財宝。
誤字報告ありがとうございます。
「さ。さあ、今度こそお宝と対面だな。」
ハイドさんは涙をぬぐってキューちゃんから降りた。
コーン。
(村をキレイにしてやったのだから、後で果物をよこすのだぞ。)
「ハイドさん、あとで果物をくれって。」
「わかったよ!」
歯を見せて笑うハイドさんの表情は晴れ晴れとしていた。
「コッチ。火山の横。穴がアルダロ。」
例の桜並木を過ぎたあたりだ。
上から蔓が垂れ下がっていたが、龍太郎がふっと息をはいて避けると、ポカリと横穴が開いていた。
「ココだよ。」
中に入る。
「暗いか。ドレ、明るくしてヤロウ。」
成金が札を燃やすような事を言って龍太郎が細く火を放った。
ぽぽぽぽっ。
壁の蝋燭に火がついた。
「蝋燭。作ったの?」
「ウン。後ナ、この辺にやってクルんだよ。ドラゴンを倒したいやつ、財宝が有ると思ってくるヤツ。タクサンクル。ソイツらを脅すとオトシテいくからな。」
「へええ!うわ、絵本とかで見た光景のまんまじゃん!」
テンションが上がるハイドさん。
剣や金貨や、水晶なんかが、所狭しと並んでいる。
奥にあるのがウロコかな?
蝋燭の火に照らされて虹色に光っている。
「剣はな、錆ビテルカモ。金貨は川底や湖とか海に沈ンデイルのさ。龍の本体はヒカリモノが好きだったカラ。何百年モかけて集めてル。
コッチがオレが作ったダイヤ。掘り出したルビー、サファイア。オレモ、原石好キダシ。」
「凄いなあ。こんなにあると有り難みがないかなあ。というか現実味がない。」
コーン。
(我だってどっかに集めたぞ。エリーフラワーやレイカの母は喜ぶか?)
「それは、喜ぶと思う。ていうか、本当にディズニーランドのカリブの海○みたい。宝箱もある!」
「それは、海賊船を沈メタトキダナ。」
「海賊船?」
「ウン。バイキングかな?街を荒らして船デニゲタ。オイカケテ沈メタ。
サア、何が欲シイ?ハイドにもヤルヨ。」
「ええーっ。ウロコでいいけど。」
「宝石は要らんのか?」
「うーん、特に付き合ってる人もいないしな。
あ。エリーフラワーさんとミネルヴァちゃんと、レイカさんにあげるか?」
「ア、ソレナラ俺もリード様とネモさん、王妃サンにアゲルか。権力者ダモンな。」
キュー。
(レイカには、メリイから渡せ。くくく。アンディは嫉妬深いんだ。)
「あら、そう。ハイド君。レイカ様には私からお土産にする。アンディ様が妬くって。」
ハイドさんは頭を縦にした。
「ああそうか。あの人も親兄弟を一家惨殺で亡くしてるからな。
レイカさんへの執着が半端ないや。」
さらりと凄い事をいう。
「エリーフラワー様にも私からでなくていいの?」
キュー。
(エドワードはな、気持ちがまっすぐでまったく、黒い所が無いやつだ。あんな人間も珍しい。
何百年振りかであった。だから我は離れないのさ。)
「ネモサンとリード様は、コノ土地ニ愛サレテイル。モウふつうの人間トハ違うネ。」
(フフフ。ネモが望めばこの世界を手に入れてやるのに。)
「え。なんか。不穏な気配を感じるんだけど。」
「うーん、何かエドワード様が、善人って話だよ。」
後半は伝えないでおく。
「ああ、そうだな。―オイ、龍太郎!オレのポケットに何をそんなに詰め込んでるんだよ!」
「イイじゃん。腐るモノジャナイ。オマエもイツカ恋人ガ出来るカモ知レナイシ。」
「まあ。そうだな。老後の資金にはなるかあ。」
その後、龍のウロコを持てるだけ持って、ポケットにお宝を詰めるだけ詰めて帰途についた。
ハイドさんは背中にウロコをくくりつけられて甲羅の様になっている。
「オオ!亀の甲羅ノヨウダ!コレカラ亀センニンと呼ブヨ!」
「それ、褒めてないよね!」
研究所に降り立った。
エリーフラワー様が、
「どうだった?」
「あの、はい。気持ち良かったです。後コレお土産です。午後の仕事休んでしまってごめんなさい。」
「いいのよ、神獣たちのする事ですもの。
コレがウロコね!まぁ素敵。解毒作用あるんでしょ。」
「エリーフラワー様。ミネルヴァちゃんとお揃いでコレを。龍太郎のところにあって、分けてくれたんです。」
「まあ!大きなエメラルドね!ハイド君、彼女はいないの?彼女にあげればいいじゃないの。」
「え、そんな人いませんよ。」
キュー。
「ん?そうか。シンゴくん。さっきもらったウロコをキューちゃんに渡すでござる。」
「はい。」
パクリ。
白狐様の姿が光って、
コロリ。
指輪が吐き出された。
「おお!これはいいな!シンゴくん。キューちゃんが竜のウロコと、水晶で作った指輪でござる!
神獣二人の守護がついてござるぞ!」
シンゴさんの目が輝いた。
「あ、ありがとう。凄い。どの指につけても綺麗に嵌る。不思議だ。」
伸び縮みが自由自在なのね。
「指輪で毒消しがデキル。アト素早サが2上ッタ!
守備力も2上ッタ!って感ジダヨ。」
「龍太郎、ドラク○みたい。」
「ド○クエはわからないけど、ありがとう。」
「イイッテ。オマエも長生きシロヨ。」
シンゴさんは、
「仕事の邪魔をしてはいけませんから。」
と帰ろうとしたが、
「おい、俺の部屋で寝てけよ。夜また飯でも食おうぜ。」
ハイドさんが声をかけたので、今晩はここに泊まるそうだ。
「相変わらず、ハイドは面倒見が良いですね。」
二人が部屋に向かうのを見てイリヤさんが笑っていた。
「今日ね、ハイドさんの村にも行ったのよ。」
「え、そうですか。」
「白狐様が浄化してくれたの。」
「それはようございました。ハイドはね、あれ以来
生ける屍みたいになった所があって。
今は余生を過ごす御隠居みたいな心境なんですって。」
「ええ?あの若さで。」
「そうなんです。まあ髪はアレですけど、顔立ちはいいし。料理は出来るし、気配りも出来るしで、そこそこモテるのですが、やはりもう枯れてるんですって。そう言う情熱が。」
そこでイリヤさんは私を見て笑った。
「だから、そう言う点では安心な男なんで、護衛としては適任ですよ。」
「はあ。」
そして夜は私とハイドさんと、シンゴさんとイリヤさんとで食事した。
唐揚げの大盛りだ。
横に梨やスイカやブドウを置くと、
キュー。
白狐様が姿を現した。
「さあ、どうぞ。お納め下さい。今日はありがとうございました。」
パクリ。
すべてのフルーツを一飲みにして、伝説の美獣は消えて行った。
「今日はタノシカッタ。メリイ、マタ飛ぼうぜ。」
「うん。」
「オッカサンにも、会えるトイイナ。」
「…うん。」
母が落ち着いて自分から会おうと言ってくれるだろうか。
その日はそんなに遠くないような気がした。




