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scean2 牢獄の幽鬼

❅❅❅❅❅

 

 夜の牢獄は暗く、かび臭い。結露でじめりと湿る床、壁が、不快さを更に助長させている。

 悪夢から()めた彼は、襤褸(ぼろ)(ぬの)を跳ね上げるように飛び起き、叫んだ。

 栗色の髪に長身の体躯(たいく)(はしばみ)色の目。顔は幽霊のように青褪(あおざ)めて、頬はこけて目は落ち(くぼ)んでいる。(まと)ったローブは薄汚れていて、元の色合いが判別できない。

 身震いするほど気温は低いが、汗はとめどなく(ひたい)を流れる。走っていたかのように荒い息。

 辺りを見回し、夢を見ていたと確認してから、青年は息を整え始めた。

 すっかり落ち着き――急に大声で叫び出し、床を思い切り殴る。

 石畳でその拳が傷つき、血が(にじ)んでくる。

 その様を全て見ていた向かいの牢の住人が、あざ笑うような声でささやいた。


「またあの夢なの? うなされてたわよ? あまりうるさくて眠れやしないわ」


 声に反応し、青年は止まる。ゆっくり(こうべ)を上げたその先に、黒衣(こくえ)をまとった修道女がいた。


「まったく、何とも可哀想だこと。私が懺悔(ざんげ)を聞いてあげるわよ?」


 小柄な体に伸ばした白髪(はくはつ)、まだあどけなさの残る年の頃。少女と言っても差し支えのない顔立ちの中で、目だけがこの世の苦しみを知った、諦めにも似た表情を見せる。

 青年が歯噛みする音が牢にはっきりと響く。


「黙れターヤ。フィオナを死に追いやろうとしてた君に、誰が懺悔(ざんげ)なんか」


 怒りを抑えて、臓腑(ぞうふ)から声を絞り出すように青年は言った。

 ターヤと呼ばれた修道女は、さも喜劇を楽しむかのように笑う。


「遠慮は無用よ、クロム」


 クロムと呼ばれた青年は、再度素手で床石を何度も殴った。拳から赤い雫が滴る。


「フィオナを助けられるなら、僕は何でもするだろう。だけど……(ゆる)しを乞うて何になる」


「おっかしい」


 ターヤはころころ声を上げ、笑う。


「牢獄の中でできる事なんて、懺悔くらいしかないじゃない。それに、貴方が赦しを得たと思えたら、悪夢を見たりはしなくなるかもね」


 クロムの口から、歯が砕けたかのような音がする。


「彼女への贖罪(しょくざい)が済むまでは、僕はまだ(ゆる)されるべきじゃない。次こそは、絶対に救い出す。僕は――」


 口から一筋、血を流しながら、クロムはその目に、暗い輝きを宿して(つぶや)く。


「彼女を裏切ったのだから」

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