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山中邂逅譚  作者: 茶ヤマ
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一人の男が北東の、とある山道を下っていた。

周囲はぶなの木が生い茂り、昼でも尚薄暗く、男が歩いている道は獣道程度しかない。その道を外れたら最後、方向を見失い、苦心難渋するであろう、山。

男は、頭には兜巾(ときん)

それにいささか汚れてはいるが白の浄衣(じょうい)。それに結袈裟(ゆいげさ)を纏っている。

足には脛巾(はばき)藁履(わらぐつ)をつけ、腰には護身用のためなのか刀を。

錫杖(しゃくじょう)を手している姿からして山伏であることが伺える。

しかし、多くの山伏が背に(おい)を背負っているのに対し、この男は厨子を背負っていた。


修行を行おうとする山伏と言うものは、集団で入山するはずである。

しかし、この男のほかに姿はなかった。

体には、あちこちを怪我した跡があり、とりわけ足に大きな傷でもしているのか、錫杖にもたれかかるような足取りである。

どこかで怪我をしたために、他の者たちに遅れをとったのかもしれぬ。


男は、鷹の羽ばたき一つにびくりと敏感に反応するほど、周囲の気配を窺い、気を張り詰めていた。

音の正体を知り、わずかに首を振る。


……早く……遠くへ……。


草を踏み分け踏み分け、足を引きずりながらも、ただ歩を進めていた。


男は、空を仰いだ。

日は傾きかけ、すでに夕闇がそこまでやってきていた。


……山を上りきり、下りに入ったというのに村が見えぬ。


野宿はできれば避けたいものだった。

今まで歩いてきた道には、夜明かしできそうな小屋など一つもなかった。

山を登らずに迂回すれば麓に村などいくらでも見つかり、その方が良かったことなのかも知れぬ。しかし、迂回すればそれだけ日数がかかる。人目もある。

実はそれを避けるために、男は峠を越えて来たのだった。


だが。

……見誤った…否、考えが甘かった。


知らぬ道を、おおよその見当だけで闇雲に進んできたのだ。夜明かしできそうな小屋一つないとは、考えもしなかった。


嘆息一つつき、進めるだけ進もうとした時だった。

遠くの茂みが揺れた。


男は立ち止まり、息をつめながら、木立に隠れるように、揺れた茂みを睨んだ。

黄昏時もとうに過ぎている。

目を細めてもその遠くの茂みは霞んで見える。


その茂みの後ろを、白い影がちらりと通った。

人のようだ。

男はしばらく木陰から、一瞬見えた白い人影の様子を伺っていたが、やがて、そろりそろりとまた歩き始めた。

腰の刀に手をあてながら。


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