美しきケモノ。
誤字報告ありがとうございます。
アラン王太子様のお子様がお生まれになったので、エリーフラワー様、リード様、王妃様はお祝いの言葉を申し上げるために王都へ行かれた。
アラエルさんは、今日はお仕事の話は出来ませんから、ブルーウォーター公国内を見学されるのもいいですね、と言ってくれた。
シンゴさんと、メアリアンとランドさん御夫婦があちこちを案内してくれた。
レプトン兄とイリヤさんも一緒だ。
シンゴさんは私が馬車から降りる時に、よろけてしまったら支えてくれた。
触れた手がドキドキした。
兄はそういうことに気がつかなかったらしく、
「あ、そうか。すまない、いつもサード兄がやってたからな。」
「んー、私は要人警護が多かったですからね。
慣れですよ。」
イリヤさんが兄を見る目が熱い気がする。
なんで?シンゴさんといい仲ではなかったの?
ショッピングセンターで、女性だけになって買い物をした。
「下着とかこちらですよ。」
イリヤさんが案内してくれる。
彼女はテキパキしていてアネゴ肌で感じがいい。
その彼女がモジモジしている。
「あの、メリイさん?」
「何ですか?」
「あのう、レプトン様にはもう決まった人がいらっしゃるのですか?」
「兄ですか?いいえ?まだ婚約者もいませんけど。
え?貴女はシンゴさんとその、仲がいいのでは?」
「えー、やめてくださいよ、あんな腹黒。
私は腹芸ができない人が好きなんです。」
腹黒。
「ランドさんはメアリアンさんに取られてしまったからね。」
ふふん、と笑うイリヤさん。
メアリアンさんは肩をすくめた。
「裏表がない人って、いいですからね。」
確かに。兄は人がいい。
という事はランドさんも人が良いのか。
「何を話してるんですか。」
シンゴさんが呆れた顔でやって来た。
「この後、ダチョウとエミューの牧場に行くって。」
兄には聞こえていなかったようだ。
牧場についたら、そっくりな青年が二人待っていた。
「こんにちは。お待ちしておりました。
兄から聞いておりますよ。
私はマーズ・ブルーウォーター。」
「私はマーグ・ブルーウォーターです。」
「ブルーウォーター公の双子の弟さん達です。」
メアリアンさんが紹介してくれた。
――弟君か。失礼が無いようにしなくては。
ネモ様と同じ茶色の髪に薄荷色の目だ。
三人ともよく似ている。
「二人とも王妃様からお名前を賜ったんですよ。」
「お気に入りの人は、改名されるんですよ、ねえ、シンゴさん。」
「やめて下さいよ、ランドさん。」
シンゴさんは薄く赤くなった。
どこが腹黒なのかしら?
「私達はここの牧場と動物園とサーカスを管理しています。」
と、双子さん達は言う。
「ブルーウォーターさん達には動物がとてもなつきますから。」
メアリアンさんが補足する。
「それで貴女がメリイ様ですか。転生者という。」
双子の一人が目を細めて見てくる。
そして笑顔になった。
「ええと、あなたは?」
「双子の兄のマーズです。宜しくお願いしますね。」
「いえ、こちらこそ。」
「では、ご案内します。こちらからです。」
嬉々として案内してくれる。
まず牧場を見せてもらった。
エミューとダチョウも大きいけど、可愛い。
まつ毛もバサバサで、美脚で。
鳥は恐竜の直系と聞いたことがある。
または鳥型恐竜として残っている、と言う。
彼らを観ていればさもありなん、という説得力がある。
私は恐竜展が好きで良く観に行ったものだ。
上野とか。
貴方たちは恐竜なの?じっとエミューを見つめる。
「動物お好きなんですね?
