表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
山中邂逅譚  作者: 茶ヤマ
2/13

2

茂みの向こうには小さな(やしろ)があった。小さな鳥居と祠があるだけの、質素な作りの社。

参拝に来る者はほとんどいないのであろう、寂れている。

だがしかし、最低限の手入れだけはされてあった。

先ほどの人影は、ここへ来たのであろうか。

それとも、あれは人などではなく、妖しのものがここへ導いてくれたのか…。


……いずれにせよ、ありがたい、今夜はあそこへ泊まらせてもらおう。野宿よりはよほど良い。

と、男…太明(たいめい)が息をついた時だった。


カサリ。

と、草を踏む音がし、社の後ろから、一つの影がすうっと現れた。

白の(ひとえ)に無紋の袴をはいた人物。

抜けるように白い顔色だが……。


……女か…? 男か……?


どちらとも見て取れる顔立ちをしている、その人物の面立ちは、何とも言えぬ雰囲気をまとっている。

例えるならば、目を閉じ、その容姿を思い出そうとしても、思い出せないような、そんな曖昧模糊(あいまいもこ)とした空気がある人物だった。

年はどことなく太明と同じようにも見え、そうかと思うと年下のようにも見る。

いわば年齢不祥。

背の中ほどまである黒髪を、こよりで一つに束ねていた。

手には竹箒。


……この社の管理、か?


おそらく、この小さな社の掃除をしに来たのだろう。

着ている物の所為か、その人物の姿だけが、周囲のぼんやりとしたほの暗さから切り取られたように浮かんで見えた。

その人物の目が、ひた、と太明に合わされた。


「どうなされた?」


その容姿からは想像もしていなかったほどよく通る声が向けられる。

若干高い男性の声とも、低い女性の声ともとれた。

「峠を……峠を越え、村か集落まで出ようとしたのだが、不慣れな道ゆえ、ここで日が暮れてしまいまして。

申し訳ないとは思ったが、その社の軒下を一晩お借りしようかと思っていた次第です」

太明は(よど)みなく、そう告げた。

嘘ではない。全て本当のことだからだ。


太明の答えに、そうですか、とその人物は頷き、自分の背後の社を示した。

「村まではここを下りきってしまえば、さほど遠くはないのだが、もう日も暮れてしまっております。

ごらんの通りの小さなお社ゆえ、泊まる分にも私の家の方が、まだましでありましょう。

独り身ゆえ大したもてなしもできませぬが、それで宜しければ」

どうぞ。

と、滑らかな動きで太明を案内した。

歩いている、というよりも、緩やかに車輪で進んでいるような、そのような印象を一瞬持たせるような動きだった。


先ほどの草を踏んだ音が幻でもあったかのように、足音は一切しない。

日の暮れた仄かな闇の中でもはっきりと見える(ひとえ)の白色。

その背に、山伏姿をしている太明は黙ってついて行く。


数歩歩いた後、

「肩をお貸ししますか」

と尋ねてくる。足の怪我を見越したのだろう。

太明は、大丈夫だ、と錫杖(しゃくじょう)をついて歩いてみせた。


名前、片方だけ出ました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