scean29 対峙
クロムはそれを聞き、歯噛みした。
「そんな事……分かってて来てるんだ!」
傷を庇ってふらふらとした足取りで、目の前のフィオナに近づいていく。
「フィオナ、そいつに惑わされるな、そいつは君の体が欲しいだけに過ぎない!」
「それが、私を実験台にしようとしてた貴方達との間に、どんな違いがあると?」
フィオナはまるでクロムの方を見もせず言った。感情のない冷たい声が、クロムに刺さる。
「違う、僕は君をそんな風にしようなんて……」
「けれども、否定はしませんでしたよ? それなら私に自由がある分、邪眼の器の方がマシでしょう?」
柱が砕け、破片が飛んでクロムの肌を切り裂き、抉る。
フィオナに絡む靄が次第に、彼女の中に吸収されて、その身が黒く染まり始める。黄金の髪の端がゆっくり黒髪になる。
クロムの顔に焦りが見える。
「いつかきっと、僕が魔眼だけを封印する術を探し当てる! それに君が魔術を身に付けることで、魔眼自体制御出来る、だから――」
「それは一体いつなんですか。いつまで部屋に閉じこめられて、息を殺して生きればいいの?」
青く輝くフィオナの瞳。床から太い氷柱が生えて、クロムを刺した。
フィオナの髪はどんどん黒く変化していく。
それを眺めて、靄は楽しむかのように笑む。
『哀れな……いいや、滑稽なるか。そなたの声が聞こえる度に、娘の胸は冷えてゆくのだ。心が我に近付いておる』
辺りに響くバロールの声。しかしクロムはそれを無視する。フィオナに声を届かせようと。
「このままでは、君はすぐに人格ごと乗っ取られて消えてしまう! それどころか、その邪眼を使う事で肉体まで魔術汚染されてしまい、死んでしまうかもしれない!」
「檻に入れられ飼われることと、死との間にどれほどの差が? その人生にそれほど意味があるんでしょうか?」