披露宴代わりの食事会が行われた。


「おほほほ。なんとめでたいことじゃ。純愛が実ったのう。」

「ま、まさか。王妃様にお越しいただけるとは。」

ローランド義父の顔色は悪い。

「母上ー!もう来てらっしゃったのですか?

やあ、学園長?でいいよね?こちらでも学園長になるのだから?

ローランド学園長、おめでとう!」

「おめでとう御座います。私達の息子達も数年後に通うのですわね。よろしくおねがいしますわ。」

リード様夫妻も現れた。


「こ、これは。リード様、お妃様。ありがとうございます。」

固まる義父。リード様には慣れて来た母は落ちついている。

「ふふふ。メリイさんのお母様。せっかくですから、ウチの衣装部の自信作をお召し下さいな。

さア、学園長もこちらに。」

エリーフラワー様が現れて開口一番におっしゃった。


「まあ、おほほほほ。新郎新婦、お色直しの為に一時退室と言う奴じゃな。着替えてこられよ。」

王妃様が上機嫌で後押しをされる。

「えっえっ?」「さ、こちらへ。」

二人はアンディ様とレイカ様に誘われて消えた。


少しして、タキシードの義父とベージュの緩やかなワンピースの母が現れた。上品に控えめな、だけどウェディングドレスをどこか思わせる。

それに美しいシルクがあちこちにあしらわれている。小さな花を形どったり、細かいフリルとして袖に縫い込まれたり。


「…以前、ダイシ商会から持ち込まれた最高のシルクがありましてね。私が買い取って身内のドレスにしましたけど。」

アンディ様が言う。

「それをウチで仕立てましたの。残り生地はアラン様のお子様のベビードレスにしましたのだけれども、まだ余りがございましたから。」

エリーフラワー様が指し示す。

「その新郎の胸のチーフに。新婦のドレスの飾りに使ったのですわ。」


母の目から涙が溢れた。

「おお!!あの、シルクなんですのね!私がメリイに用意していた!」


母が何年も前から手配して織らせていたあの、シルク!それの一部がここに??

