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監視官の任務 5

 聞こえてきたのは、ハンマーと岩石がぶつかり合う弾ける音だった。


「こいつらは、なんだ?」


 労働者がコンベアベルトの前に並び、運ばれてくる岩石を細かく砕く。それをまた別のコンベアに落としている。細かく砕かれた岩石は、この谷間には相応しくないレンガ造りの工場へと運ばれた。工場と思ったのは、煙突があり煙を吐き出しているからだ。


 先程まで辿ってきた線路もその工場へ向かっている。

 最初のコンベアのほうは、ポッカリと空いた坑道へと繋がっていた。


「なるほど。思っていたものとは別のものを引き当てたようです」


 ボクら三人は、何故か揃って物陰に隠れて作業の様子を見ていた。しかし、この軍人さんも隠れる必要があるのだろうか。


「キミはこれが何か判ったのか」

「レディは兵士といっていましたが、半分は正解」

「後、半分は……」

「犯罪者、被告人、罪人、咎人、下手人……何が当てはまりますか、プライズさん?」


 キミは適当に言葉を並べているが、軍人さんか苦笑いしているのが判らないか。


「受刑者だ。ほとんどが――」


 ボクはほとんどが、という言葉に引っかかった。


「僕の予想とは違いますが……軍刑務所の強制労働ですか?」


 ボクらの目的は戦略(ドラゴン)型キメラ、それに消えたリュート使い(吟遊詩人)の一行の探索だったはず。

 てっきり線路の先には、武装集団のアジトでもあるのかと思った。


(久しぶりに暴れられると、思ったが……)


 武装集団なら容赦はいらないが、どうやら違うようだ。


 しかし、おかしな話だ。


 軍隊内で刑罰があることは当たり前だとして、それを秘密にしなくてはならないのか。しかも、キミの話しぶりからすると、街の人間もこの中に混じっているという。


「本当に?」

「それを知らずに、ここまで来たのか? 噂の錬金生物(キメラ)監視官」

「すみません。僕らの命令は、見せた写真のキメラ捜索と、ウチの消えた吟遊詩人一行でしたが……」

 と、いいながら、キミは作業の様子を見ていると、


「――気が変わりました。監視官として見逃せません。対キメラ法、第一条を発動させます!」

「第一条……ただの受刑者の強制労働だろ」


 魔法協会の監視官補佐として暗記させられた、対キメラ法。

 正直言って、こんなメチャクチャな法律をキメラ協定の後追いで作られたことが、信じられなかった。酒でも飲んで決めたのではないかと疑いたい気分だ。だが、これがあるからこそ、ボクらは正当に働けるというものだ。


 対キメラ法、第一条は『監視官はあらゆる捜査に、独自の判断で介入することができる』だ。しかし、なんのためにそれを発動させるのだろうか?


 対キメラ法を発動させるとなれば、その後の報告書がうるさいし、面倒くさい。他にも対キメラ法、第四条で『監視官は国家内の紛争に干渉してはならない』となっている。

 力を使うのには、それだけの()()がある。

 受刑者への強制労働が個人的に不満だからとか、そういうことには監視官は関われない――まあ、裏技の補則があるのだが――。


「プライズさん。判ってて僕らをここに連れてきたんでしょ?」

「……」

「受刑者の強制労働には、魔法協会(僕ら)はとやかく言いません。しかし、あの採掘されている鉱物。あれはキメラの材料になるものですよね」

「……」

「キメラ協定には、あの素材の採掘に厳しい規定があるはず。ここは発見報告も、採掘届けも出てない、と僕は見ています。違いますか?」


 アトが急にまくし立てる。

 ボクには、採掘している岩石が何か判らなかった。勉強不足だ……いや、一般常識として、岩石を見ただけでは、違法かどうかは判らないと思う。


「――その通りだ。元はたいしたことのない鉛鉱山だった」


 ようやく軍人さんが声を出した。


(元は……というとは、今は違うのか?)


 その答えは、アトから出る。


「鉛が金に変わった、ですね?」


 軍人さんは、首を横に振った。


(どっちだ? さっきの取り決めが、まだいきているのか――)


「鉛からラチナムが出てきた――」


 ここでようやく、ボクに理解できる言葉が出てきた。

 鉛から出てきたという『ラチナム』という物質だ。

 それはキメラ製造には欠かせない。特に、筋肉や皮膚組織に使われる伸縮自在の超弾性金属『ミスリル』に必要な物質だ。これは、さらに鋼鉄とあわせてスチール・ミスリル合金とすることで、鋼鉄並みの強度を持ったまま弾性力を保てると、量産型のキメラによく用いられている。


 キメラ製造に欠かせない物質が見つかったということは、まさに「鉛が金に変わった」だ。


(ミスリルなら、言い値で取り引きできる)


 莫大な金になる。だが、その代わりキメラ協定違反である。制限しているところに、新しい鉱山が発見されて勝手に増産されていては、力のバランスが崩れかねない。


「レディにも、理解していただけたようで――」

「でも、街の人間がいなくなった理由は?」

「ああ……受刑者だけでは、量産に応えられなくなったのでしょう。だから、手っ取り早く近くの街から労働力を引き抜いた――。

 ですよね、プライズさん?」

「――その通りだ」

 と、軍人さんは首を横に振った。


(まだ、アトが言った事を続けているのだろうか? それよりもこの男は何者だ?)


 軍人である以上、ここで作業している受刑者の仲間……いや、受刑所から出入りしていたところを考えると、彼らを監視する役目であろう。


 だとしたら、こいつも責任者の一味ではないのか?


「さて、プライズさん? あなたの立場が判らない。なんで僕らを引き込んだんですか?」


 ボクがジッと軍人さんを睨み付けていたから、キミが気を利かせてくれたようだ。

 そうだ。この人の立場がよく解らない。ここまでの流れからするに、ボクらの……少なくとも敵では無い事は薄々理解してきた。


「――我々では倒せない」

「何を?」


 ボクの問いに答えるかのように、途端、一瞬辺りが暗くなった。

 巨大なものが太陽の光を遮ったのだ。


戦略(ドラゴン)型キメラ!?)


 警備なのか、威嚇なのか。コストが掛かるというのに、あんなものを定期的に飛ばしているというのか?

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