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ずっとあなたが好きでした。だけど、卒業式の日にお別れですか。  作者: 雷鳥文庫


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11/42

グランディ王国内で。①

ロージイ視点。


王太子アラン様のお子様達がお生まれになり、お名前も発表された。

そして王都中が喜びに沸く中、三月二十日に予定通り王宮の女官試験が行われた。


私の受験票の名前を見た試験官の視線が冷たかったけれども、

気づかない振りをして筆記、実技(外国語での受け答え、礼儀作法)とひと通り試験を開けた。


帰り際に試験官のひとりから、

「ギリギリで滑り込んで受けた割りにはやるじゃないの。」

と言われた。


額面通り取っていいのかわからなかったが、

軽く会釈をして学園の女子寮に戻った。


夕方、下の兄ケイジが尋ねてきた。


応接室で面会する。


「やったな。今までにない好成績だったそうだ。

合格間違いなしだ。俺の鼻も高いよ。」

そこで声をひそめて、

「さっき、俺に退職勧告が出た。予想してたけどな。

――俺の欠員の後にオマエが入るってワケだ。

そういう話になっている。」

「……。」

やはり、公爵様の狙いはそうだったのか。


兄達と予想は立てていた。

私は受けさえすれば()()()()()()

そして兄のどちらかを退職させる。

それが、見せしめなんだ。


「…でもまあ、オマエは実力でも合格するチカラは持っていたんだ。出来損ないをイビろうとする当ては外れたんだろうな。」


あの十五日の話し合いの時。まもなくアラン様にお子様が生まれることはわかっていた。


長兄のラージイが子爵位を辞退したのはその恩赦を狙ってのことだ。まもなく子爵に戻れるだろう。

兄自身には落ち度はないのだから。

――そしてこれはお城の侍従様も公爵様もわかっていた。

この茶番がわかっていなかったのは我が親達とルートだけだ。

子爵に復位予定の長兄を退職させるより、何もない次兄ケイジが辞めさせられる。

だけど、それは来年だと思っていた。

公爵様の鶴の一声で急に受験が決まり、一年早まった。



その時、足音がした。

ケイジ兄が声を張り上げた。


「オマエは、いいよなあ!ロージイ。

ルート君と結婚してカドック子爵夫人だ。

俺もとばっちりで失職だ。ウチは子爵位を返上した。

オマエだけが上手く逃げ切った!というわけだな!」


そこで立ち上がりドアを開けた。


青ざめた顔のルートが立っていた。


「おや、ルート君。お呼び出して申し訳なかったね。

まあ、中に入りたまえ。

――今日ね、責任を取って退職しろ、と言われたんだよ。」


兄はルートを睨みつける。


「あ、あの。ご迷惑をおかけしました…。」


ルートの声は消えいるようだ。兄の怒りは本物なのだ。目は血走っている。

「君には分かるかね。子供の頃から努力してこの職についた。お城の事務官だがね。

それをねえ、まさか色恋沙汰の巻き添えで失職するとはね。その無念さが!!」


「は、はい。」


ルートは青ざめて震えている。

それはそうだろう。兄は殺さんばかりの殺気をぶつけているのだ。


そしてルートの肩を抱く。


「すぐ官舎も追い出させるんだよ。困ってるんだ。

――なぁ、ものは相談だが君のお屋敷に住まわせてくれないかね?

