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何かが。変わる。

※レプトン視点。


母がブルーウォーター公国に来て何日か経つ。

シェルターという避難所にいれて、様子を見に毎日通う。

そこには母と同じように虐げられた女性たちが他に10人程いた。老いも若きも。


「まあ、ヘレナさんにミミ様ではありませんの。」

そこには元お城の侍女長と王の従姉妹のミミ様と言う女性がいた。

「お久しぶりですわ。マリー様。こちらではゆっくりなさって。」

「ええ、貴女を苦しめる者は入ってこれませんわ。」


母は高位の貴族の女性だったミミ様が働いていることに驚いていた。

「ふふふ。誰かの役に立つのは嬉しいものです。

私も色々愚かな事をしましたけど、何とか許されました。」

「そうなのですか。」

日に日に穏やかになって行く母。

みんなと刺繍をしたり、散歩をしたり。


そろそろ仕事に戻らなくては。


ネモ様はとても母に同情してくれていて、

「しばらく、母上についてあげなさい。」

と言って下さっていた。


お休みを打診すると、リード様も頷かれた。

「ブルーウォーターの家系はね、虐げられた女性に弱いのさ。特に自分の親ぐらいのね。

知っているかな?ネモさんの母は私の乳母でね。」


「ええ。それは存じております。」

「アリサと言うんだ。会った事あるだろう?

今は、ネモさんの子供の世話をしているけと、うちの子の世話をしてくれていたんだ。

彼女は夫に監禁されていたのさ。母上が助け出した。

ネモさんの父、レッドは妻が重用されているのに嫉妬して、下賜された宝石なんかもみんな取り上げた。そして浮気三昧さ。

バラされると困るから外に出さなかった。

そしてネモさんのローリア妃は元はネモさんの兄嫁でね。やはり彼女も監禁されていた。彼女はもっと酷い目に遭っていて、もう少しで落命するところだったんだよ。それも母上が助けだした。

だからネモさんはうちの母上には頭があがらないんだよ。」

そこでリード様は視線を落とされた。


「ネモさんの父と兄とその下の弟、セバスチャンと言うのだがね。

三人はクズだった。もうこの世にはいないけど。くくっ。」

リード様がこんな酷薄そうな笑い方をするなんて。


「そのセバスチャンという人は?」

確か、マーズさんが言っていた、

私はセバスチャンみたいになりたくないんです、と。

「うん。私の乳兄弟だった。年を経るごとに実家の男尊女卑の思想にはまって。

レイカさんに懸想したが、またタチが悪いストーカーみたいになってしまってね。」

「え、それでレイカさんは、そいつを振り切る為に結婚の自由を?」

「そう。彼女の料理と会話のおかげで我が母は健康を取り戻したんだ。

あとは才女エリーフラワー殿も。すごくつわりがひどくてね、レイカさんのご飯と看病がなかったら、どうなっていたか。

その褒美に結婚の自由を勝ち取ったんだよ。」


確かに。一国の王妃と類い稀な頭脳を救ったならば。


「レイカさんはアンディに自分からプロポーズしたと聞く。

メリイさんも自分でしっかりとパートナーを選んで欲しい。

なにしろ龍太郎くんがついてるんだ。彼とメリイさんは心が繋がっている。

それを許容する男性でなければな。」


そこでリード様は太陽のように笑われた。

「お母様に孝行をしてあげなさい。ご存知の通り、私も母上が大好きなんだ。」


ある日、母がキッチンを借りてお菓子を焼いてくれた。

「小さい頃、よく焼いて下さいましたね。」

懐かしい味に涙が出た。

学園の寮に入ってからは、なかなか実家に帰ってなくて。

もっと母に目を向けていれば父との不仲に気がついていただろうか。



「母上、外に出ませんか。良い天気ですよ。」

母を散歩に連れ出した。ご挨拶に何人かクノイチが付いてきてくれた。


美しい花畑を歩く。


「まあ、危険はないと思いますけどね。」

「あら?キューちゃんと龍太郎くんではない?」

「本当だ。近づいてくるわ。」

 

空の一点に豆粒のようにドラゴンと九尾のお狐様が飛んでいるのが見えた。


誰か乗っている?


「キューちゃんに乗ってるのは、ハイドさん?」

「本当。スキンヘッドが光ってるわ。ふふ。」

「あら、龍太郎くんには女性が乗っているわ。」

「メリイさんよ!」


え、なんだと?

メリイが龍太郎くんに乗っている?


そんなばかな、危ないだろう?