「まああ。本当だわ。幻のシルク。ソレイユ産のものだわ。」

遠目でもわかる滑らかな光沢。

「どこに行ったかと思っていたの。まあ、ここに。

ダン様には迷惑料を取られたけども、引き取れなくて。」

確かに。使わないドレスの生地は見ていて辛いものがあっただろう。引き取らなかったのもうなずけるのだ。

「アイツ業突く張りだなあ。やっぱりそっちからも取ったのかよ。」

アンディ様が鼻をならす。


「王太子様の世継ぎが纏われていたものとお揃いとは。光栄ではないですか。」

ローランド義父は感じ入っている。

王立学園勤めが長かったから、王家への忠誠心はとても強いみたい。

それに、エリーフラワー様やエドワード様。アンディ様達、この国の重鎮達が集合されている事に驚きを隠せないでいるようだ。


そこへ。

「こんにちは。一言お祝いを申し上げたくて。」

「ご無沙汰してますわ。王妃様、レイカさん。」

ネモ様ご夫妻が現れた。

「レプトン君にはお世話になっておりますよ。

それにメリイさんはとてもこの国にとっても重要なお人ですからね。」


この国の代表者の言葉に、

「は、はい、勿体ない事でございます。」

恐れいる母と義父。

なごやかにお食事会は行われた。


その後御歓談タイムになったとき。

みんなばらけて思い思いにグラス片手に話している。

母達はリード様とネモ様と学園の事について話している。こんなときもお仕事の話かしら。


ハイドさんが私の横に立った。さっきから婚約者として隣の席だったけど、あまり話せていない。


今日は黒いカツラでオールバックだ。

眉もしっかり描かれていて、とても格好良く仕上がっていて、黒の三揃いのスーツも決まっている。


「メリイさん、今日の料理も最高ですよね。

コホン、私も少し手伝ったんですよ。」

「オオ、ハイドのニイチャン。オレにはワカッタヨ。エビの奴だな。あと、ローストポーク。」

「え、龍ちゃん、流石だな?」

「料理カラナ、オマエサンの匂いがシタノサ。」

「ええっ、本当かい?凄いな。」

「ケケケ。逆ダヨ。本当はオマエさんから、料理の匂いがスルノサ。」

「なんと。」

ハイドさんが袖口の匂いを嗅いでいる。

「はははは!」

明るい笑い声が聞こえる。アンディ様だ。

「龍の字。からかうんじゃないよ。料理のことはレイカさんに聞いていただろうよ。

さア、こっちへ来なよ。特製のナッツがあるよ。」

「マア。ソウ言うことにしといてやらあな。」

龍太郎は飛んで行った。


アンディ様は薄く口元で笑ってウインクをした。

「ああ、敵わないなあ。あの人には。

メリイさん、ちょっと中庭に出ませんか。」

ハイドさんに誘われて外に出た。

日が落ちているが篝火で照らされていて、明るい。

「寒くはありませんか?」


ハイドさんが上着をかけてくれた。

二人でそぞろ歩きをする。

中からは歌声が聴こえてきた。

リード様がお祝いに歌ってくださっているようで、力強い朗々とした歌声が響き渡る。

「ものすごく上手ですね。天が二物を与えたのですね。」

ハイドさんはつぶやく。

みんな聞き惚れていて、こちらを気にしている人はいないようだ。

夜空には月が浮かんでいる。


「昼間でも月が見えることがあるんですよね。」

「ええ、普段は気づかないけど。気がつくと目が離せませんね。」

まるで貴方のようでした。ハイドさん。

「以前、空を飛んだ時。貴女と龍太郎君の行き先に白い月が見えたのですよ。それがすごく印象に残っているのです。」

そして私に向き合った。

「お母様のご結婚おめでとう御座います。」

「ええ、ありがとうございます。」

「これで、レプトンさんも、メリイさんもご安心でしょう。」

屈託のないハイドさんの笑顔。

この人は腹芸をすることは無い。そのままなんだ。


「ええ、母は好きな人とやっと結ばれて。良かったです。」


ハイドさんは眉尻をさげる。

「私もあれから色々と考えたのです。貴女には奇跡的な再会をして魂で結びついている、龍太郎君がいる。」

「はい。」

「貴女達を見ていると、心が洗われるような気持ちになるんです。ひとつの綺麗な夢だ。そう、月にも導かれて。」

そこでハイドさんは私をじっと見つめた。


「貴女は貴女のままで。大事な存在は大事なままで。

――そして貴女が望むのなら私の側にいてください。」


胸が熱くなる。そしてまぶたも。


「は、ハイドさん。貴方も大事な人達のことは忘れないで。ずっと大事なままでいてください。

…そのままの貴方が大好きなんです。」


ハイドさんは天を仰ぐ。段々と夜の闇が深くなる。

月が輝きを増し始める。


「ああ、まいったな。何でも先を越されてしまいますね。」

手で顔を覆っていたが、私の方に向き直った。

「これを、どうか受け取ってください。」

ポケットから出されたのは蒼い石がついたネックレス。

「先日、龍ちゃん、いや龍太郎君から貰ったというか、ポケットに入れられてたものですが。

この蒼い透明な澄んだ色が貴女の瞳の色に似ています。

それから貴女の淡い金色の髪にも似合います。」

「えっ、これを私に?」

「エリーフラワー様に、良い職人をご紹介いただきまして加工してもらったのです。気に行っていただけたら。ブルートパーズなんだそうです。」


何と美しい色と煌めきかしら。

照れながら差し出されたそれは、ハイドさんの目の色にも似ていた。

「あ、ありがとうございます。」


それから、彼は顔を赤くして。


「れ、レイカさんから聞きました。

貴女方の世界にはその、こういう時に言う言葉があると。」

「え?何ですか?」

ハイドさんは深呼吸をして、震える声で言った。


「――月がとても綺麗ですね。」


「え、それは。」


一気に胸が高鳴る。熱いものが全身を駆け巡るのを感じる。

「ええ、ええ!本当に綺麗です。私もそう思います。…同じ気持ちですわ。」 

私の声も震えて、涙が溢れてくる。


文豪夏目漱石が、I love youを月が綺麗ですね、と訳したという逸話はとても有名だ。

もちろん、本当はそんな事は言ってないと言う説は知っている。

だけどそんな事は。もう、どうでも。


「メリイさん、どうか仮ではなく本当に私と。

一緒にいつまでもいてください。

お願いします。」

ハイドさんは嘘の無い瞳でじっと見つめてくる。

吸い込まれるようだ。


「わ、私はとっくにそのつもりだったんですよ…。」


私は泣き笑いで答えた。



空には青く月が輝いていた。


これで一応メリイのお話は終わりです。


これからも、続 グランディ王国の方は続きます。

(この話の裏話は「秘密の話」に書かれてます。)

メリイの今後はそちらでちょいちょい触れられる予定です。

ご興味がおありでしたら覗いて下さいませ。


それでは皆様、お読みいただきありがとうございました。


追記 シンゴの今後は

続 グランディ王国物語で書かれています。

グローリー家のこと、特にレプトンのことも。ご興味がある方は是非。

215話あたりくらいからこちらの続きです。


※ロージイは250話から出ます。


追記 シンゴが誰と結ばれたか。

281話あたりでわかります。


メリイとハイドの結婚式は284あたりからです。

気になる人は是非読んでください。


更に追加。

「ブルーウォーター公国物語」

に続いています。

龍太郎の切ないメリイへの気持ちは

第35話

「人の夢と書いてみれば儚いと読むのでしょうねえ」に書かれています。



更に追記。

「ロージイの物語。(ずっとあなたが好きでした〜のスピンオフ)」で、ロージイのその後が読めます。

是非読んでくださいね。

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― 新着の感想 ―
完結、おめでとうございます。 お疲れ様でした。 途中でいろいろ思ったけど、落ち着くところに落ち着いて、みんな(ほとんどの、ということで)幸せになれたようでよかった。 ロージィ兄妹とお母様の扱いが特…
完結、お疲れ様でした 毎日グランディとの二本の更新は大変でしたでしょうが、とても楽しみでした 人生イロイロ、みぃんな悩んで大きくなったんだぁ~いッッというコトですね 心に残る物語、ありがとうございまし…
>二人で月あかりの下そぞろ歩きをする。 >夜空には月が浮かんでいる。 >「昼間でも月が見えることがあるんですよね。」 >ハイドさんは天を仰ぐ。段々と日が暮れて行く。 >月が輝きを増し始める。 …
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