『貴方は占いを信じますか? たとえ、非常につらい、嫌な予言をされても? ーーたとえば、こんな新婚夫婦がいました……』
新婚ホヤホヤのワタシたちは、その日、夜の散歩と洒落込んでいた。
駅に向かう途中、線路近くに、こぢんまりとした公園を見つけた。
酔い覚ましのドリンクを自販機で購入し、夫と二人でベンチで座って飲んだ。
夜の公園は、白い灯りがともっていて、幻想的な雰囲気だった。
そんな公園の奥に、薄明かりの下で、「占」の文字が大書された布をかけた台があった。
その台の上には大きな水晶玉があり、その後ろには老婆がひとりで座っていた。
お婆さんは全身黒づくめで、いかにも占い師然とした風情だった。
ワタシは妊娠四ヶ月で、近いうちに母親になる。
だから、子供の将来を占ってもらおうと、占いのお婆さんに近づいていった。
「お婆さん。ワタシのお腹の子について、みてもらいたいの。
どうすればいいの?」
「おめでたかい? そりゃあ、おめでたいねえ。
なに、そこに立ってもらうだけでいい。占ってあげるよ」
お金は奮発して一万円払った。
お婆さんは素早く受け取って、ニカッと笑った。
だから、気を利かせて、幸せなことを言ってもらえると思った。
が、一緒にいた夫の態度が悪すぎた。
「一万円も!? 占いを信じるなんて、ほんと、バカかよ!」
頭から軽蔑するような態度だった。
不快に思ったせいか、占い師の婆さんは、信じられないことを言った。
「あなたの子供は長生きしない。
生後半年ほどで、苦しんで死ぬ」
ワタシたち二人は絶句した。
しばらくして、短気な夫が反応した。
「て、てめえ、このババア! 脅す気か!?」
夫は掴みかからんばかりの勢いだったが、婆さんは平然としている。
「おや、アンタは占いを信じないんだろう?
だったら、気にせずともよかろうに」
夫は拳を握ったまま、前のめりになる。
が、何も言い返せないらしい。
占いの婆さんはニタリと笑った。
「でも、手立てがないわけではないよ」
皺だらけの手を出す。
もっと金を払え、ということらしい。
案の定、夫が顔を真っ赤にして怒った。
「ふざけんな。行こう、行こう!」
ワタシを急き立てて、公園から出て行く。
ワタシが振り向くと、占いのお婆さんは哀しげな表情を浮かべていた。
◇◇◇
それから半年ほどして、息子が生まれた。
息子は、生後すぐに保育器に移されるほどの未熟児だった。
そして、生来、病弱だった。
ワタシはハラハラし通しの育児となった。
五ヶ月が経過して、あの占いの婆さんの死の予告まで、あと一ヶ月に迫っていた。
今も息子は、幼い身体で必死に生きようとしていた。
ゼイゼイ息をしながらも、ワタシに必死にしがみつく。
そして、精一杯、ワタシに向けて笑顔を見せてくる。
「ママ、心配かけて、ごめんね」と目で語りかけてくる。
ワタシの目に涙が溢れた。
この子の生命を救いたいーー。
ワタシは、会社から帰ってきたばかりの夫に泣きついた。
「あのときーー占いのお婆さんに要求されたときに、素直にお金を払って、アドバイスを聞いておけば良かった……」
ワタシが泣くと、夫も肩を落としていた。
当初は、苛立っていただけの夫は、怒鳴るばかりだった。
けれども、息子が生まれてきて以来、変化した。
息子の病弱ぶりに肝を冷やし、オロオロすることが多くなった。
自分の子供なのだ。
さすがに情が移ったのだろう。
今も会社から帰ってくるや、息子を抱き締めて、ワタシと一緒に泣いてくれた。
そして、ボソリとつぶやいた。
「明日の夜、あの公園に行ってみよう……」
そして、息子を義父母に預けて、あの日の公園に行ってみた。
ところがーー。
公園がなくなっていた。
ネットのマップで見たら、以前通りだったのに、実際に来てみたら、公園の周りに柵が張り巡らされ、立入禁止の看板が立てられていた。
市の施設が新築されるらしい。
それからというもの、夫と一緒に、あの占い師のお婆さんの所在を探す日々が始まった。
それでも一向に見当たらない。
息子の死が予告された、生後半年まで、あと一週間ーー。
いったい、あのお婆さんは何処へ行ってしまったのか。
誰か、教えてください。
お願いします……。
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