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新たな任務 2

 ニュートン駅のコンコースに逃げ込むと、ようやく彼女は自分の足で大理石の床を踏みしめる。


「ボクは一体いつになったら、キミを殺せるのだろうか……」


 嘆いているようにも見えるが、彼女のいっていることは、人殺しだ。

 まあ彼女と取り決めをした。一風変わった契約だ。



 自由になりたかったら、このアト=ミックスを殺すこと。隙があれば、いつでも掛かってこい。ただし、一日一回が限定。



 彼女には自由が、僕には()()()パートナーとしてのレディが必要であった。

 僕のレディはこれまで何度となく、仕留めようとしてきている。だが、ことごとく防がせてもらった。最初の頃なんて、毎日のように襲ってきた。僕を疲れさせ、魔法の源であるマナニウムを消費させて、隙を作ろうとしていた。

 体力はレディのほうが確実に上だ。


 ひ弱な魔法士。


 最初の僕への評価であろう。マナニウムの扱い方が、長けているだけの男。少々見くびられたかもしれない。マナニウムは空気中に一定量存在するし、消費した分はダイリチウムに備蓄され続ける。「兵糧攻めは無意味である」と、種明かしをすると、かなり不満を漏らした

 そもそも本気で殺す気なら、銃殺や毒殺なりに切り換えればいい気もする。しかし、それは何というか……彼女の暗殺者(裏の者)としての美学に反しているらしい。だから、懲りずに、殴る、蹴る、刺す。ほぼ僕の苦手な格闘で襲ってくる。

 この契約を決めてから、数ヶ月は経つと思うが、律儀に守って、襲ってきたのは最初の一ヶ月ほど。その後は思い出したように襲ってくるが、今のところ怪我ひとつもらっていない。


「キミはまだ仕事だったか……魔法協会は人使いが荒いなぁ……」


 そう愚痴りながら、レディはひとりで駅に併設された宿泊施設(ホテル)に向かった。


(キミも一応、その魔法協会の一員なんだけどね)

 と、僕は口にしたかったが出さなかった。


 彼女の背中が消えると、もうひとつ併設されたラウンジへと向かう。

 空いている席に座ると、手際よく給仕が注文を取りに来る。


「コーヒーと、今月号の通販(カタログ)本をお願いします」


 ミステリウス錬金学魔法士協会は、国際鉄道を敷設して駅を作るだけではなく色々な事業をしている。そのひとつは、鉄道路線を使った通信販売だ。

 扱っているものは、日用品から各地の高級食器、時計や農機具、護身用の武器、狩り用の小銃(ライフル銃)まで何でもござれだ。さすがに日持ちのしない食料品まではないけど。


 そうこうしている内に、給仕がコーヒーとカタログ本を運んできてくれた。

 コーヒーにはたっぷりのミルク、砂糖を三杯。懐からタバコを取り出し口にくわえながら、カタログを後ろからペラペラめくった。


(あったけど、今日は難しくないように……)


 見つけたのはクロスワードパズルだ。

 カタログ購入者の暇つぶしと、答えを応募すると抽選でプレゼントがある、と記載されている。そのページには他に、前回のプレゼントが当たった者の氏名が並んでいた。

 僕は指先に熱を集めると、それをくわえたタバコに移動させて火を付けた。

 レディがタバコの匂いが嫌いなので、彼女の前では吸えない。控えてはいるが、イラつくとちょっと吸う本数が増える。

 精神安定にも丁度いい。

 それはそうと、何故、僕がクロスワードパズルに挑戦しなくてはならないのか。それは、これを利用した暗号が毎度、本部から届くからだ。


 コーヒーを二杯飲み干し、おかわりをした。それにタバコを数本消費して、クロスワードの解答にたどり着く。それだけで本部からの暗号が解けたら、楽なことはない。


 ここからは問題だ。


 注目すべきなのは、プレゼントの当たった人物の氏名。

 どういう仕組みか、正確に説明すると長くなるが……クロスワードの答えと混ぜ合わせることによって、四文字のキーワードが出てくる。

 僕のランタン型のダイリチウム容器をテーブルに置く。銀の円筒形状の中に、拳を二個ほど並べた大きさの結晶体がダイリチウムだ。

 ドス黒い赤色をしているのは、ほぼ満タンの証し――反対に澄みきった青色になれば空だ。マナニウムは空気中に含まれているが、気候や地理的位置などなどで、その濃度が変わっている。強力な魔法を使うときは、大量に必要だが、それがすべて現在の空気中にあるとは限らない。マナニウムを蓄積して、いざというときに使えてこそ魔法が万能であり最強だ。

 そのために人は、マナニウムを備蓄して安定供給できる物質を探していた。


 発見したのはこのダイリチウム。


 最初に見つけたときは、金鉱脈に紛れていた大変貴重な物質だ。その昔は同じ重さの金の二倍ぐらいで取り引きされていたぐらいだ。

 ――ということは、僕の持っているダイリチウムは、とんでもない価値がある。だけど、最近は――とはいっても、僕の産まれる遥か前であるが――魔法協会があるところで、ダイリチウムの大鉱脈を発見した。そのために価格が下落。今の価値は、最盛期のまあ四割がいいところであろうか。

 話はそれたが、次に出した――色々ものを出し入れしているが、背中に特製のカバンがある――のは、占いでもやりそうな水晶玉だ。

 コーヒーカップのソーサーを拝借し、転がらないように布を牽き、その上に水晶玉を置いた。


 あとは……ちょっとした魔法器具を作動させるだけだ。


 カフェで隣にどんな人物が座っているか、分からない。ましてや僕のような職業にとっては、話の内容を聞かれてはマズいこともある。

 そんな時に使える便利アイテムだ。その機能が僕のランタンには付いている。

 簡単にいえば、周りから気取られないもの。装置の周りに別空間を作り出す。これにより、たとえ隣の席だろうが、話の内容は全く聞き取れない、といった具合だ。

 欠点といえば、反対に周りの情報がとれないということもあるが――


「さてと……」


 装置の説明はこのぐらいにしよう。

 ランタンの土台には鍵穴のようなものがあり、そこに専用のカギを挿して回すと発動する。カギはゼンマイのおもちゃを回すようなものだ。


 装置を起動させる。


 次は水晶玉。マナニウムを消費して、遠くとのやり取りする通信装置だ。空気中のマナニウムでは足りず、ダイリチウムで備蓄しておかないと通信が不安定になるが――


「これであっているかな?」


 指先にマナニウムを集中させ、水晶の上でクロスワードで出したキーワードをなぞった。

 そうすると、水晶玉の中で青白く点滅が始まる。が、十回ほど点滅を繰り替えして反応がなくなった。

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