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グランディ王国内で。②

誤字報告ありがとうございます。

※途中で視点が変わります。


ルート視点。


部屋を替わった。

「差額は君がここを出る時に渡そう。」

すぐに自分の手には入らない。

自由になるお金が少ない。生活費はくれると言ったけど。

服は自分で買わなきゃいけなくなった。

以前は仕立ててもらえたのに。


「良いじゃないか。」

コイツはルームメイトの子爵子息だ。ダルトンと言う。

ルームメイトはもう一人いて、そちらも子爵子息のミックだ。

「手元にあったら使ってしまうだろ?

ここでは食事も出るし、服だって制服があるだろ?

洗濯もしてくれるじゃないか。

それにもう妻がいるんだから、めかし込む必要もないだろうよ。」

「しかし!」


「―アンタさあ、剣や勉強に励むんだろ。剣はともかく、勉強は図書館や自習室を使ってさ。

部屋に居るのは寝るときだけにしてくれよ。」

ミックはじっとコッチを見た。

「アンタのせいでロージイ嬢の家は没落した。

彼女の兄はせっかくの仕事を失った。

―なのにさ、あんまり悪いと思ってねえよな。

そんな奴の顔なんか見たくないんだ。」


「何だと!」


「ふん、殴っていいよ?それで放校処分にでもなってくれればいいな。」


「やめとけよ、ミック。

――あのさぁ、ハッキリ言っとくけどな。

俺らアンタのこと嫌いなんだわ。

それでな、もうひとつついでに教えておくけどさ、

アンタのこと逐一、教師に報告するように言われてる訳よ。」

「何だよ、それ。」

「俺さあ、表面だけニコニコしてアンタと仲良しごっこして、アンタのことを見張って報告しようと思ってたけど。

それも卑怯じゃん?だからさ、お互いに接点を減らしましょう、と言うわけさ。」

「え?」

「学園長はそれでも優しいの。俺たちは理不尽なことはしないし、一番暴力的じゃないコンビなんだ。

他の部屋に行ってみろ。アンタなんか簀巻きにされてらあ。」


「…何だよ、畜生。」


次の日から剣の稽古に励んだ。

身体をクタクタにすれば、すぐ眠れる。

食堂はおかわり自由だ。腹いっぱい食べてバタンキューだ。


「そう、それが正解だ。」

「学園長。」

「立派な騎士になりたまえ。」


ロージイは一番の成績で合格して、女官になった。流石だな。コチラも鼻が高いよ。

俺の妻は美しいだけじゃなくて優秀なんだぜ。

明後日寮にはいるそうだ。

一緒に暮らすのは一年間お預けだな。

明日はウチの屋敷に泊まると言っていた。

会いに行こう。しばらく会えないんだから。





ロージイ視点。


王宮の女官の寮に入った。

「ロージイ・カドックです。宜しくお願い致します。」

なるべくスキを見せないように。したたかに生きていかなければ。

新人女官たちと先輩に連れられて挨拶周りをした。

不躾な視線、好奇の視線、蔑視の視線。

聞こえよがしの悪口。

知らないフリをした。


「貴女はどこへ行っても人気者ね。」

同期の女が絡んで来た。

「貴女もですよ。先ほどその髪が乱れていると、

評判でしたよ。ホラ、バレッタが落ちそうですよ。」

「え。」

カチャ。

小さな音を立てて、バレッタが床に落ちた。

「!」

「貴女はリボンが曲がってますわ。貴女は裾がほつれているではないですか。」

「え、嘘。」「ヤダ。」「ちょっと。」


そこへ先輩女官が来た。

「何ですか、騒々しいわ。」

みんなベソをかいている。下級貴族とは言え、お嬢様だったのだ。 

自分で、身支度をするのに慣れていない。

――それから、制服は同じサイズの別の子のととりかえておいた。


まさか、ほつれる仕掛けだったとはね。


とりあえず、リボンを結び直してやり、小さなクシを出して髪を撫でつけてやる。

「ありがとう。」

「―貴女、侍女みたい。」

更に嫌味を言うバレッタを落とした女には、

「ウチは貧しかったから、侍女なんかいなくて何でも、自分でやらなきゃいけませんでしたしね。

それに、お城の女官は尊きお方にお仕えする仕事。侍女みたいなこともすると聞いてます。」

そう言いながら、ポケットから針と糸を出して、裾が落ちた娘の服を軽く応急処置をする。

「あ、ありがとう。」


「後はお仕事が終わったらご自分で。刺繍は、なさるのでしょう?その気になれば出来ますわ。」

そこでみんなを見回した。

「お手伝いするのは、今回限り。私をご自分の侍女代わりにしようと思っていたら、お断りです。

