表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
山中邂逅譚  作者: 茶ヤマ
13/13

13


「失礼を承知で尋ねる。日向殿は女人ではないのか?」

「女人では神職にはなれませぬ、山にも住めませぬ…と()()()()言われております」

と、日向は笑って言葉をにごしつつ言った。

太明もただ、そうか、と頷いた。

今の日向の姿は、周囲から切り取られたような奇妙な存在には見えなかった。

日向は太明を見送るために外へ出た。

「ここから、どこへ行くおつもりか」

「決めてはおらぬが…。本当に山伏となるもの悪くないと思っている」

そのため、山伏の修験道に向かおうかと考えている、ここからならば、さほど遠くもあるまい、と言う。

「そうですか…」


太明はふと気付いたように、背にしていた厨子を下ろした。

「この厨子の中身は、何であろうか…。今の今まで見ていなかった」

「開けて見ても宜しいですか」

太明が頷いたので、日向は厨子を開けた。

中には木彫りの不動明王が一体。不動明王は蔵王菩薩と並び、山伏たちが、祈る対象としている御仏である。

この不動明王は、太明が剥ぎ取った衣装の元の持ち主が彫った物なのだろうか。見事な彫りとは言わないまでにも、稚拙でもない出来栄えであった。

「これは、ここへ置いて行って良いだろうか」

「社に、不動明王か…」

 日向はおかしそうに笑った。

そして、なるほど、此処(ここ)にはそれも相応しいかもしれない、と一人ごちる。

「……修行が終わった後、時々は立ち寄っても良いでしょうか」

太明の言葉に、日向は、ええ、と頷く。

「何でしたら、ここでお務めしてくださっても構いませぬよ」

という日向の言葉に、お社に修験者が務めるのか、とそっと笑いそのまま背を向けた。

立ち去るその太明の背に、日向もやはり黙ったままゆっくりと、腰を折り、深く礼をした。


生い茂る木で昼でも尚薄暗い山の獣道。

それでも、太明の行く先にも、日向の上にも、わずかに陽光がやわらかく降り注いでいた。


----------------

これにて終わりです


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