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桜。

次の日、レイカさんから、連絡が来た。

郊外のレイカさんのお母様の土地に一本だけ桜が咲いているらしい。

「お花見と洒落込まない?王妃様もいらっしゃるわよ。」


三月の二十五日。快晴。

研究所の前で待っていたら、

空間が揺らめいて、いきなり九尾の狐様が現れた。

今回は軽自動車くらいの大きさだ。

横にレイカさん、レイカさんのお母さん、シンゴさん、アンディさん。

王妃様とランドさん、メアリアンさんが立っていた。

「キューちゃんがな、十人くらいなら運べると言うのじゃ。」


「はい?あの?」

「こうやってね、キューちゃんに触れて?

メリイさん、レプトンさん。」


触ってたら眩しい光に包まれて、

目を開けると花畑の中に立っていた。

谷の中のようだ。横に山肌がある。


そしてマーズさんは馬に乗って現れた。

私を見ると満面の笑みを浮かべてくる。


それから馬車があった。

護衛の人達があらかじめ来ていたようだ。


「桜……!」

「ああ、桜だわ!」

「桜ですね。」


息をのむ。



花畑の真ん中に一本の桜の木があった。

薄ピンクの花が満開だ。


―ああ、桜だ。


立派な大木だ。


あの公園にあったような見事な桜だ。

リュウジと見たような桜だ。

胸にいろんなものがこみあげてきて、涙が溢れてきた。花の色がにじんで見える。

花びらがハラハラと舞い散っている。

そっと手に取ってみた。

―ああ、また桜が見れるなんて。

木の幹に近づいて上を見上げて見る。

びっしりとついた花びらの向こうに青い空が見える。


最後に桜を見たのは病室の窓からだ。

その前には梅も見れた。

また桜が見たい、見たいと念じていた。

願はくば花の下にて春死なむ――。


亡くなる少し前だったと思う。

地元から病院に駆けつけてくれた母が、

窓を開けてくれたのを覚えている。

そこから桜の花びらが入ってきたことも。

こんなに悪かったなんて、転院も出来ないなんて、

と泣いていたことも。


それから。

幼い頃近所に神社があってそこの参道の桜並木が綺麗だった。

父や母と歩いた幸福な思い出。

出店で綿飴を買って貰った。

兄はリンゴ飴だった。


王妃様もレイカさんもじっと桜を見ている。

それぞれの思い出があるのだろう。



「さア、お弁当を食べましょう。花見は桜を見て美味しいものを食べるんだって言ってたじゃないの。」

レイカさんのお母様がお弁当を用意してくださった。


王妃様の為にテキパキと、簡易テーブルとパイプ椅子を組み立てる護衛の人たち。

王妃様と妊婦のレイカさんが座ってる。

私も呼ばれて座らせていただいた。


兄たちはシートに座って食べている。


「美味しいわ。やはりお弁当には唐揚げ、稲荷寿司、卵焼きですね。」

舌鼓を打つ。


王妃様はタコさんウインナーを見て感激してらっしゃる。


白狐様も稲荷寿司をもらってご満足だ。


音もなく、はらはらと舞い散る花びら。


「桜はね、見頃があっという間なのよ。それまでは早く咲かないかなって気を持たせてね。」

しみじみとおっしゃる王妃様。

「まるで人生みたいですね。」

と相槌を打つマーズさん。

 

それから、私の方を見て微笑まれる。

私には勿体ない人だ。

彼らの母親は父親に虐待されて来た、という。

それを反面教師にして女性に優しいし、浮気もしないと。

だけど、多分気持ちを返せない。


目の端にアンディ様と楽しそうに食事をしているシンゴさんが見える。

アンディ様に心酔してると言うのは本当なのね。






――その時だ。

うるるるる、ぐるるるる。

九尾の白狐様が空を見て唸り出した。

空が暗くなってきた。

晴れているのに??


