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scean41 抜け落ちた記録

◆◇◆

 

 

 書棚が並ぶ、小さな窓の薄暗い部屋。石壁のこの建造物は、ヘルメス魔術学院が持つ図書館である。女王エリザベス一世付きの魔術師まじゅつしである、ジョン・ディーの書庫、と言われている。

 モニカはそこで書巻を開き、記録を探す。


「フィオナから聞いたクロムの発言――『不当な汚名』に、それから『禁呪』ね。恐らくクロムの親は何らかの禁呪に手を出し、何か不名誉な扱いを受けた。なら戒律派の記録に載ってるはずだと思って」


 モニカの指は、ある文字列を指して止まった。


「『マルク=アクアリオ』『討伐対象』『討伐の理由:禁呪たるルーン魔術と操魂魔術の併用』『妻子を伴い北部へ逃亡』『戒律派による処刑の対象』『伴侶は世俗の魔女狩りによって火刑に処された』『子は行方不明』……これがそうじゃない?」


「もっと詳しく分かりませんか?」


「もう少し探したらあるかもね」


 他の資料を探そうとしたまさにその時、複数人が床板を踏む音が聞こえた。後ろを見れば、黒いローブの魔術師まじゅつしたちが数人並び、こちらを値踏みするかのように、じっと見ている。


「……この書架の閲覧は許可出来ぬ。去るがいい」


「ちゃんと手続き踏んだんだけど?」


「手違いだろう。そもそもにしてヴァルプルギスが何故ここにいる。またぞろ何か企み事か」


「なんなのよそれ、すごい濡れ衣! もしかしてキミ、喧嘩売ってる?」


 モニカの青い目がつり上がる。

 拳を握るモニカの前に、すぐにヴァイスが割って入った。小声で話す。


「モニカ、ここで騒ぎになるような事はまずい」


 モニカをなだめ、魔術師まじゅつし達を刺激せぬよう、ヴァイスは事を丸く収めた。

 格好として追い返される形になって、モニカはひどく機嫌が悪くなってしまった。


「あぁ腹立つ! 何なのあれ、いつもいつも!」


「モニカ、あの人達と折合い悪いんですか?」


 困った顔で肩をすくめて、リズが答える。


「奴らというか、魔術師マギ全般と?」


 ヴァイスがそれを受けて続ける。


「ヴァルプルギスは人を助けるためなら、まるで隠すことなく魔術を使う。魔術師マギは神秘を独占したい、だから絶対秘匿(ひとく)するんだ。そりゃぶつかるさ」


 フィオナは、確か以前もそんな話を聞いたような気がした。


「もういいよ、他行こう!」

 

 

◆◇◆

 

 

 彼らは次に、知りうる限り手がかりになるものを探した。主に、特段許可を取らずに閲覧できるものから始め――しかそれらの結果は全て空振りだった。

 クロムの地位が『達人』ならば、名簿に記載されるはずだと調べてみるが、何故か一部が虫に食われて読めなかったり――ルーン魔術の研究をした魔術師まじゅつしたちの論文なども調べてみたが、連番の内一冊だけが足りなかったり――ページが一部破れていたり。

 記録があてにならないからと、直接人に聞き込みもした。多くの魔術師マギは話も聞かず門前払い、一部話を聞けたとしても、クロムのことは分からなかった。

 何の成果も得られぬ日々が続き、フィオナは焦り始めた。バロールを身に宿していては、いつ人格が崩壊してもおかしくはない。

 けれど全く手がかりになるものは探せず、次第に当てもなくなってきて、この日も四人肩を並べて――肩を落として、とぼとぼ道を彷徨さまよっていた。


「……何か、知りたい記録ばっかり抜け落ちてない?」


 重い空気を打ち破るよう、モニカが言った。フィオナがそれに答え、つぶやく。


「行く先々で露骨に嫌な顔されますし……」


「ヴァルプルギスに中立的な態度の魔術師マギも、妙に厳しい」


 ヴァイスが同意すると、フィオナは少し悩んで、口を開いた。


「あの、言いたくはないんですけど、これってまさか……」


 その時急に、リズの影から顔だけ出したリルがうなって、フィオナの声はそこで止まった。

 リズはきょろうを周囲の目から隠すようにし、頭を撫でた。


「リル、どうしたの?」

 リルの視線の先にいるのは、地味な毛織りの肩掛けを着て、頭巾を被るお下げの女。そのはくはつのせいで、一見老婆なのかと見間違えるが、よくよく見れば若い娘だ。フィオナはそれに見覚えがあるような気がして、じっと見つめる。

 すると娘は、フィオナのことにはっと気づいて顔を隠した。

 それで余計に目立ってしまい――モニカが気づく。


「ターヤ! 何でキミがここに……!」

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