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ずっとあなたが好きでした。だけど、卒業式の日にお別れですか。  作者: 雷鳥文庫


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27/42

空の高さを比べて見れば。

龍太郎が私を見て笑った…気がした。

頭の中に声が聞こえる。

(さて、行くか。)

「行くってどこ?」


中庭に誘われて、龍太郎は大きくなった。


「オイ、ハイドの兄チャン、コレつけてくれよ。

エリーフラワーサンに作ってモラッタ。」

そう言いながらも、龍太郎は自分でも器用にランドセルのように鞍を被りはじめる。

「あ。ああ。」

「え、今から?ウロコ取りに行くの?」

「おい、待てよ。ドラ野郎?メリイさんを乗せて飛ぶつもりじゃないだろうな?」

シンゴさんがかみつく。


キョトンとする龍太郎。


「ソウダヨ?メリイはズボンダカラ、イイダロ?ホラ、ここの金具とめて?」


「いや、そんなこと言ってない!スカートとかズボンとの前に、危ないって言ってるんだっ!」


そこへエドワード様とエリーフラワー様も現れた。

「あら、飛ぶの?」

「拙者やレイカさんのお母さんも、良くキューちゃんに乗って飛んでいるでごわすよ。」


「いや、そんな!危ないですよ!」

シンゴさんは青筋立てている。

(一ノ瀬はどうなんだ?飛んでみたくないか?

夏の空は気持ちいいと思うよ。火山からウロコを取ってこようぜ。

ナウシ○みたい?かな?ちょっと違うか?)


「私、飛んでみたい。」

「ええっ!」


キュー。


(仕方ない。我がついていく。落ちたら拾ってやるぞ。龍太郎より大きくなれるからな。)

九尾のお狐様が姿を現した。言葉が頭に入ってくる。


「おお!キューちゃんがついて行ってくれるそうでござる!」

「ではダーリン(エドワード)が乗ってついていくの?」


キュー。


白狐様は周りを見回した。

(ついて来なくてもいいけど乗せるならハイド、オマエだよ。

我もドラゴンもここを離れるんだ。

エドワードには残ってエリーフラワーを守ってもらわなくては。)


そして、ハイドさんをじっと見た。


キュー、コーーン。

(オマエの方がシンゴより冷静だし、馬に乗るのも上手だ。

それに我はここの研究所では、エドワード達以外でオマエが一番好きだ。)


「乗せるならハイド君だと言ってるでござるな!」

「え、俺?なんで?カツラが飛んでいっちゃうよ!?」

「ほほほ。ハイド君。UMAは自分で付き合う相手を選ぶのよ。

コレばかりは仕方ないの、ね、シンゴくん。」


「…はい。」


「ええええー?」


私は大きめのリュックを背負った。

胸が高鳴る。

「ハイド、早く狐のダンナにノレヨ。」

「あ、そんな。心の準備が!」


ふわり。


私たちは空に舞い上がった!


「ええー凄い!」

気持ちいい!ちゃんと持ち手もついている。


下を見たら、シンゴさんと目があった。

なんだか泣きそうな顔をしてた。


「うう、お助け。」

ハイドさんは半泣きだ。

「ああ、カツラが!」

パクリ。

飛んだカツラは龍太郎が咥えた。

「持っててヤレ。」

「うん。」カツラをポケットに入れる。


研究所から離れて街の上を飛ぶ。

すべるように。駆けるように。風となって。

気持ちいい。何度も憧れた。

魔法のほうきに乗りたい、魔法の絨毯に乗りたいと。

下には、花畑や動物園が見える。

ネモさんや、マーズさん達が驚いているわ。

コーーン。

白狐様が一言鳴く。それでみんな安心したようだ。

(凄いよな。九尾のダンナはすべての動物を従えるんだ。俺はまだそこまで行かないや。)


「お、あらら?これは湖?綺麗じゃないかっ!

あれは果樹園だな!

うん?君たちは雁なの?一緒に飛んでくれるの?

可愛いなあ!良いねえ!」


ハイドさんも慣れて喜んでいる。


川面のギリギリに飛ぶ。魚の群れが煌めいている。

「ああ!美味そう!獲りたいなあ!」


草原の上を飛ぶ。

ヌーの群れ?一緒に駆け抜ける。

「おおー!ゾウさんだ?ライオンさんだ!」


(ハイドのアンちゃん子供みたいだなあ。)

(我はこのような、純心な奴を好むゆえ。)


神獣同士の会話が聞こえてくる。


(あ、あれは。そうか?)

(挨拶したらどうだ?)


目の下には、レプトン兄に連れられて花畑を、散歩する人影が見えた。


―母だ。

(レプトンさんに挨拶するか?アレはお母さんなんだろ?近くまで行こうか。)

「え、待って。」


ギュウウン


降下していく。レプトン兄が気がつく。

私を見て固まった。

「××××!×××××〜!」


何か言っている様だが聞こえない。

母がいぶかしげに振り向く。

コチラを見る。


目が、合った。


「………!?○○!」


何か言っているが風の音で聞こえない。

(もっと寄るかい?)

