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グランディ王国内で。③

ロージイ視点。


寮ではなんでも自分でやらなくてはいけない。

洗濯も。

王宮には何台も、エリーフラワー様が開発した洗濯機と脱水機がある。もちろん私達には使わせてもらえない。


どうせ私の手は荒れている。実家でも、学園の寮でも洗濯はしてきた。

あのフランと言う娘はそろそろ脱落しそうだ。

「貴女が洗ってよ。一人分も二人分も同じでしょ。」

洗濯室に急ぐ私に、自分の洗濯ものを押し付けてきた。

「お断りします。なんで私が貴女の汚れものを洗わなきゃいけないんですか。」

「…貴女慣れてるじゃないの!お金なら差し上げてよ。」

「お断りします。」

「何よ、没落した家の娘のくせに!」

「それが貴女に何の関係がありますか。

没落だなんて。ちゃんとウチの家は子爵家のままですけと。」

「生意気よ、醜聞まみれのくせに。」

「その言葉そっくりお返ししますよ。

良いですか、ここは城内。

どこに監視の目があるかわからないのです。

私もですが、貴女にも監視の目が付いてるとは思いますけどね。」

そこで声を張り上げた。


「貴女は以前、レイカ様をイジメた。」


やはりだ。視線の端で黒いものが動く。


「エリーフラワー様とヴィヴィアンナ様の怒りを買った。」


奥から殺気が飛んでくる。間違いない。影がいる。

レイカ様は若い忍びたちにアネさんと慕われていると言う。

若い騎士達と交流があるケイジ兄が、聞いてきた噂だ。

「それで今度は私にからむ。本質は変わらないものですね。」

「何よっ!」

フランが私を打とうとした。

その時、

「やめておけ。」

フランの手を掴んで止めたものがいる。


ここは、洗濯室に行く人気のない通路だ。

影のように潜んでいたのね。

黒髪で黒い目の黒い服の男だ。


「城内で騒ぎを起こすな。私はアラン様の護衛だ。

この先の洗濯室にアラン様がいらっしゃるのでな。」


「えっ。」


「アラン様は洗濯機をルルド国の大使に説明中だ。

大切な商談なのだ。あちらの水場に行け。」


「は、はい!!」


私達はきびすを返した。

「――レイカ様に失礼な事をしたのか。」

後から地を這うような声が聞こえてゾッとした。

「ひいっ。」


「シンゴ、どうしたのだ?」

奥からアラン様のお声が聞こえた。

「アラン様、何でもありません。女官が二人迷いこんだのです。」

「そうか?人払いを頼んでいたのだが―。」


私達は震えながら立ち去った。

「ワザとですね。」

「え?」

「フランさん。私達二人だけ、申し送りをされていない。

よっぽど私達を蹴落としたいようです。」

「そんな。あの二人が?許せない。」


フランはその日から挙動不審になった。

常にビクビクして威嚇する猫のようだ。

そして、ある日部屋から出てこなくなったのだ。


「フランは家に帰ることになりました。

私の班から脱落者が出るのは悲しいことです。」

「はい。メルヴィン様。」

「ロージイさん。私は貴女に名乗ったかしら?」

「―失礼致しました。ウチの学年にもメルヴィン家の御令嬢がいまして。良く似てらっしゃいます。

自慢のお姉様が女官をしてらっしゃると伺っておりました。」

「まあ、ララがそんなことを。」

ララ嬢はとても綺麗な子だ。正直そんなに似てはいないが、姉を自慢していたことは本当だ。

「ちなみに、隣ともう一つ隣の班長の家名はわかるかしら。」

「…名乗っていただいた訳ではないので確信は持てませんので、間違っていたらご容赦下さいませ。

隣の班長様はツオネ家の方。多分三女の方でデラ様。

そのまた隣の方はカール家の方。次女のステラ様かと。」

「面識がおありに?」

「いえ、ここ五年程の上位で合格された方を年鑑で調べただけです。

それでお名前だけは頭に。

デラ様は去年、女官試験の募集要項を学校にお持ちになりました。その後お顔を遠目から拝見したのですわ。

ステラ様は、長兄から話を聞いたことがありますの。その特徴に当てはまるからもしや、と。」


「まあ、そうなの。そう言えば貴女、ラージイ様の妹でしたわね。

コホン。女官のウワサなんかなさるのね。」


「…私の学費は兄達が出してくれました。

時々面会に来てくれましたから、仲は良い方だと思います。

その時に私にも女官になってほしいと。

自分の周りにも立派な人達がいて、助けられていると。

メルヴィン様のことは背筋がピンと張った良い姿勢の方だと申しておりました。

あ、すみません。兄も適齢期でまわりの女性が気になるようで。

今まで厄介な親がおりましたから、縁が無かったみたいです。」


メルヴィン班長は赤くなったりしていたが、

「貴女はなかなか優秀なのね。記憶力が抜群だわ。

貴族間の関係性にも詳しい。」


そう言って去っていった。


「貴女凄いのね、流石首席だっただけのことはあるわ。」

「私、年鑑なんか見た事ない。やはり腰かけ気分だったんだわ。」

同じ班の二人がポツリと言った。


これで嫌がらせがなくなると良いのだが。


そして配属が発表された。

やはり私は第一騎士団の事務所。

ケイジ兄の後釜だ。


配属の前の夜、コッソリとメルヴィン班長に呼ばれた。

「私が貴女を色眼鏡で見ていたことは認めます。

だけど先入観を取り払って見ると、貴女はとても優秀な人。

潰されてしまうのは勿体ない。

あちらではツラいことがあると思いますが、負けないで。これしか言えない。ごめんなさい。」


「ありがとうございます、ありがとう。

兄以外でここまで親身になってくれる人はいませんでした。

制服の細工をされたのは班長ではなかったのですね…。」


「え?何のこと?彼女の制服の裾がほどけていたのは、細工だったの?」

「はい、実は私のも同じ細工が。気付いて直したのです。

疎まれているのはわかっておりましたから。

まさか他のひとの服にまで、細工があるなんて。」


実際は私のだけだけどね。


「何てこと!私の班の者の、部屋に勝手に入り込んで嫌がらせをするなんて!」


これで石は投じた。誰が炙り出されるだろうか。

誤字報告ありがとうございます。

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