白狐様が、一面蒼い光に包まれた。

そして巨大化された?キャンピングカーくらいの大きさに??


ギューガガガ。


吠え始めた。



あたり一面、気温が下がって生暖かい風が吹いてきた。

何が起こっているの?


「ま、まずい。」

「コレはどうしたことじゃ。」

「王妃様、レイカちゃん、メリイさん、こっちへ!あの山肌へ!」

アンディさんが叫ぶ。


「母さん、メアリアンも!こっちへ隠れるんだ!」

ランドさんも走ってくる。

後ろの山、そこの山肌にそって大きな岩があった。

その陰に隠れる。


「兄さんを呼んでくれ!早く!」

マーズさんが自分のツチノコに叫ぶ。

ツチノコがひかり出す。王妃様のも、ランドさんのも、メアリアンさんのも、そして、レプトン兄さんのも。

ツチノコ同士は通じてあっていると聞く。

ネモ様のツチノコに危機を伝えてくれるのか。


白狐様は唸り、叫び続ける。

宙を見つめて。



山肌に沿って身を屈める。


「ドラゴンなの?上から?なら丸見えじゃない!?」

王妃様が叫ぶ。


すると、目の前の山肌が、

ボコリ。

削られた??


「ドモ、アネダン、ゴッチへ、アナ、アゲダ。」

「ミノちゃん?」


ミノタウロス!?


「護衛の一人に化けさせておいたのヨ!」

叫ぶアンディ様。

帽子とマスクで顔を隠していたらしい。

私達が怖がるからか。

怪力で山肌を削り続ける、ミノタウロス。


「ゴゴニ、クウドウアル、ツナゲダ。ナガニハイル。ドラゴン、グル。」


ポカリ。穴があいた。天然の鍾乳洞みたいだ。


「女性陣、中に入れっ!」


アンディ様が絶叫する。


うおらららら、ぐおあららら。


九尾のお狐様が、二階建ての観光バスくらいの大きさになった。

毛がさかだってずっと蒼く発光していて、

バリバリと静電気なのか、放電されている。


更に空が暗くなる。


バサバサバサ!


つむじ風ともにドラゴンが降りてきた。

桜の木の上に。

羽を広げると全長五メートルはあるだろうか。

そこでホバリングしている。

巻き起こる疾風。舞い上がる砂煙。


がああああああああっ!

うがあああ!

ぐかあ!

ぶああああ!


唸りあう二大怪獣ならぬ神獣。

恐ろしい。

――そして、ドラゴンの目がコチラを見た。


目が合ったと、思う。


ぎゅううん。

え、こっちへ飛んできている?

「行かせるかっ!!」

アンディ様とシンゴさんがこちらへ走って来た。


がああっ!

白狐さまがクビ根っこに噛みついている。


助けに来てくださったのね。

そのまま二匹で転げ回る。



「――おいっ!やめろっ、馬鹿どもっ!

キューちゃん!ドラちゃん!」


ネモ様だ!


足元に多量のヘビがいる。

「兄さん!来てくれたんだね!」 

「朝から胸騒ぎがしてね、近くまで来ていたんだよ。」


「動く歩道みたいに、ヘビが運んできたんだわ。

あの人、なんなの。」


メアリアンさんが呟いた。


「そらあっ!」

ネモ様の声でヘビ達が神獣達に絡みつく。

何重にもだ、あっという間に、毛糸玉のようなモノができた。

もう、本体はわからない。


そこへ、また新しいUMAが来た。

「チーパくん。彼らの精気を吸っておあげ。

――そうだな、しばらく動けないくらいに。

うん?お友達?呼びなさい、呼びなさい。

神獣の精気なんて普通吸えないからね。」


チュパカブラ?!

それになんと、チュパカブラがもう一匹現れたではないか。


そして二匹で精気を?吸い始めた。

コレは現実なの?