近づいてくる。姿が見える。


―本当だ。


「危ないぞ!降りろ!メリイ!?」


こっちの気も知らず旋回している。


「ーえ?メリイ?ま、なんて事!ドラゴンに乗っているわ!?え、現実なの…。」


「おーい。」


ノンキにクノイチ達は手を振っている。

メリイも振り返す。

「ちょっと!どこに行くんだっ!おい!」


また空高く登って飛んで行った。

「素敵ね?私も乗りたいわ。」

「私も。」

キャアキャア喜ぶクノイチ達。


こっちは心配でたまらないんだ。


「あの子、自由そうだったわ。」

「は、母上。」

「ドラゴンに憑かれているの?本当に?

どちらかと言うと、ドラゴンを従えてるわね?

元気そうで良かった。いきいきとしていたわ。」


母は穏やかな表情だ。

「憑かれるというか。前世の話を覚えていますか?」

「あの、病気で亡くなったという?」

「ええ、アレは本当なんです。あのドラゴンは前世の、その、知り合いで。」


食べられて融合したとは言いにくい。


母は目を見開いた。

「まさか、リュウジ、なの?あのドラゴンが?」

「ええ、まあ。そうみたい…です。」


「え、それでは、生まれる前の世界の恋人なの?」

「まあ、恋人未満?そんな感じですが。」


母は涙を流していた。


「あの子があんなに焦がれていた相手よ。

ルートが、リュウジだったらという願いを何度も聞いたの。

―そう、ここで会えたのね。良かったこと。

本当に運命の恋人達なのね。綺麗なお伽話が現実に起こるなんて。」


「母上。」


「いいわね、飛べて!素敵だわ。羨ましい。

私も何度も飛んで逃げて、マナカ国へ行きたいと思ったか。

…この身体に羽が生えないかと。」


「母上、それは。」


「レプトン、ごめんなさいね。貴方達が生まれた事だけは嬉しいの。自慢の子供達だわ。」


母はいつまでも空を見つめていた。


「あの子は幸せなのね。きっと。」

母の顔は晴れ晴れとしていた。


「レプトン、私はこの国で、生きて行く。もうあの人の所へは戻らないわ。」

「母上。」

「ここでならお仕事はいくらでもある、と言われたの。

いつまでも、ロージイの叔母に未練がある、あの人の元へ帰るものですか。」


「え!本当ですか?!」


「私は、逃げて彼とマナカ国で生きて行きたい、と思いつめたとき、外国語も勉強したし、刺繍や料理も覚えたの。どうやったって生き抜く覚悟はあったのに。

ぬるま湯のような生活を選んだのも私。」


そしてポツリと。


「メリイは私より賢くて強かったのね。」


「それより母上。ロージイの叔母を父上が?」

「あの人の書斎をご覧なさいな。あの女のブロマイドが山程隠してあるわ。

最初は多分。ルートの親の形見にあったのを取り上げたのね。

時々、思い詰めた顔でじっと見ていたの。私の中で何かが壊れたわ。」


「そんな。」


「それから偶然、街の古道具屋で同じものを見つけて買いとった。

アルバムには返したらしいわ。せめてもの良心かしら。

その後はタガが外れたようにブロマイドを買い漁った。

侍女の一人がこっそり教えてくれたし、来たのよ。屋敷に古道具屋がね。

お探しの物が見つかりましたと。箱を渡したの。

隙を見て箱を開けたら、あの女のブロマイドがびっちりよ。もう、涙も出なかったわ。」


母はため息をついた。


「ごめんなさいね。我が子にする話ではないとはわかっているけど、もうイヤなのよ。

ここに来て。自立出来るかも、と思って。

伝説の竜を駆る乙女のような、メリイを見て。」


母は俺をじっと見た。もう泣いてはいなかった。


「あの人と離縁する。それにサードが、早く跡を継いだほうが良いわ。

あの人は少しずつ壊れ始めている。」


私が言うことではないけどね、と母が言った。


「アラン様が、あの人に原因はそなただ。空気の良いところでゆっくり話すと良い。と、あの時おっしゃったでしょ。」

「はい。」



「あれは遠回しに引退して、領地の奥に引っ込めとおっしゃってる。何故気がつかないのかしら。」


母は顔を手で覆った。


そして母はリード様と王妃様のお力を借りて、離縁した。

誤字報告ありがとうございます

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― 新着の感想 ―
お母様、吹っ切れてよかった。 前世を疑っていたのに娘の話を覚えていて祝福のような言葉さえ出てくるなんて。 わが身を振り返ることもできたし、もう安心ですね。 いい息子が寄り添った甲斐があるというもの。 …
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