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ずっとあなたが好きでした。だけど、卒業式の日にお別れですか。  作者: 雷鳥文庫


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34/42

再会。

10月のある日。自室のドアが叩かれた。

龍太郎が一瞬ぴくりとしたが、すぐ顔を緩めた。

「レプトンだよ。」

ドアをイリヤさんが開けると、

レプトン兄が難しい顔をして現れた。


「兄さん?」


「メリイ、朝早く済まない。あまり良い話では無いんだ。父上が逮捕された。そして今は病院に入っている。」

「逮捕?」

「ああ、あの女狐め!父上をたぶらかすとはな!」

「昔からよ、あの手の女に弱いのは。」

後ろから現れたのは、

「お母様!」

「久しぶりね、メリイ!会いたかったわ!

ごめんなさいね、距離を取ったのは私なのに。」

そして私を抱きしめて机の上に乗っている龍太郎を見た。

「貴方が龍太郎くんなのね。」

「ウン。」

「貴方がリュウジなの?」

目を見開いた。龍太郎もだ。

「ヘエ、知ッテイルノカ。」


「ええ、メリイから良く聞かされたのよ。

良かったわね、再会出来て!」

母は涙ぐんでいる。喜んでくれているんだわ。


「少し長い話になるけどね。バーバラという女がいたの。昔ね。」

母は椅子にかけて話を始めた。

「ロージイの叔母で、女優で。生き写しなのよ。」

そこで視線を落とした。

「貴方達の父は、潔癖なところがあって婚約者以外には目もくれなかったのよ。」

「婚約者がお母さまね?」


「そう。だけどね、そのバーバラにはひと目で心を奪われたのよ。」

「えっ。」

「エッ。」

「婚約者が他所の女に目を奪われるのを目の当たりにするほど屈辱的な事はないわ。

メリイ、あなたも辛かったわね。」  


私の手を握る母の手は温かい。


「ロージイとは違う、弱弱しい女だった。

そしてね、不思議な魅力を持っていたのよ。

大嫌いだったけど、ほってはおけない。

つい構ってしまうし守ってしまう。

女性の私でさえそうなのよ。男性はほとんどの男が心を惹かれて興味を持った。

それをナイト気取りで守っていたのが、ルートの父とあの人よ。」

「お父様が。」

「あの人の最初で最後の、恋だわ。本人は認めなかったけど。そしてね、バーバラもあの人が好きだったのよ。考え無しに人前で告白するくらいにね。

―あの女は憎らしい程、純粋だった。」


「何ですって?」


「それでロージイを見て気持ちが再燃したんですか!」

「タチが悪いことにロージイはバーバラより、賢く、したたかで。

他人を利用する事が出来たの。

それでますます惹かれたのでしょうけども、ロージイにはバーバラの様な善良さはなかったわね。」

母は眉間にシワを寄せながら語った。


「メリイ、父上はルートが死んだらすぐあの女に求婚なさった。」


「ええ!?」

「エエ!ウワーキツいな。メリイと同じ歳ナンダロ、その女。」


「応じなければホテルを潰すと脅迫した。

しかも、居合わせたダイシ商会のダンさんまで巻き込んだ。

それで捕まったんだが、もう、あの女がバーバラの生まれ変わりと信じきっている。そして自分をずっと愛していると。

――もう正気じゃない。」

   

レプトン兄はロンドさんから話を聞き、サード兄と父に面会に行った。窓に格子がついた病院に。

そして辻褄が合わない話をする父を見て驚愕したんだと言う。

「情けなかったよ。あの父上が。情欲まみれの顔であの女の事を語るのは。」

レプトン兄は顔を手で覆った。



「それからな、メリイ。お前のことは若くして死んだ叔母さんの生まれ変わりと信じてるんだよ。

前世日本人では、なくてね。」

「何イッテル。メリイは一ノ瀬ジャナイカ。」

母が複雑そうな顔をした。


「本当に見かけはそっくりなのよ。

私も何度か会った事があるけれど。

とても儚げで。貴女の様な自分で道を開こうとする

強さはなかったわ。」


「お母様。」

母は晴れやかに笑った。

「メリイ、私もここで生きていくわ。宜しくね!」

「ええ、ええ!」


「エリーフラワー様が作る新設校のお手伝いをすることになったの。聞いている?」

「聞いてますわ。元学園長がコチラにいらっしゃるんでしょう。」

「母上の従兄弟ですからね、ローランド様は。」

レプトン兄も続ける。

「ええ、声をかけてくれたの。簡単な礼儀作法から教えるわ、まだ小さなお子様方ですものね。

女性の先生がいいらしいの。」

確かに。小学校の低学年の担任は女性が多かった。

ベテランの優しい先生だ。


「母上は商会の仕事を手伝ってらっしゃいましたね。語学も堪能で。」

兄の言葉に、

「お勉強は好きだったから。」

微笑んで、それからね、と続けた。

「エリーフラワー様にお会いしたの。

凄い方ね。頭の回転が速くって!

貴女の事を絶賛されていたわ。

ここは、ミミ様にしろ、ヘレナさんにしろ、女性が生き生き働いているのね。」


「ブルーウォーターは良いところですわ。」


「ええ、私も久しぶりに充分に伸びができる。

背筋を伸ばして胸を張って生きられる。

あの人の顔色を窺ったりしなくていい!

色んな気持ちにフタをしなくていいんだわ!」


言い切った母の表情は少女の様だった。



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― 新着の感想 ―
お母さんはふっ切れた様で何よりだね。
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