彼女が誰を選んだか。
誤字報告ありがとうございます。
※シンゴ視点。
アラン様に呼ばれた。
「シンゴ、最近の活躍ご苦労であった。ハシナ国の件とかな。」
「はっ。」
「それでな。三日ほどブルーウォーターに行ってこい。」
アラン様は奥歯にものが挟まった様な言い方をされた。
「はい、任務ですか?」
「いや、休暇だ。
もう間に合わないとは思うが、おまえの気持ちにけりをつけろ。」
「はい?」
そういえば、昨日からロンドやヤマシロが何か言いたけだ。腫れ物に触るような扱いをされている。
「あーあ、頼むよ、アンディ。」
「は、かしこまりました。」
どこからともなく、アンディ様が現れた。
いつからいたんだ。気がつかなかった。
「おい。シンゴ。
とりあえず一緒に行くぞ。途中で説明する。」
ブルーウォーターへの隠し通路を使う。
王族と影しか使えない秘密の道だ。馬や馬車が常備されていて、切り開かれた山道を通る。
「アオ、引いてくれ。」
白馬が馬車を引いていく。ゆるやかに。静かに。
するすると。
「まったく。アラン様ったら。貧乏くじだよな。」
アンディ様がつぶやく。
「ええとな。おまえさ、メリイさんに気があったよなあ。」
「え?」
いきなりのことで動揺する。
「そ、そんな事は。」
赤くなるのがわかる。
「そうか。落ちついて聞け。彼女には婚約者が決まった。メリイさんが自分で選んだんだよ。」
「はい?」
ちょっと待って?意味が良くわからない。
「相手はハイドだ。」
「ハイドですか?何でですか?だって歳が離れているし!?」
「いや、あのな。多分だけどな。
メリイさんはガツガツ来られるのは苦手なんだよ。
マーズさんみたいにな。おまえも若干その傾向があるよな。」
「…。」
「アイツは枯れてるからいいらしい。人畜無害そうだし。」
何てことだ。頭を覆った。
「最近、その。アラン様のお仕事が忙しくて。
あの馬鹿どもの相手とか、ハシナの間者とか。
…自分が未熟者でアンディ様には敵わないとか、
色々わかったりして。」
「ああ、まあな。」
「仕事頑張ることにその、必死でして。」
「ウン、おまえはよく頑張ってるよ。
俺はオマエに目をかけているんだ。実際、若い忍びの中では飛び抜けている。」
アンディ様の声は沁みてくる。
「アイツが、ハイドがいいヤツなのはわかっているんです。
俺の気持ちをわかっていて、こないだオレがへこんでいた時だって、さりげなくメリイさんの近くに居られるように見張りを代わってくれた。」
「そうだよな。」
「わかってはいるんです。こないだ白狐様が、ハイドを乗せた時。龍太郎がハイドの方が好きだと言った時。神獣様が選んだのがアイツだと。
だけど、コレから巻き返せると思っていました。」
「そうか。」
「実際、龍太郎が現れる前はメリイさんは俺に興味を持ってくれていたと思います。」
「黒髪だからな。」
「ええ。
多分ね、まわりのみんなは彼女が転生者だから興味を持ったと思ってる。
――俺が無意識にアンディ様をなぞろうとしてると!」
「そういう見方があったのは知っている。」
俺は無意識に涙を流していた。悔しくて、悲しくて。
「違うんです!あの日、中庭で泣きじゃくるあの人を見た時から。
あの馬鹿どもに傷つけられて、可憐な花のように震えているあの人を見てから、ずっと、ずっとなんです!!」
迷った末に声をかけた。影として見て見ない振りをするのが正しいと思ったけれど。
放ってはおけなかったんだ。
「―うん。」
アンディ様は静かに俺の話を聞いてくれた。
「さあ、ブルーウォーターに着いたぞ。」
さわさわさわ。
風が通り過ぎて行く。鳥は歌い、花は咲きほころぶ。
美しくて平和な土地だ。
研究所へと向かう。アンディ様と一緒に。
ちょうど昼休みらしい。中庭でランチを取る人達が見える。
バサバサ。
肩に乗って来たのは。
「龍太郎!」
「ヨオ。シンゴ。久シブリダナ。こないだは白狐のダンナと大活躍だったそうじゃナイカ。」
「ああ、すごいよな。白狐さまのお力は。
火から守られていたんだ。」
キュー。
「おや、キューちゃんも来たのかい?」
「ククッ。白狐のダンナ。真面目ダネ。火を跳ね返したのは俺のウロコだって。ワザワザ言ワナクテ良いのに。」
そう言われて指に目をやる。龍太郎のウロコを指輪にして付けている。
「ああ、そこからなんか温かいものが流れてるのを感じてたワ。アンタが失恋で闇落ちしなかったのはそれのおかげカモネ。」
アンディ様の言葉で胸がチクリとする。
「ウーン、ソウカ。メリイと話をシタイダロウ?」
「ああ。」
「ワカッタ。頼ムネ。白狐のダンナ?」
ギュウウン。
ちょっと不機嫌そうな白狐様の声。
気がつくと、そこは一面の花畑だった。
「綺麗だな。レイカさんのお母様の花畑ね。
というか私まで付き合わされたか。
あたしゃ出歯亀の趣味はないんだケドね。」
アンディ様がぼやく。言葉がオネエ言葉になってる。リラックスされている証拠だ。
目の前にはメリイさんが立っていた。
休憩時間だったのだろう。白衣は着ていない。
薄手のワンピースだ。白衣の下はいつも薄着だと言っていた。寒くないだろうか。
10月の風に髪も服もなびいて。優しい陽の光に照らされて。儚げで美しい。
「え、シンゴさん?白狐様?アンディさん?