弟マーグはここのスタッフとの打ち合わせが忙しいので私がサーカスや動物園にご案内しますね。」
マーズ様が微笑んでいる。
「これは運がいい。ブルーウォーター家のおかたが自ら案内してくださるなんて。滅多にないことです。」
シンゴさんが目をみはる。
「そうですね。動物との距離が違いますから。」
ランドさんも頷く。
「あ、そうなんですか。楽しみだなあ。」
レプトン兄はランドさんとすっかり意気投合している。
似たもの同士だな、と見ていて思う。
「ふふ。相変わらずブルーウォーターの人達は可哀想な女性に弱いこと。」
メアリアンさんが何かつぶやいたが、
私の耳に届く前に馬車の音がかき消した。
「こちらが動物園ですよ。やあ、みんな元気かい。」
すごい。マーズさんが歩くと、動物達が注目する。
目が輝いている。耳や尻尾が立っている。
ギリギリのところまでやってきて、
首を手を檻から出して、撫でてくれと訴えているかのようだ。
尻尾も激しく振っていて、甘えた鳴き声があちらこちらから聞こえてくる。
「今日は誰かな?ああ、君なんだね、ご苦労様。」
そこの檻にはUMAと書いてあった。
「日替わりで入ってもらってるんだよ。
今日はビッグフットくんのビリーくんだ。
彼等はね、僕ら兄弟のお願いなら聞いてくれるんだ。」
そこにはソファに座ったビックフットがいて、片手を挙げて挨拶してくれた。
ガラス張りの展示室にはテーブルとかソファとかがあってホテルの部屋みたいだった。
「ビックフットやスノーマンとか、人型だし、温度管理も必要だからね。快適な環境を用意してるんだ。彼らのお部屋をのぞかせてもらう感じかな。
あとは、レイカさんのミノタウロスには会ったんでしょ。アンディさんのチュパカブラも時々入ってくれるんだ。」
「え、そんなに沢山UMAがいるんですか?」
「ええ、僕にも。」
「私にも。」
なんと、ランドさんとメアリアンさんからツチノコが剥がれて飛んで来た。
私達の周りをぴょんぴょんジャンプしている。
「――!!」
「ここのブルーウォーター公国に住むならUMAには慣れないと。
基本的に彼等は悪さはしません。
心を許した人には尽くしてくれます。
そのかわり、どうでもいい人には何もしてくれません。
聞いたことはありますよね?
王宮を焼いた蒼い光。滅ぼされた砂漠の国。」
「両方とも在学中で寮に入っていて、限られた情報しか入ってこなかったんですよ。
真相はなんだったんですか?」
兄の質問に真顔で答えるマーズさん。
「この国の守り神というのかな。
白狐様だよ。尻尾が九本あって、キューちゃんと呼ばれている彼の仕業だ。
怒りに触れたんだよ。彼の蒼い炎は全てを焼き尽くす。
王宮では王やアラン様に薬を盛ろうとし、
エラ妃を亡き者にしようとした外国の間者がいた。
そいつらを蒼き光が貫いたんだ。
砂漠の国は王子三人が三つ巴の戦いを繰り広げ、生き残った一人が無理矢理侵入してきてね、グランディを通って、ブルーウォーターにまで入ってきた。
それが彼の怒りに触れて砂漠の国を焼き払った。」
えっ?九尾の狐?
あの伝説の?那須の殺生石の?
「彼はね、基本的にはネモ兄さんとエリーフラワー様のご主人のエドワードさんの言うことしか聞かないんだ。
あ、レイカさんのお母さんは命の恩人だから、別格かな。
それでも荒神だ。自分の価値観で行動する。こちらはただお願いするだけなんだよ。」
「何故かリード様の言うことは聞いたりしてますけどね。ふふふ。あの方は輝かしいオーラをお待ちです。」
オーラも見えるんですね、メアリアンさん。
「彼等UMAはね、真っ直ぐな気性の人が好きなんだ。ほら、レプトンさんみたいにね。」
ランドさんがそういうと、ツチノコが兄に張り付いた。
「――え、えええっ?あ、なんか暖かい?」
そのまま薄く広がって、保護色になって見えなくなった。
ランドさんが笑った。
「やはり気にいられたんだなあ!軽くて丈夫で暖かいよ。夏は逆に涼しいし。
彼等同士は意思の疎通が出来るみたいでね。
危険を感じたら、助けが来たりするよ。
いきなりツチノコが飛んできて、張り付くなんてウチの兄以来じゃないかな。」
「え、これはランドさんのではないんですか?」
「違うよ、僕のは居るから。ホラ。」
「皆さんすごいですね。」
「アンタみたいな腹黒には懐いてくれないわよ、シンゴ。」
イリヤさんが鼻で笑う。
「なんだと!」
「ケンカしないのよ。二人とも。王妃様にメリイさんの護衛を頼まれてるんでしょ。」
メアリアンさんがなだめる。
「あの、何で腹黒なんですか?」
「コイツはね、アンディ様に心酔しているの。
彼に近づくために同僚を蹴落としたのよ。」
「おい!人聞きが悪いこと言うな!ちゃんと選抜試験の時、日程と道具を確認しなかった方が悪いだろっ!
