変わる。
五月末。カレーヌ様がご出産されたので、兄の休みに二人でお祝いに行く。
「俺は病院の前デ、待っテル。」
龍太郎とは玄関でお別れだ。
ノックをする。
「はい。あ!これは。グローリー家のお二人ではないですか!」
カレーヌさまのお兄様、ジャスティン様が出迎えて下さった。
ヴィトー公爵家の次期当主様だ。
ご実家とは縁を切られてるという話だったのに、
復縁されたのね。
「カレーヌと仲良くして下さってるんですか。
ありがとうございます。
お二人ともこちらで働いていらっしゃるんですね。」
にこやかに中へ入れて下さる。
「あら!メリイさんにレプトンさん。来てくださって嬉しいわ。女の子よ。ビレイーヌというの。」
「これは愛らしいお嬢様ですね。」
「おめでとう御座います。」
「カレーヌみたいな美人になると思いますよ、ええ。母も明日見にくると言っておりました。」
ジャスティン様は満面の笑みだ。
こちらも兄妹仲は良いのね。
「こちら、お祝いの品代わりに。ウチの研究所の最新作の化粧品です。ホワイトニングと引き締め効果があるとか。」
「ま!ありがとう!何よりだわ。いつも売り切れちゃって。プレミアついてるのよ、コレ。
妊娠するとソバカス増えるっていうけど本当ね。
あと、お腹にぬっても引き締め効果あるかしら?」
「エリーフラワー様ご自身には効果あったそうですよ。」
「まああ。嬉しい!彼女にも宜しくね。」
「ところで、お二人は。」
ジャスティン様が言いかけるのをさえぎるカレーヌ様。
「ありがとう!今度レイカとエリーフラワーさんと四人でお茶をしましょうね。化粧品ありがとう!」
「ええ、是非。」
病院を出る。
「あれは、ところでお二人は決まった方はおられるんですか。という流れだったな。」
「それでカレーヌ様が気をきかして逃してくれたのね。」
「うちよりカレーヌ様のところの方が、同じ公爵家でも家格が高いからなあ、縁談持ち込まれたら断るのが厄介だ。」
龍太郎が肩に乗る。
「嫌な結婚、断レルンダロ。」
「それがなあ、龍太郎くん。まだ親に言ってないんだよ。」
「アラ。」
「今度実家に戻って話をするよ。おまえはややこしくなるから、こちらにいてくれ。」
「そうね、二度と家から出してくれないかも?」
「ソノトキは、俺がトビラを焼き払ってヤルヨ。
カカカ。」
兄はリード様のお仕事をしている。
「ちょっと実家に帰るからお休みをご相談しないとな。」
「そうなんですか。」
それを聞きつけたのは護衛のヤマシロさんだ。
目配せをすると他の忍びが走っていく。
「先ぶれを出しました。今から参ればちょうど良いでしょう。
メリイさんもご一緒に。龍太郎くんに会いたがっておられますよ。」
ヤマシロさんは浅黒い顔で笑って言った。
「やあ、ご実家に帰るんだね?
うん、こないだの件だよね。
山と積まれた釣書をバーンと叩き返してやりたまえよ。バーンとね。はっはっは。」
美しい王子様は太陽の様な笑顔で笑いとばされた。
「やあ、龍ちゃん。会いたかったよ。」
「龍チャンッて言うナヨ!俺は千年は生きてるんだぜっ!!」
「でもねえ、お狐様はキューちゃんだよね。」
「アラ、ソウカ。パイセンがそうなら、ソレデイイヤ。」
「はっははは。やっぱり可愛いなあ!キミは。
ふーん、そうか。キューちゃんの方が先輩なんだな。」
「ナンカね、白狐のダンナ、自分はカミサマじゃないって言うケドね。オレが言うのもナンダケド身体ノ作りガ違うネ。」
「なるほどねえ。」
「ネモサンとアンタモ、オーラトカ、生命力もだけど神ガカッテルネ。飛び抜けテルヨ。」
「そうかい?嬉しいねえ。」
どんな事実もさらりと流すリード線だ。
「それで龍ちゃんはレプトン君についていくのかい?キミが、ガーッと火を吹けば普通の人間は震えあがると思うけどねえ。」
「ヤダよ。」
「優しいなあ!キミは。では、私が兄上に一筆書いてあげよう。
ご両親と共に王宮に呼び出してもらって。そこで王太子自ら口添えをすると。
うん、いいね。」
リード様は美しく微笑まれた。
兄は次の日、グランディ王国の実家へ向かった。
アンディ様が黒い髪をした見知らぬ人とシンゴさんを連れてきた。
ヤマシロさんと出迎える。
「メリイさん、お久しぶりです。お元気でしたか?」
シンゴさんは相変わらず屈託のない笑顔を向けてくる。この人もリュウジと一緒で笑うと目がなくなるんだ。なんだか胸が温かくなる。
「はい、シンゴさんもお元気そうで。」
「メリイさん、今度ね、シンゴの他にヤマシロもグランディ王国に送るの。
それでコイツを代わりにね?」
アンディ様に紹介されたのは、黒髪で彫りが深い美丈夫だ。
「あの、初めまして?」
「おや、やっぱりわからないか!」
龍太郎がグルグル周りを飛び回る。
「何言ってんだヨ、いつも料理を作ってクレル、アンチャンじゃナイカヨっ!スキンヘッドの!
ニオイでワカル!」
「ニオイって…。」
「あっはっは!凄いね、龍太郎君。」
いつも料理を作ってくれる、あのハイドさん?
レイカさんの助手の?
頭にはいつも手拭いを巻いていたけど。
「ウン、コッチ来るのか?ヤッター!マタ焼きそば作っテクレヨ!お好み焼きモ!」
龍太郎は大喜びだ。え、本当にハイドさんなの?カツラなの?この立派な眉は描いてるの?
「おおう、ハイドでござるか。見違えたでごわす。
カツラで仮装が出来るのはお得だな!」
「え、エドワード様。褒めてますか?ソレ。」
「まああ。色んなカツラを試してみてよ!
ウチの衣装開発部から持って来させるわ!」
エリーフラワー様も楽しそうだ。
ひとしきりオモチャにされたハイドさんは、グッタリしていた。
「人がスキンヘッドだからって。もう。」
「良いじゃないか?任務の時はいつも被ってるだろ。
おや!金髪なんか劣化版リード様みたいでうっとりだ!くくく。」
「アンディ様、やーめーて!」
それをシンゴさんも楽しそうに見ている。
仲がいいんだな。
―そうか。シンゴさんに久しぶりに会えたけど、またいっちゃうんだな。
「ナア、メリイはアイツがお気に入りナノカ?」
龍太郎が私をじっと見た。
一ノ瀬ではなくてメリイと呼んで。
誤字報告ありがとうございます。




