夢の続き。③
※ルート視点。
ここ半年、剣で強くなることしか考えなかった。
やった分だけ結果は付いてきた。どんどん強くなって行くのがわかった。
いつのまにか、温かい家庭の幻影が浮かんでそれを守らなくてはと思った。
それが仕組まれたこととは。
独房の低い天井を見る。
ルネと言う女を殴った、と思った。
実際は剣を振るったらしい。
その日の事は記憶がハッキリとしないんだ。薬の影響らしい。
何しろロージイまで殺そうとしたなんて、嘘だろう?
ロージイの上の兄貴に責められて離婚届にサインをした。
―どうせ、出られないんだ。
ルネの家族は毎日のように罵倒しに来る。
今日はロージイの下の兄貴、ケイジと鉢合わせして、
「そちらが先にウチの妹を突き飛ばして、大怪我と流産をさせただろ?」
と言われると黙って立ち去った。
「ケイジ義兄さん!来てくれたのか。」
「もう、義兄ではないがね。」
「流産はほんとなのか?」
「いや、嘘だ。私もあいつらには色々腹を立てているんだ。」
「俺はどうなるんですか。」
「薬の影響を見るためにキミは生かされている。
いつ完璧に抜けるのか、とか。何しろキミほど多量に摂った人間はいないらしい。
そして暗示にかかったものも。」
「そ、そうですよね、薬が悪いんだ!俺は悪くない!」
そこでケイジ義兄はため息をついた。
「だ、そうですよ。ラージイ兄貴、それからサード様。」
奥から二人が出できた。
「サード兄貴!」
「もう兄貴と呼ぶな。」
さっきのケイジ義兄と同じセリフを吐く。
「そんな考えか。やはりどうしようもないな。
お前、自分が悪いとは思わないのか。」
ラージイ義兄が冷たく言う。
「ルネ嬢への慰謝料な、いろんなことを考慮してもな、そのままというわけにはいかない。
いくら心神耗弱状態だったとしても。」
「え。」
「君達の父親みたいに鉱山送りかな。
若いからしばらくは持つだろう。」
サード兄貴が続ける。
「サード様、殺人未遂をする奴だから外に出さないほうが。」
「鎖をつなぐそうだ。」
な、何を言われてるのか。
「最初はな。ルネの親がお前を引き取って売り飛ばすと言っていたんだ。そっちがいいか?
それで賠償金に当てるとさ。まあ、五体満足とはいかないが。」
サード兄貴の目はどこまでも冷たかった。
「ロージイにした事を思えばおまえを締め殺したい。」
「ケイジ、落ち着け。」
「本当に、俺が?!ロージイを締めた?信じられません。」
「誰でも妹は大事なんだよな。」
「サード兄貴!助けてください。」
「助けるねえ。せいぜい出来る事は早めに死刑にしてやって下さい、苦しまないように。と進言することだけさ。」
「し、死刑は嫌です。鉱山で働きます…。」
「へえ。」
サード兄貴の目は冷たかった。
「後悔するなよ?」
そのあと、ポツリと言った。
「どうして聞かないんだ。彼女達の容態を。
それからウチの母のことを。メリイがどうしてるかとか。父がどう思ってるかとか。なあ。
俺は情けないよ。」
「あ、おばさんが倒れたって。大丈夫ですか?」
「ふん。学園長が言ってたとおり、母の心配はしてくれんだな。母はな、父と別居した。
元はな、おまえのせいだよ。」
「え?あの俺のことで怒ってケンカしたとかですか?そんな。
そ、そうだ!残った寮費。学園長が預かっているはずです。おばさんにあげてください。」
「…はあ?」
「俺が学園を辞める時にくれるって言ったんです。
おばさん、家を出たならお金が必要でしょ。
何ヶ月分かの生活費にはなる筈だ。」
ふーっ。
「色々と言いたいことは、ある。
まずは母のことはそれなりに大切に思ってるんだな。
だが、余分なお金があったんなら、慰謝料に回すべきだろう。ま、元は父のお金だがね。」
そう言ってサード兄貴は去っていった。
次の朝。まだ外が暗い時叩き起こされた。
「おい、起きろ。
今日からお前は、鉱山送りだ。さっさと出ろ。」