自分で確認しろ、って言うのが何で悪いんだよ!
無視したり、嘘を教えたのは別の奴だぞ!!」
「あら。」
「そうだよ、イリヤさん。君は正直ですぐ感情が顔に出るよね。それは人としてはいいけれど、忍びとしてはマズイことがあるよ。
それにね、君たち二人が根が悪い人間ではないことは証明済みだ。
ブルーウォーター公国には悪心を持つ人間は入れない。すぐ、キューちゃんに焼かれるんだ。
ここは護られている国なんだよ。」
マーズさんが静かに言った。
「――そういえば、そうね。シンゴ、ごめん。」
「ケッ!」
そうなのか。お父様がおっしゃった、選ばれた人しか入れないというのはそういう意味なのか。
「ネモさんもここを守っているから、安心だよ。」
「そうですね、我が兄ながら物すごいチカラを持っています。」
こちらを向くマーズさんの目はネモ様と同じ色をたたえて光っていた。
「貴方達も早くキューちゃんに会った方がいいですね。」
そこへ、コンゴウインコが来てマーズさんの肩に止まった。
「ルリルリちゃんか。珍しいな。」
「レイカカラ、デンゴン。」
「え、それもまた珍しい。」
「ハツカノヒ、カレー、タベニキテ、カレー。デキタ。」
「と言うわけです。二十日の日、レイカさんのところへ伺いましょう。
その時に、キューちゃんにも会えますよ。」
三月二十日。
カレーはとても美味しかった!
王妃様もいらっしゃった。そして伝説のアンディ様も。
「レイカが世話になってるね。」
にこりと笑われたけど凄みを感じた。
やはり目付きが鋭い人だ。
それから、ドラゴンが出没していると物騒な話をされた。
火山に潜んでいるらしい。
九尾の狐とは因縁があって、いつバトルになってもおかしくないとか。
そして、九尾の狐と対面した。
エリーフラワー様のご夫君、エドワード様の呼びかけで何もないところから姿を現した。
なんと美しいケモノなのか。
蒼い光に包まれた白い毛皮。水晶のような瞳。
九つの尻尾はくるりと巻かれていた。
本当に九尾の狐だ。実在したんだ!
すぐにレイカさんのお母さんに抱きつかれていた。
――ドラゴンとの戦いは避けてほしい、国を焦土にしないで欲しい。と訴えてらっしゃる。
彼女が命の恩人らしく、大人しくしていた。
そしてこちらへ、優美な足どりで近づいてくる。
頭を下げた。
「頭を撫でていいってさ。」
アンディさんの声に恐る恐る頭をなでる。
フワリ
温かくて気持ちいい。
その時。
カチリ。
どこかで何かが繋がった気がした。
白狐様が目を見開いて、私を見る。
そして、
―――随分と厄介なめぐり合わせに生まれた娘だ。
頭の中に言葉が入ってきた。
「随分と変わった生まれだと言ってるでござるな。」
エドワード様が似たような同じ言葉を口にした。
そして、ゆうゆうと振り向きながら、九尾の狐は消えた。
今のはなんだったのだろう?




