表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
37/42

現在、過去。そして未来。

皆様、今年最後の更新となります。沢山の方に読んでいただきありがとうございます。


来年も宜しくお願いします。

母と暮らす様になった。

色々案じてはいたが、思ったより平和でホッとした。

ただ兄が拗ねているらしい。

「ええー。私が外に家を建てたら母上来ますか?」

と言っているとか。

「そんな事言ったってね、あの子もそのうちお嫁さんもらったりしたら、私お邪魔になるじゃないの。」

困り顔でも嬉しそうな母だった。

「私はね、貴女が婿を取るからずっと一緒に居られると思っていたのよ、だから色々と油断していたの。」

「油断って何?」

「淑女の嗜みの刺繍を教えなかったり。

私達がやるのを見て覚えれば良いと思って、貴族間の親戚関係や力関係なんかあまり、教えて来なかったでしょ。それらへの応対の仕方。」


「ああ、まあ。」

朝の身支度をしながら返事をする。

お互いそろそろ出勤だ。

「デモさ。メリイはもうエリーフラワーサンと王妃サンと、アランサンやリードさん、ネモサンと気安い仲ナンダカラ、モウイイヨネ。」


母は目が覚めた顔をした。

「そういえば、そうね。」

「ソウダヨ。メリイには俺もツイテル。何か言ワレタラ、焼き払ッチャウヨ。」

龍太郎の目が光る。

「そうねえ。貴女に文句を言える人も、そういないわね。」

「そうですよう、エリーフラワー様をご覧下さいな。王家にもズバズバお言いになる。

あちらの方が腰が引けてますからね。」

イリヤさんが私の髪をまとめるのを手伝いながら、援護にならない様な、援護をしてくれた。

あの方は別格だわ。


母はこのまま学園の方へ行く。寮の前に駅があるのだ。

「そういえばローランドがね。」

「学園長が?」

「ルートからお金を預かったって。渡されたの。」

「え?何でルートが?」

「ルートは寮の部屋は特別室から普通の部屋に替えられたの。」

「お父様が払わなかったとかですか?」

「いいえ、逆。あの人に言われて卒業までの学費、寮費は払っていたの。最低限の生活費も。」

「そうなの?」

「寮費はもちろん特別室のよ。その差額をね?

卒業したら渡すから生活費に当てなさい、と言うローランドの良心よ。」

「凄い人ですね。」

「でも、あんな事になったでしょ。最後に会いに行ったサードに、そのお金をおばさん、つまり私に渡してって言ったんですって。」

「え、それはどうして?」

母は微笑した。

「おばさんが家を出て、お金に困ってるだろうからって。」

「…良くわからないけど。ルートにも良心があったのね。」


さあ、どうかしら。母は振り返らずに陸蒸気に乗った。


(どうする?寮を出て家族三人で暮らしたいかい?

オレは付いて行くけど。防犯は安心だろ?)

「ううん、ここにいる。通勤に便利だし。」

「おはようございます。また、龍太郎くんと、念話ですか。」

笑いながら、メガネの若い男性が声を掛けてきた。

「アラエルさん。おはようございます。先日は母を案内してくださり、ありがとうございます。」

「いえいえ、研究所のリーダーとしては当然ですよ。

それより、今日のお昼はカレーみたいですよ。」

「え。楽しみです。」

「ハイドさんのおかげでご飯が楽しみです。」

「本当に。大分元気になったんですね。少し顔を出して見ます。」

「九時から定例会なので、忘れずに。では。」


男性用のロッカールームに向かうアラエルさんと、別れた。

(メリイ、アイツおまえに、気があるな?)

