scean45 クロムのルーツ(2)
「マルク様は日々、ルーンの秘術を研究していた至上達人で、図像派の中で長老に迫る実力者じゃった。エトネ様の身に宿る封印の力を解明、ルーンと合わせて魂封じの水瓶が出来た」
水瓶と聞いて、リズが立ち上がる。
「『水瓶』は本当にあったんだ!」
団栗眼を大きく開いて、跳んではしゃぐリズ。後ろで束ねた赤い癖っ毛が上下し、跳ねる。けれども全く周囲の空気が変わらないと見て、おとなしく座る。フィオナの手を取り、リズは呟いた。
「ごめんねフィオナ、夢だ何だと疑っててさ……フィオナが言った通りだったね」
「いえ、いいんです」
ほっとしたような表情のフィオナ。
一方、老爺の回想を聞いたモニカの顔には、険しさが見える。
「だけど水瓶を作った事実が、学院にバレた……」
「ああ、ヘルメスはこの水瓶を引き渡すよう求めたのじゃが、マルク様には承服できん。封が解けたら台無しじゃでな」
ヴァイスは頭をがりがりとかいて、ため息をついた。
「家族を守るはずだったのが……逆に追いつめられちまったか」
「マルク様はすぐ、ご家族とわしを連れて、ヘルメスを逃げ出したのじゃな」
「それで討伐ね……皮肉なことだな」
「わし等は追っ手を振り切ろうとして、あえてヘルメスが活動しにくい、カトリック地域――スコットランドの付近を通った」
ヴァイスの眉間に深くシワが寄る。
「スコットランドと英国は長く敵対している。確かにあそこは、英国王家の庇護を受けているヘルメスの魔術師は気を遣う土地だ。新教側の英国王家と、旧教側であるスコットランドは、お互い対立している宗派の信者を見つけちゃ、火炙りにしてる。だけど魔女狩りのリスクも高いぞ。元々魔女狩りが多い地域で、スコットランドじゃ、イングランドとは違って魔術を使っただけでも罪になっちまう」
「仰る通りじゃ。確かに追手は少なかったがな……」
ターヤが表情一つ動かさず、当たり前のことだという口調で、老人に聞いた。
「ここで魔女狩りの対象になった。そういうことでしょ?」
「そうじゃ、そのせいで足止めを食ったわし等に、討伐部隊が迫った。ご子息とエトネ様を逃がすため、マルク様はその身を囮にしてわし等を逃がした。じゃが情けなくも、わしは追っ手めと相打ちになって、重傷を負って意識をなくした。気付いた時には、マルク様はもうお亡くなりになり、エトネ様は火で焼かれた後でな……ご子息は行方知れずになってな……」
老爺は嗚咽を漏らして、涙をぼろぼろ流した。
「わしも裁判にかけられていたが……大怪我のせいで、むしろ被害者と判断されての……こうして生き恥をさらしておるわ……」
モニカは老爺の手をそっと取った。
「そんなことないよ、あなたが生きてたおかげでマルクの子どもを助けることができるかもしれないんだから」