大きな黒い目の妖精が住む公園
結婚直前で、彼氏と別れた。
三年も付き合ったのに。
私は、自分の住む街から五つほど離れた駅近くにある産婦人科病院に、中絶の手術のために出かけた。
本当は中絶などしたくなかった。
付き合って三年の彼氏が二股をかけていたため、私は捨てられた。
周囲には「彼との結婚はもうすぐ」と伝えていたために、私は文字通り、身も心もボロボロになってしまった。
産婦人科病院は、明るく清潔な感じで、お腹の大きな妊婦が幸せそうに見えた。
私は、目を落として受付まで歩いた。
初めての手術が、こんな屈辱で、悲しい事だなんて、夢にも思わなかった。
なんで私が、こんな目にあわなければならないのか。
頭の中にいくつものクエッションマークが並んだ。
と、同時に涙が止まらなかった。
生まれてきて、こんなに涙を流したのは、今日がいちばんだろう。
悔しさと、せつなさと、憎しみが、心の中をぐるぐると駆け回っている。
産婦人科を出た後、ひとり暮らしのマンションには戻りたくなかった。
重たい気持ちを胸に抱えて歩いていると、小さな公園があるのに気づいた。
住宅街の憩いの場のような、とても小さな公園ーー。
緑の木々が、澄んだ風を運んでいた。
人も、まばらで、ベンチには暖かそうな陽が降り注いでいた。
私は思わずそのベンチに、身を預けるように座った。
ただ、ぼおっと無心になって座っていた。
どれくらい時間が経ったんだろう。
ふと目の前を見ると、キノコの形をした遊具が置いてある。
その四方にトンネルがあって、そこから子供たちが出入りするような作りの遊具だ。
その小さなトンネルを、数人の子供たちが音もなく、静かに出入りしているのだ。
空中をふわふわ漂うように、遊んでいる。
何かがおかしいと思って、よく目を凝らすと、その子供たちは妖精のように小さな子供たちで、表情のない顔に黒い大きな目をしている。
身体は半透明で、光り輝いていた。
私は朦朧とした頭で、その子たちをじっと見てしまった。
その子たちも、私の視線に気づいたのか、私の方を無感情な瞳で見返している。
声にはならない声が、私の耳に届いた。
「あの人が、ママになる人だったんだね」
ひとりの子が言った。
「でも、もうママじゃない」
声にならない声が、私の意識に入ってきた。
感情のない黒い瞳が、じっと私を見つめていた。
私は恐怖と疲労で、めまいを覚えた。
そしてそのまま、気を失ってしまった。
夢うつつの中、遠くの方で、赤ちゃんが泣いてるーー。
そう思ったら、目が覚めた。
どれくらい時間が経ったんだろう。
顔は涙と鼻水で濡れていた。
公園の草むらの方から、やっぱり赤ちゃんの泣き声が聞こえた。
ほぎゃー、ほぎゃー。
と、小さく甲高い声がする。
私はおっかなびっくり、その泣き声に近づいてみた。
すると、草の茂みの中に、小さな白い子猫が捨てられていた。
ようやく目が開いたばかりの、小さな子猫だった。
青い目が美しい。
私は思わず抱き上げた。
小さくて、頼りないけど生きている。
私は、バックの中からハンカチを取り出すと、子猫を包んだ。
もう生命は殺せない。
ごめんなさいーー。
そんな感情が、湧き起こった。
その様子を、小さな瞳たちが、じっと見ている気がした。
私は子猫を連れて、その公園を後にした。
小さな白い子猫の名前は、凛と言う。
もうこれからは、凛として生きていこうと、私は決意したから。
凛は私の心の癒しになっている。
私の不思議な体験でした。
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