「まさか。」

「うーん。あいつ、メリイさんに気がありますねえ。」

後ろでイリヤさんが全く同じ事を言うので驚いた。

「え、そんなことないわよ。」


「いや、そうですね。アラエル君だけじゃ無いですけどね、貴女に気がある研究所職員は。」 


横から声がしたと思ったら、ハイドさんがタマネギの袋を抱えてニコニコしていた。

「あ、ハイドさん!顔を見に行こうと思っていたの。体調はどうですか?」

「ははは。嬉しいですね。もうすっかり良いですよ。龍ちゃん。元気か?」

「オウ。三日ぶりダナ。」

「中にいると中々顔を合わせませんねえ。」

「ナア、今度はラーメンを食ワセテクレヨ。」

「あ、わかった。特訓を見てたんだね。ははっ、まいった。恥ずかしいね。」

「確か乾麺が流通してますね。エリーフラワー工房作の。」

「そうだよ。レイカさんのご先祖がラーメンのレシピを残してたらしいの。

やはり転生者だったらしくてさ、そのノートは日本語で書かれてるってえ噂ですよ。」


「日本語!」「ニホンゴダッテ!?」


「み、見てみたい。」

「やっぱり?今度休みの日に言って見せて貰いましょうか。」


研究所の研究職は土日がお休みだ。

縫製部とかは交代でお休みみたいだけど。


ノートが見たい、というとレイカさんが

「モチのロンよ。」

と出してくれた。

私達と護衛、レストランスタッフも覗きこむ。

表紙に書いてあったのは。


【いつの日かこれを手にするものよ。ラーメンの作り方を教えよう。】


「ニホンゴだ!」

「まあ日本語よ。」

「そう、日本語なの。」

「日本語!?」

「これが日本語か。」

「日本語なんだ。」

「日本語って。」

「日本語なんですか。」

金色夜叉の金剛石のセリフのくだりのように、

みんなが声をあげた。


転生者三人にはやはり懐かしい、日本語。

「多分ね、百年くらい前の私のご先祖。

ここに名前があるの。キリト・モルドール。

日本前世名は加藤一郎太だって。」


「ああ、本当ですね。涙が出てきます。」

「ナツカシイナ。」


チャーシューの煮方。

【タレで45分程煮て、フォークで刺して見る。】

スープの作り方。

【豚骨と鶏ガラ。ゲンコツと呼ばれる部分は良く叩く。グラグラさせると白濁する。透明な澄んだスープが欲しいときは、沸騰は最小限の泡が出るくらい。】

上に浮かぶ鶏油の取り方。

【容器にいれて、逆さにして水分を捨て、脂を残す。】

白髪ネギの水の晒し方。

【最低でも三十分は晒す。】

…などなど。


「ね、面白いでしょ。」

「ええ!」

「ピザやパスタやサンドイッチがアルッテコトハ、

外人さんも転生シタンダナ。」


「ええ、そうね。」


「ナア、メリイ。一度聞いて見たかったンダガ、俺はヤハリ交通事故デ死ンダノカ?」


「え。」

「あ、ハイハイ!あちらで二人で話したら?

念話できるんでしょ。」

レイカさんが焦って、私たちを奥のテーブルへ誘った。


「ええ。」

肩に乗せて奥に行く。

「レイカさんも交通事故みたいなの。」

(あ、そうか。配慮が足りなかったな。)

あの人だけははっきりと分からないままだ。

私は入院していた。退院した記憶はないし、レイカさんが覚えていてくれた。

王妃様は訃報は報道されたと言うし。

「それは間違いないの。対向車のトラックが中央線を越えてぶつかって。リュウジの家のワゴンとぶつかったの。」

(やはりそうか。雨の日の夕方だったんだ。

いきなりトラックが、近づいて来て。それから衝撃が。)

目の前で龍太郎は項垂れる。

そしてはっとなって、目を開いて私を見た。

(あ、それじゃ、家族のみんなは?)

「龍太郎以外は怪我をしたけど回復したよ。」

(そっか、良かった。)

龍太郎の肩から力が抜けた。

「龍太郎の事はみんな悼んでいたよ。人気者だったから。」

(それは…有難てえな。)

軽く目を閉じて、

(それからの家族の消息を知らないか?)

「弟さんは、東京の大学に行ったわ。ご親戚があるんですって?そちらの離れに住んで通ったとか。」

(ああ、松田のじいさんのとこか。母方の親戚だよ。)

「ご両親は怪我の後遺症があってお仕事は、変わられたと聞いたわ。お兄さんは大学を出たら地元に戻ってこられたらしいの。

…そのあとは私も横浜に就職したから良くわからなくて。」



(わかった。とりあえず家族が無事だったことで安心した。

有難う一ノ瀬。)


そう。私達はいくら望んでもあちらの家族には―もう会えないのだ。


誤字報告ありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
更新お疲れ様でした。 良いお年をお迎えください。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