どうせ君は寮住まいなんだろ?」

「え?」

兄はルートの耳に顔をよせてささやく。

「管理しない家は荒れるんだ。執事の部屋が空いてるだろ?そこに住まわせてくれればいいんだ。

どうだい?」

「――そ、それは。」

「もちろん、光熱費や経費は私が待つ。

妹と君は夫婦だ。妹夫婦の家に間借りさせて貰えないか?」

「は、はい。構いません。」


「ようし、決まりだ!」


兄は明るい声を出した。


「少し手を加えるが、いいかい?ろくに家財もないんだろ?なに、費用は私が出す。

少しだが退職金は出るのでね。

――君は夏季休暇とかに泊まりに来るといい。

妹と一緒にね。客間は開けておくから。」


そして兄は書類を出した。


「賃貸契約書だよ。お互いにサインをしようではないか。何、こういうことはキチンとしないとな?」




その後、兄を見送ると言って外に出た。

ルートも一緒に来ようとしたが兄は固辞した。


「…アイツ馬鹿だな。どうして良く読まないかね。」

兄が吐き捨てるように言った。


さっきの書類は兄が建物をリフォームして、そこをホテルにするというものだ。

「立地がいいからね。仕事で王都を訪れる客に重宝されるさ。今の客間は家族連れ用にすれば良い。

ルートくんがきたら、空いてれば泊まってもらえばいい。空いてればね。」


「……。」



「なあ、ロージイ。辛かったら王宮なんかさっさと辞めろよ。一緒にホテルをやればいい。

というか、スタッフに女性がいれば女性客も安心して泊まれるからな。

――それに名義はルート君なんだからな。妻のオマエが経営者という形にはなってる。書類上はね。

時々休みの日に顔を出してくれれば助かる。

侍女の部屋も空いてるしな。」


そこで兄は眉間にシワを寄せた。


「さっき、ロージイと泊まれば良い、と言ったときアイツ鼻の下を伸ばしていたな。ふん。」


「公爵様が私に女官になれといったのは、新人の女官は一年は王宮の寮に住むのが決まっているからでしょ。」

そこで仕事をびっちりと叩きこまれるのだ。

「ああ、オマエたちを物理的に離すつもりなんだろうな。」


公爵様の深い怒りを感じて身震いをした。

学園の門のところまできた。

見送りはここまでだ。

「ここまでの展開は読めたが、この先はどうなるかわからん。

ロージイ、せいぜい気をつけることだ。」


兄は薄手のコートの襟を立てて去って行った。


父は鉱山にやられたと聞く。

新しい発電所が出来て、今までは灯をつけるのがせいぜいだった電気の量が増えた。


エリーフラワー様が開発された調理家電、ミキサーとか電動泡立て器とか使えて便利になった。

天井からつるすタイプのファンもある。

それからアイロン。

それでその燃料のために石炭が必要なのだ。

父はそこにいるのだ。

――いつまで生きていられるだろうか。

母は修道院にいるらしい。母の安全だけは、兄達が公爵様に頼みこんだそうだ。

「本当は途中で行方不明になっていただくつもりだったがね。」

と言われた時は寒気がしたと、ケイジ兄が言っていた。


メリイ様はブルーウォーター公国に行かれた。

あちらでエリーフラワー様の研究所に入るらしい。

兄君のレプトン様もそうだと聞く。


「だから、レプトン兄貴の穴うめが必要だろう?

求人が出たら受けるつもりだ。」


――ルートはどこまでも愚かだ。




そして、翌日。


世継ぎの王子様がお生まれになったことにより、

恩赦が発表された。


ラージイ兄は子爵に戻ることが出来た。



私には正式な合格通知が届いて、すぐに学園長に呼ばれた。


「合格おめでとう。君なら合格すると思っていた。

一番の成績だそうだよ。

でも、合格することじたいはわかっていた。

キミもそうなんだろう?」

「ええ。」

そこで学園長は私をじっと見た。

「私が公爵夫人の縁者であることは知ってるね?」

「従兄弟でいらっしゃるのですよね?

有名でしたから。」


「……そうだよな。それを知らない愚か者がいてな。キミの夫だよ。」

「!」

「聞いてみたかったんだよ、どうしてキミはこんな愚かなことをしたのかね。」 


貴方にはわかるまい、学園長。

男性で高位の貴族の貴方には。

下を向いて歯で唇を噛み締めた。


「……嫌だったんですわ。親が持ち込んだ縁談が。

三十も年上で何度も再婚をしている相手。

今まで若い妻を娶っては死別を繰り返している。

彼にとって若い女は、自分より身分の低い女はいくらでも取り替えがきくものなんです。」


「ブルー・オー・ヒゲ伯爵のことかね。

ウワサは聞いている。」


では何故みんなあの男をほっておくの。

殺人者に決まっているのよ。


「ウチの親は私の器量を良く自慢していましたの。

客人たちを招いては、一番支度金を出してくれる相手に嫁がせる、と言ったことは一度や二度ではありません。

手首を掴まれて引き寄せられたことも。

その度に兄たちが怒って守ってくれました。

あの男達の舐め回すような目。

毛虫が全身を這うような。まだ年端もいかぬ子供に。

………なんで、貧しい子爵家だから、女だからと言ってオークションの品物にならなきゃならないのでしょうか。」


知らず知らずに涙が流れていた。


「母に訴えても自慢なの、とにらみつけられました。

父はオマエが美しいから見惚れてるんだな、と満更ではなさそうで。」


「…。」


「学園に入学することは親は渋りました。

早く嫁がせたかったのでしょう。それにお金もなかった。

兄達が学費を出すから、と言って入学させてくれました。

私は勉学に励みました。王宮勤めになって実家から逃げようと思ったのです。

その時、ルートが私をじっと見ているのに気がつきました。

最初はまた鬱陶しいと思っていました。

だけど、彼の視線には純粋な恋心しかなかった。

獣欲まみれの視線にばかり晒されていた私には新鮮だったんです。」


「……。キミに懸想していたのはルートだけではあるまい。」


「もちろん、多少の意趣返しがあったのは否めませんわ。父母からのグローリー公爵家への毒のある発言は、私にも染み付いていたのです。」


「それでこういう事態になったと。」

「誤解されているかもしれませんが、私はちゃんとルートを愛しておりますわ。」


―それなりに。情はある。

あんなキモい親父と結婚するよりは。彼は若いし、見栄えも悪くない。

何よりも、私を一途に愛してくれている。


学園長はため息をついた。


「あんな馬鹿者と関わらなければ、キミは優秀な生徒だったのに。」


「そうですね。あの伯爵に嫁がされて来年の今頃は命がなかったかもしれません。」





コレから先のことはわからないけれど。

王宮でどれだけ無事でいられるか。


私は学園長室を後にした。


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― 新着の感想 ―
この話を起点に、よくいる略奪愛をしてくる頭の悪い系の悪役ではなく、何としてでも自身の境遇を変えたくて綱渡りをする強かさで頑張るもう1人の主人公と化したロージィ
 ロージィのやったことは勿論ダメですが、環境が悪すぎてなんだか不憫に…;  学園長のルート(元身内)への対応と、ロージィ(不倫相手の末端貴族)への対応の差がシビアで、状況を知って出た最後のセリフが「あ…
ロージイもやばい事情あったんだ しかし優れた容姿と知能高いのに 今までが最悪だったから純粋な好意に惹かれるのは わかるけど選んだ相手がなぁ もしロージイが性格悪い悪役令嬢設定でなら、両親に対しての復讐…
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