外に出たその時。
どさり。
牢番が倒れた。
「え?」
「静かに。私はハシナ国のものだ。一緒に来い。
竜の乙女をおびきだすエサになってもらおうか。」
「竜の乙女?」
「何知らないのか。元婚約者だろう。来るか、来ないのか。」
「行きます!」
「そこまでだ。」
そこにはサード兄貴とラージイ義兄、そして。
「あ、アラン様?」
後に護衛の影達がいる。
「ふん。エサに食い付いたのはどっちだ。」
それからはあっという間だ。
いきなりハシナ国の間者がアラン様に切りかかり、
影のアンディ様がアラン様を庇った。
他にも、仲間がいたようだか、あっという間に鎮圧された。
「王太子の私を狙ったんだ。言い逃れは出来んな。
リードを襲ったのもおまえらだな。」
「ああ、そうだ。ブルーウォーターにいる間は手が出せないからな。出たところを狙った。
深手をおわせたのは俺だ。」
「まあ、あのリードは偽者だがな。」
「嘘を言うな!あんな綺麗な男が他にいるわけが。」
「それ、ハイドが聞いたら喜ぶなあ。」
「アンディ!無事だったのか!」
「アラン様。私の鎧は特別製なんですよ。」
アンディ様の身体から赤い光が点滅していた。
「ああ、ツチノコが張り付いて守ってくれたのか!良かった!神さま!」
アンディ様の服は綺麗に切り裂かれていた。
「あの短い間にねえ。前も後も袈裟斬りだ。
いや、まったく良い腕だ。」
それから。
俺とハシナ国の間者達は、牢の中庭に出された。
「おまえはこの国を裏切ってハシナ国に行くと言ったな。もう許せない。」
アラン様の目は怒りで燃えていた。
「生かしておいてはまた狙われますねえ。」
アンディ様が歌うように笑った。
「母とメリイには間者に切られたと言っておくよ。」
サード兄貴がつぶやいた。
そこへ。
青い清浄な光が満ちた。
「え、キューちゃん?」
「白狐様!?」
「こ、これが伝説の?」
目の前に白い大きなケモノが立っていた。
その肩に乗っているのは、小さいドラゴン?
「二大神獣様がこんなところに?どうして?」
驚くアラン様。
「え、あっちを守ってくれないと困るよ。」
ぼやくアンディ様。
「白狐様!?
ど、ドラゴン?ドラゴンだ!」
驚く兄貴たちと間者達。
青い光は怒りに満ちている。
「アンディサン、スグ済むよ。コイツラカヨ、ハイドを切ッタノハ。」
「そ、そうだけど。まだ聞きたいことがあるからさ。全滅はちょっとね。」
ギューグルル。
白狐様が唸っている。
「アランサン。誰ヲ残せばイイカ?」
「そうだな。このへんの二人程でいいか。」
「ハイドを切ッタヤツは?」
「コイツだ。アンディを切ったのも。リーダーかもしれんが、残しておくのは危険だ。」
ババババババ。
その瞬間。
白狐様が吐いた青い光に包まれて、その男は消えた。
ハシナ国の間者達は震え出す。
「あ、スダンが!?一瞬で!」
「お、恐ろしいお助けください!白狐様!我が国の守り神では、なかったのですか!」
グーガガガ。
「白狐の旦那。色ンナ国デ祀ラレテルナア。
エ?ソンナノハ知らないって。
お気に入りのハイドを手にかけられて怒り心頭に発スルダヨナ。」
「UMAは気にいった人間だけに優しいって本当なんだな。」
サード兄貴がポツリという。
するとドラゴンが見る見る大きくなった。
「ソウダヨ。安心シナ。メリイは俺が守ってヤルヨ。メリイの兄サン。」
「おお、それは。何という事だ!ありがとうございます!」
「ククク。ダカラね?このメリイの元カレ、俺が焼イテ良いカナ?どうせ、アンディサンか、シンゴガ切るつもりダッタンダロ?」
誰の返事も待たずにドラゴンがこちらに飛んで来た。
その目が俺を捉えた。
ああ、爬虫類のように縦長の目だ。
それがいきなり瞳孔が開いて丸くなった。
「待っ…」
赤い物に包まれた。
――最後に頭に浮かんだのは、ロージイの赤い髪だった。