龍太郎、一体何ごと?」
目を丸くしている。
「悪いね?この馬鹿と話してあげてね。」
アンディ様が手を広げて口元を上げる。
「メリイさん、お会いしたかった。
ハイドとご婚約されたのですね??」
俺の口調は強かったかもしれない。責めるように聞こえたかも知れない。
彼女の表情は少し固くなった。
「ええ、私が望んだのです。」
そこで息を整えて続ける。
「他の人は仮そめの婚約者だと、ハイドさんは任務で付き合わされてると、そう言うかも知れません。
だけども私自身はあの人を好ましいと思っておりますわ。本当の婚約者だと思っております。」
え?仮そめ?何の事だ?
「うーんとね、そこまで説明していなかったワネ。
実はメリイさんはさ、アンポンタンで理解出来てないお父上から縁談ごり押しされて、それから守るため?王から縁談を紹介されたり王子様たちの側妃にさせられようとしてたの。
その話を避けるために急遽婚約者を立てたわけさ。」
「えええ?」
「でも私は他の人は嫌ですわ。」
「メリイのココロの中にはハイドのことバカリダヨ。」
龍太郎の言葉は残酷だ。
「そうですか。―私にはもう希望は無いのですね。」
「えっ。」
「メリイさん。私はずっと貴女が好きでした。
卒業式の1週間前に、静かに泣いていた貴女を見た時から。ずっと。
その儚さ、気高さが心の中から消えなかったのです。」
涙が出てきたが構うものか。
「エリーフラワー研究所で再会した時は嬉しかった。それから少しずつ距離を詰めて行ったと思ったのです。
その時、私の気持ちを伝えていれば結果は違ったのでしょうか。」
私の声は掠れていた。
「シンゴさん。」
「頭ではわかっています。ハイドがいい奴だってことは。純真な所は人を惹きつける。
アイツは私と違ってひねた所がない。あんな経験をしたのに。
アイツから他人の悪口や陰口を聞いたことはないんです。」
メリイさんは私をじっと見ている。大きな瞳は驚きと戸惑いで見開かれている。
このまま、さらって逃げられたら。
――無理だな。
「シンゴさん。私も貴方に惹かれたことはあります。
だけど貴方はハイドさんと別の意味で壁を作っていましたね。どこか近寄りがたかった。」
「え、それは。」
「ごめんねえ?メリイさん。ソイツはただのカッコつけだよ。何しろまだ18のガキだから。
好きな子にはどうすれば良いのかわからなかったんだな。なあ、シンゴ。」
アンディ様は俺の肩を叩く。
その温かさに。唇を噛んで下を向いた。
「それに貴方は。龍太郎の存在を少し邪魔に思っているでしょう?
もう私と龍太郎は意識がつながっています。
龍太郎ごと私を受けいれてくれる人でなくては。」
「…。」
「ハイドさんは。彼も心の中になくなった妻子がいる。お互いに大事なものがいる場所があるのです。」
ああ、そうなのか。かなわないな。
あの時。龍太郎の背中に乗ったメリイさん。
そして白狐様に選ばれたハイド。
それを見る俺の顔は歪んでいただろう。
もうその時から、手から彼女がすり抜けていくのを感じていたんだ。
さっきまでは、タイミングが合えば手に入ったのだと思っていたけれど。根本的に違ったんだな。
「シンゴ、もう良いか。おまえがガキだったって事だ。」
「―はい。」
「そうだな、今日ウチに来い。レイカさんに何か美味いものを作ってもらおうぜ。」
「あ、アンディ様。」
「オオ!美味イモノカア。オレも行ク!」
「何で龍の字が来るんだよ?」
「良イジャナイカ。俺ダッテナア、メリイが結婚するのは、サビシイノサ。」
「龍太郎!」
「いいじゃないの。メリイさん。今日はウチで飲ませるよ。なっ。」
そして研究所にみんなで帰ってきた。
「それでは。男共は俺と来い。メリイさん、またネ。」
アンディ様と立ち去る時に振り向いた。
困り顔のメリイさんの姿が見えた。
それは龍太郎に向けたものなんだろうけども。
やはり彼女は綺麗で可憐だ。
―さようなら。ずっと貴女が好きでした。
だけど、もうこの想いからは卒業しなくては。
こちらでもタイトルを回収しました。