それにお互い、ほつれやリボンの歪み、バレッタが取れそうなのに気がついていたのに、注意しませんでしたよね。」


引率の女官が言った。

「そうね。

成績が下位の貴女方が、ロージイさんを見下すのは可笑しな話ですね。」

「でも!」

「お黙り。誰が口を利いて良いと言いましたか。

一人一人の服装の乱れは、女官全体の恥になると心得なさい。

…貴女、お名前はなんだったかしら。」

バレッタを落とした娘に目をやる。

「フランですわ。ダダリー子爵の娘です。」

「その場合は、フランと申します。でしょ。ダダリー子爵のお嬢様かしら?と言われて初めて、家名を名乗りなさい。

貴女みたいな娘は、どうせ玉の輿を狙ってるのでしょうけどね。」

「そんな!」

「黙りなさい。貴女は確か…そうそう。

侍女見習いをしていたけど謹慎していたから、今まで女官試験を受けられなかったのよね。何故だったかしら。」

「…病気で。」

「あら?病気で謹慎?アンディ様の奥様になった、レイカ様に嫌がらせをしていたからではないの?

足を引っ掛けたり、靴に画鋲を仕込んで、

エリーフラワー様とヴィヴィアンナ様の怒りを買ったのよね。」


フランと名乗った女性は下を向いて答えない。

細かく震えている。

そんな大物二人の怒りを買ったのか。

「謹慎中反省して勉学に励んだと聞いたから、試験を受けられたのに。順位は下だけど合格は合格。

まあ、これからキッチリとこちらの指導を受けることね。」


一応庇われた形になった。しかし女官は脱落者を考えて多めに取ったと聞いている。

早速振り落としに来たんだ。

そして、わざと私にほつれた服を用意したのはこの先輩かも知れないのだ。


次の部署へ。第一騎士団の事務所だ。

騎士と知り合えるから娘たちの憧れの部署。

他の三人の娘達の頬が上気して赤くなっている。


―そして、ケイジ兄が先日までいたところだ。

「皆様。失礼します。新人女官を連れて来ました。

私が担当するのはこの四人。お見知り置きを。」

「私がここの室長だ。宜しくな。

本当に困ってるんだよ、優秀な事務官が一人家庭の事情で辞めてしまってね。

それで誰か補充しなければならないんだけどねえ。

代わりが見つかるかなあ?

あんな優秀な彼がいなくなってつらいよ。」


言葉の節々にトゲがある。私と先輩にしかわからないトゲだ。

他の娘たちは、憧れの部署に入れるかも、と浮き足だっている。

私はそっと周りを見た。部屋中の人がみんな私を憎々しげに見ている。

――ケイジ兄さん。貴方は皆様から惜しまれて、慕われていたのね。

その事実が私の心を明るくした。

…いくら、一人の女性が私を殺しそうな目で見ていたとしても。


「どう、貴女達の中でここの部署を希望する人がいるかしら。」

先輩女官がコチラを向く。とことんいたぶる気なのね。

ケイジ兄さんの話が本当なら、ここに来るのは私だと決まっている事なのだ。

とりあえず無表情に正面を見た。


「おや、君は希望しないのか。他の娘さん達は手を挙げたというのに。独身の騎士様達と知り合えるチャンスだよ。」

室長が話しかけてきた。

「恐れ入ります。こちらは新人には務まらない所だと聞いております。経過豊かなお方が移動してくる所だとか。

それに私には夫がおりますから、特に独身の騎士様と知り合わなくても。」

そこで指をチラリと見る。指輪がある事を仄めかす。

「ああ!君か!卒業式での事は聞いているよ。

素晴らしいね、真実の愛は。」

わざとらしい。すべてご存じだろうに。

「一言、説明をさせていただければ。夫はすべてを捨てて、ブルー・オー・ヒゲ様の縁談から私を救ってくれたのです。」


みんなの目が驚きで丸くなった。

「あの、ブルーの野郎の毒牙にかかる所だったのか。」

「それは。」


間違いではない。ルートが公爵家から追い出されたことも。あの鬼畜野郎との縁談があったことも。

結婚しないで済んだことも、全部事実だ。

この話でスキャンダルを美談に塗り替えてみせる。


「お嬢さん、いやもう、奥方か。

ご安心なさい。あの野郎は先週捕らえられた。

もういたいけな少女たちが苦しむことは無い。」


「!それは。」

私の目から涙が溢れた。

「それは、ようございました…。」


私の目から流れた涙に、皆は無言になった。

これからの少女達が毒牙にかからなかったことを喜んでいるように見えただろう。


…いいえ。それならどうしてもっと早くに。

私と私の兄達が苦しんでる頃に、捕まえてくれなかったの。


悔しくて落涙したのだった。

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