「ううん、いい。」

周りにいるのは護衛か警備か。見覚えのある忍びの人たちもいる。

にこやかに手をふってくる。

私も笑顔で振り返す。


もう一度母を見る。心配と、とまどいの表情が浮かんでいる。

―嫌悪の表情ではなかった。


ああ、良かった。


そのまま去る。温かいものがしたたり落ちていた。

(泣いてるの?)

「うん。そうみたい。」



そのままそこを離れた。


そして火山の麓についた。

「こないだ、桜ヲ折っちゃったンダ。」

桜並木の残骸がある。

みんなで降りたった。


キュー。

(ココは墓だったんだな。何人もがここに打ち捨てられてる。)

「ウン、ココに、オレも捨テラレタ。最近ハ使ってナイミタイダケド。鳥葬の場所ダ。」


ギュウウン。

(仕方ない。浄化してやる。ホラお前のウロコを一枚剥がして寄越せ。)

「ワカッタ。」

爪で一枚龍太郎がウロコを剥がす。

「イキがいい奴ガイインダロ。」



パクリ。


飲みこんだウロコが胃に到達したかな?

のタイミングで、白狐様の身体が蒼くひかり始めた。


「ええ?な、何がおこってるの?メリイさん!」

「うーん多分、大丈夫だと思う。」


ばばばーっ。


蒼いひかりが伝説の生き物の口から、一面に放たれる。

地をはっていく。舐めるように。

そしてそこから白く輝いていく。


荒野が。浄化されていく。


少しずつ。草の芽が芽吹いていく。

桜の木の幹にそって蒼い光が昇っていく。


枯れ木に命が吹き込まれる。

「す、すげえ。」

ハイドさんは口をポカンと開けている。

枝に蕾が付き始め、色づきはじめる。

固いつぼみがほころんで行く。


そして花が咲き始めた。


「アア、桜ダ。満開だ。」


キューウウ。

(季節外れだ。一日しかもたん。来年また咲く。

土地も浄化した。ここには彷徨う魂も、もういない。もちろん骨もな。消えた。

春には安心して花見が出来るぞ。)


「ア、アリガトウ。白狐の旦那。」


すごい。何という力。溢れる癒やしの波動に身体が震えてる。


「ホラ。」


龍太郎がひと枝折ってハイドさんに差し出した。


「この辺ナンダロ。アンタの生家。」

(オマエもお参りしろ。)


ハイドさんの顔がこわばった。

今まで見た事がないような真剣な顔をして。


五分程。そこから飛んだ。


廃墟の村があった。

一件の家の前に降りたった。

「…何でもお見通しなんだな。神獣様は。」

「鳥タチノ目ヲ通して、色々知ルンダ。」


「ここはね、忍びの隠れ里なんだよ。八年程前かな。滅ぼされたけどね。」

ハイドさんは私の方を見た。

「側妃が起こした事件。知ってるよね。

リード様暗殺未遂事件。」

「ええ。」

「あの一族は追われてここにたどり着いた。

運悪く里には女子供しかいなかった。

うん、偽情報に惑わされて、男達は反対方向に向かっていた。ギガント国が一枚噛んでたというウワサもある。

見つからないはずのここがバレた。里に裏切者がいたんだな。」


そこで、ハイドさんは花を手向ける。


「ここが、俺の家。俺が戻ってきたときには、祖母と妻と子が死んでいたよ。妻は産後で動けなかったんだ。」


「妻と子供!?」


「俺はね、17で結婚したのさ。今年27になるんだよ。」


ハイドさんの横顔は憂いをおびて、すべてを諦めた人の様だった。


「俺らは色んな覚悟は出来てるんだ。母が任務で亡くなった時も。

だけどね、逃走するための資金と備蓄が欲しくて、

しかも裏切られたせいで、弱いものが皆殺しにされたのは許さない。」


側妃の一族は滅ぼされたと聞く。


「俺らはそれから、俗にスケカクさんと呼ばれる影の偉い人達に拾われた。

アンディ殿と会ったのもその頃だよ。

あの人は三羽烏という、王妃様が育てた忍びでね。

赤い稲妻と白い鬼と黒い悪魔。

まったく黒い悪魔のようだった。今でも強いけどね。」

「黒い悪魔ガ、アンサンだね。後ノ二人はモウイナイけど。」

「そう。そしてアンディ殿が率いてアイツらを、滅ぼした。感謝している。」


そしてハイドさんは顔をあげて、

「ずっとここに来る勇気がなかった。

キューちゃん、ここを焼き払って綺麗にしてくれないか。」


キュー。

(わかった)


そして広がる青いひかり。残ったのはあの桜の枝。

それが一本の木になっている。

「これは!」


ああ、とハイドさんはひざまずいた。


「あ、ありがとう、キューちゃん、ありがとう。」

涙を流すハイドさん。


飛んで立ち去るときに、振り返ると一本の桜の木が

咲いていた。


まるで墓碑のように。


青い青い空を背にして、美しい薄紅の花が凛として咲いていた。

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― 新着の感想 ―
ヤラカシた色ボケどもの監視をして、色ボケの片割れにウザ絡みされた、シンゴくんのメンタルが心配ですね 泣きそうな顔、というのが気になります …片割れは色ボケというより、自己チュー上昇思考の持…
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