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赤い髪の女と夢の続き。

※グローリー公爵(メリイの父)視点。


妻が出て行った。バーバラのことが知られて、少し拗ねているだけと思ってたのに。

王妃様に泣きついて離婚するとは。

どうしてだ。確かにバーバラには惹かれていた。

それは認めよう。

だけども、指一本触れてはいない。甘い言葉を交わしたわけでもない。

ただ、…時々ものすごく会いたくなるだけだ。


時間が戻ったら。もう少し優しい言葉をかけるのに。

そんなに泣かせないのに。

相談にも乗ってやれば良かった。

意地を張るんではなかった。



妻のマリーがそんなにこの結婚に不満を持っていたとは知らなかった。

他の縁談が整う寸前だったなんて。身分をかさに着て横槍を入れたと思われていたとは。

もう少し調べておくべきだったか。

きっと喜んで嫁いでくる娘がいたはずなのだ。

妻のためにもそれが良かったのか。


マリーの事は愛している。


バーバラのことは恋情だ。ただの、青春の熾火なんだ。

なんでわかってくれないんだ。不貞は一度もやった事はないのに。

心の中でずっと思うだけでもダメなのか。


ハルトの遺品から、ブロマイドが見つから無ければ良かった。

バーバラを思い出すこともなかった。

――思い出したら、想わずにはいられない。


古道具屋でブロマイドを買い漁った。

そのうち向こうから持って来るように、なった。

眺めていたのをマリーに見られていたなんて。


「父上、あのボーモンという男はなんですか。

雇い入れても仕事をしない。ふんぞりかえっている。あの女に嫌がらせをしたのは、あの男でしょ。

なんで父上の弱みを握ったような顔をしているんですか。」


あの時。

ルートがバーバラに生写しのロージイという女に熱を上げているとわかったとき。

腸が煮えくりかえった。

よりによってあの女。メリイを捨てて。あの女を。


私には妹がいた。マナカ国の貴族に請われて結婚した。かなりの年上だった。妹は泣いて嫌がったけれど、父は強引に決めた。

家格も釣り合っていたし、家業の商会に有利だったからだ。

私もむこうから是非に、と言われたのだから幸せになると思い込んだ。

貴族の結婚は義務と釣り合いだ。そうだろ?


だけど。一年も経たないうちに妹は自害した。

良く考えるべきだった。

後継ぎがまだいないから、産めばその子は将来の後継者になれる、もちろんその母も大事にされる。と思っていた。

何故、良い年をしているのに後継ぎがいないのか。その前に花嫁がみんな死んでしまうからだ。心を病んで。または、怪我や病気で。

そんな悪魔だったとは見抜けなかった。

国内では花嫁の成り手がいないから、こちらの国まで手を出してきたのか。

私は父を詰った。

「私だって、騙されたんだ。巧みに悪評は隠されていた。仕方ないだろう!家の為になる結婚は義務なんだ!」


私と母に責められて父は引退した。

私は誓った。

自分の娘には不幸な結婚は強いるまい、と。

メリイは死んだ妹に生写しだった。

ああ、あの子が帰ってきた。今度は幸せになるために。

ルートはうってつけだった。メリイの為に。

私の可愛い娘はどこにもやらない。

手元に置いて、幸せになるのを見守るのだ。

そのために、理想的な婿に育てよう。

多少わがままな所はあるが、あのハルトの息子だ。

根は悪くないだろう?


最高の教育を。最高の生活を。我が子と変わらぬ愛情を。

ルートに与えよう。たっぷりと。


マリーもそれに同意した。

―メリイの幸せの為ですもの。それにハルト夫妻は良い人達でしたわ。


途中まではうまくいっていたのだ。



なのに。

何故?なぜ、なぜ!裏切った?何故なのだ!ルート!


何故、現れたのだ!ロージイ!バーバラの亡霊め!


二人のせいで私は妻を娘を息子達を失った。


そうだとも、あのボーモンに嫌がらせをさせた。

それがアラン様や王妃様にバレた。

「公爵。君がした事は問題だ。公にしたくないなら、マリー夫人を解放してやれ。

私から見ても夫人は壊れている。原因は其方だろう。レプトンくんもそれを望んでいるよ。」


ボーモンはウチで雇ったが、解雇した。

「もう、王家に目をつけられた。アラン様に直々に叱責された。ロージイのことを。

私も終わりだ。

巻き込まれたくなければ、どこにでもいけ。」


ボーモンは顔色を変えて出ていった。

多少の金はせびられたが。


「父上。引退なさって下さい。アラン様からも遠回しに打診されてるのがわからないのですか。」

「サード、お前に務まるのか?」

「父上。あなたもここ一年程ろくにお仕事なさってなかったではないですか。

ルートの不貞がわかった頃から。」

後ろで執事達が頷いていた。

商会での代理人達も。


領地に引っ込む事になった。


誰もいない。マリーも。メリイも。息子達も。

妹の結婚の時、貴族の結婚は家の利益を考えろ、と言う父の言葉。

反発しながらも、すり込まれていた。

型から外れた生き方が怖かった。

指をさされて非難されるのが怖かった。

今、何も無い。


以前、父が隠居した時に使っていた屋敷だ。

歴史は繰り返すと言う事か。

だが、父には母がいた。晩年は付き添っていたんだ。

父は気鬱の病にかかってフラフラと彷徨い歩き、水に落ちて亡くなった。

母は修道院に入って、彼等の為に祈りを捧げると言った。

カビ臭い屋敷に三人の使用人と暮らす。


それから、夜ごと夢にバーバラが訪れる。

いつもあの、卒業式の日の繰り返しだ。

泣いている。

「ずっと、貴方が好きでした。」

「ああ、私もだよ、バーバラ。」


―やっと、言えた。


折れる程抱きしめた。

何という幸福感。

涙を流しながら笑顔になる、バーバラ。


その赤い髪が、赤い唇が。潤んだ瞳が、全てが愛おしい。


そして、目が覚める。

現実は残酷だ。


「ルートが亡くなったそうです。」


ある日執事が私に告げた。

「何だと?」

「獄死したとだけ。詳しいことはわかりませんが。

ハシナ国の間者が関わっているようです。」


それから。

見る夢が変わった。

亡くなった哀れな妹が出てくる。

「お兄様、もう、悲しまないで。私はもうメリイになったのよ。幸せに暮らしているの。

ほら、転生者だと言ってたじゃない。」


「ああ!そうなのか。良かった。幸せなんだな。」

夢を見ながら泣いているのがわかる。


「ええ、ルートももういないし。問題は何もないわ。」


「そうか。そうなんだな。お前が笑ってくれて嬉しいよ。助けられなかった私を許してくれるのか。」


そこで妹の姿が変わる。バーバラだ。


「そうなの。生まれ変わっているの。」

「そうか、君もか。」

「ルートは、もういないし、何の問題もないわ。」

「ああ、そうだな。」


「待っているわ、私のあなた。」




――迎えに行かなくては。

私のバーバラを。

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― 新着の感想 ―
自分以外の人間の感情を察するのが苦手なんかな?
父のようにはならないと思いつつ、刷り込まれた高位貴族としての生き方・考え方が抜けなかったのが不幸の素なのかな。 よくある、結婚直前に婚約破棄とか結婚前から愛人第一とかの貴族男性よりは誠実だったともいえ…
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