理解が追いつかない。


五分後。レトリバーくらいの大きさになった白狐様と、ハゲワシくらいのサイズになったドラゴン。


そしてパンパンにお腹を膨らませて肌ツヤが良くなったチュパカブラ。


「――ああ。そうなんだ。会いにきたのか。

桜、キミも好きなのか。」

ネモ様がしみじみとドラゴンに話しかけている。

痛ましい顔をして。


そして、メアリアンさんを見た。


彼女は真っ青な顔をしていた。


「ネモ、ありがとう。助かったぞ。

このドラゴンはヒトを食うのじゃな。」

王妃様の言葉に、

「なんですって!!」

みんなの顔色が変わった。


ネモ様が静かにドラゴンを撫でながら言った。

「今は危険はありませんよ。

――昔、食べたことがあるのです。

キューちゃんがレイカさんのお母さんの、ニワトリを食べた時ですね。」


レイカさんの母は白狐様を抱きしめていた。


「四十年前のことね。二匹が戦った時。」


「ええ、キューちゃんと戦ってズタボロになってたドラちゃんは火山の麓に捨てられていた男の子を食べたんです。

火山の麓の桜並木はね、以前鳥葬に使われていたあたりなんですよ。」

「ドラゴンがめちゃくちゃにした桜並木か。」

アンディ様が憎々しげに言う。


「その時もギガントとの小競り合いがあったらしいです。少年ながら戦った彼は深手を負ってそのまま捨てられました。

………。

苦しいから早くラクにしてと言った彼を丸呑みにしたのです。」


ネモ様の言葉は掠れていた。


「私は死者の声を聞く訳ではありません。これはドラちゃんから聞いたことです。」


さっきから、チーチーと哀れな声で鳴いている、

ドラゴン。

ネモ様はドラゴンの言葉がわかるのね。



ネモ様がまたメアリアンさんを見る。

その目は何かを促している。


「わかりましたわ。黙っていてはいけませんね。

このドラゴンの上に、男の子の姿が浮かんでいます。十五歳くらいでしょうか。

かなり薄くなってはいますが、彼が語りかけてくるのです、

俺を見てくれ、と。

―――二重なんです!重なっているんです!

魂がピッタリと!これは、転生者の特徴…!」


「なんじゃと!転生者を食ったというのか!」

驚愕の声を出される王妃様。


「彼の家は貧しくて、すぐに外に出されたんですね、それで傭兵として育てられてすぐ亡くなった。」


それでは、誰にも話さないまま?


メアリアンさんは涙を流している。

「―それで、ドラゴンに噛まれたショックで記憶が戻った、らしいんですよ。」


えっ。


「彼の執着はとても強い。四十年前に、白狐とドラゴンが戦ったとき、お互いの血肉が体内に入った。

それでこの二匹はどこか繋がっているんですって。」


「つまり?」


「キューちゃんが知ったことはドラゴンにも伝わる。

――それで、メリイさん、貴女のことを知ったのです。

さっきからもう一人の男の子がうるさいほど叫んでいます。


いちのせ、いちのせみさと!おれだ、おれだよ、リュウジだよ!と。」


――――――!!


一ノ瀬美里。それは私の前世の名前。


頭に直接響く。

コレは白狐様?

(あの時、繋がった感じがしただろう。私と。

もちろん奴とも繋がった。

厄介な巡り合わせに生まれた娘よ。

ドラゴンの奴はオマエに会いたくてずっと上空にいたのさ。)


嗚呼、ああ、ああああああーっ!


食われた?リュウジが?転生していた?

私が生まれる前、四十年前に??


ド、ラ、ゴ、ン、に、く、わ、れ、た。


目の前が暗くなった。


リュウジの漢字は竜嗣。

竜をぐものです。

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― 新着の感想 ―
キツイ…です それはそうですよね 転生してもそこの生まれた場所や立場によって、天と地の隔たりがあるのは 当分、荒れますねぇ…
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