疾風
「もしかして‥‥日本人‥‥ですか?」
不気味な生き物から助けてくれたのは、剣を持った、まだ20前後だろうという若い青年だった。その青年は自分の顔を見るなり驚き、そう聞いて来た。
何もかも突然だったが、自分は反射的に。
「そうです」
と答えた。
日本人か? と聞かれたので、多分この人も日本人ではないだろうか?。
その助けてくれた青年は「そんなことが‥‥」と呟き。
「俺は‥‥テルーヤ・エマと言います‥‥。アナタと同じ‥‥元日本人です」
ああ、やっぱりなと思った。というのもここに来る前、神様が日本からかなりの数の日本人の魂が送られていると聞いていたので、自分はたいして驚きはしなかった。
でもテルーヤ・エマという人はかなり驚いていた。そして自分も自己紹介する。
「あっ‥‥どうも、自分は半田 正と言います。危ない所を助けてもらってありがとうございました」
深々と頭を下げる。
「い、いえ、それは冒険者として当然の事なので‥‥。そ、それよりもその姿は‥‥?」
「姿?」
「い、いや、何でもないです! それよりももしかしたらですが‥‥、今日この星に来られたのでしょうか?」
「はい、今しがたここに来た所です」
「今しがた‥‥ですか‥‥。その、この後どこに行かれるのでしょうか?」
「北に行くと町があるって聞いているので、最初そこに行こうかなと思ってます」
「通行手形は持っていますか? それが無いと町には入れないんですけど」
町に入るには通行手形という許可証がいるらしい、持ってないんですが。
そこに彼の後ろから3人の女性らしき人が駆けつけて来た。
「エマ、間に合ったのね?」
3人の中で一番背の高い女性が、地面に二つとなっている生き物と、自分の姿を見てそう言った。
「ああ、何とかな。‥‥それで、この方はハンダ タダシさんという方で、‥‥俺と同じ日本出身者だ」
テルーヤ・エマさんがそう言うと、その背の高い女性は目つきが突然鋭くなり、自分を凝視した。いきなり睨まれたので何か自分に非があるのかとビビッてしまうが、その女性は目つきが鋭いまま、その首をゆっくりと傾げていった。
それは何となく不思議に思った時にする行動に似ていた。
「マナ?」
「え、ええ、何?」
「大丈夫か?」
「ああ、うん、大丈夫‥‥」
二人はその時目で何かの合図をしているように感じたが、自分はそれを気付かないふりをする。
「ところでハンダさん、ハンダさんはここに来る前、神様からどんなギフトを貰いましたか?」
ギフト? ああ、15歳と20歳の時貰えると言っていたアレか? さて、何がもらえたのだろうか?。
「分からないですね、何せさっき来たばかりなので」
「そうですか‥‥、あの、もしよかったら町まで一緒に行きませんか? この転がっている魔物のような生き物がこの辺でもちらほらといますし、ごく稀にですが盗賊なんかも出てきますから」
真っ二つになっている生き物がいる時点で、何かしら危ない所だと思ったけど、どうやら本当に危ない場所らしい。
「では申し訳ないんですけど、ご一緒させてもらっていいですか?」
という訳で自分はこの人達と一緒に町に行くことにした。
ここから一番近い町がヤブブという町らしいが、更に北に行くと『グンサー』というかなり大きなが町があり、この人達もそこに住んでいる事から、もし住むのなら『グンサー』が良いと提案され、一緒にその町まで行くことにした。
ここに住むには仕事も必要だし、大きな町の方が仕事があるからという理由だった。
この人達について行く途中、色々な事を聞かせて貰った。
彼らは冒険者であり、グンサーの冒険者組合に所属している『疾風』と呼ばれている人達で、たまたまこの場所に居たという。
まず、疾風のリーダーを務めるのは、助けてくれた男性で、名をテルーヤ・エマ。
神から授かったギフトは、『剣術』と『一線』という技だった。一線は一瞬で相手との間合いを詰め、相手を切り裂くという技だった。最初に会った時助けてくれたのもこの技である。
一線には『縦一線』と『横一線』があり、縦は垂直に、横は横異動で相手を切り裂く。
パーティ名の『疾風』は彼の技が、一瞬で吹き抜ける風のように見える事から、そう呼ばれるようになったらしい。
もう一度その『一線』を見せてもらったが、10メートル程の距離を一瞬で移動したのは本当にびっくりした。中学高校と陸上部だった自分にはその凄さが分かる、助走無しでこの距離を、しかも目に見ない程の速さで移動したのだ。
余程足腰を鍛えていなければ無理だろう、自分も影響されその場でやってみたが、ピョーンと1メートル程しか飛ぶことが出来なかった。
しかし聞いてみると、実際は飛んでいるのではなく、手に持っている剣が勝手に移動するという、それにしがみついているだけらしい‥‥。
そしてこのテルーヤ・エマという男性は━━
「俺は沖縄出身でして━━」
沖縄生まれてであり、しかも‥‥。
「━━2555年の日本から来たんですよ」
自分よりも500年後の時代からこの星に来たらしい。テルーヤ・エマさんが言うには。
「こっちに来る日本人の年代って結構バラバラなんですよね、一番古い所で紀元前らしいという記録もあるみたいだし、新しいところだと、西暦4000近くまであるみたいです。でも4000年を超える人は記録には無いらしいんですが。俺が知っている人で、日本から来た人が3人いるんですけど、江戸時代から来た人もいるんですよね」
要するに、紀元前から西暦4000年くらいまでの日本人の人が、ランダムで飛ばされていると言う事。そしてテルーヤ・エマさんは現在22歳だが、日本では17歳まで生きていて、その時に事故でここに来たらしい。‥‥と言う事は、今現在39歳になるだろう。つまり自分より年上と言う事だ。
「そうなんですね、ところでエマさんは━━」
年上だから敬語で話そうとしたが。
「ちょっと待ってください」
エマさんに止められ。
「何でさん付け何ですか?」
「えっ? 自分は26歳ですし、エマさんよりも年下で━━」
「違います、俺は22歳です。もしかして日本にいた年齢を今足しましたよね? けして40代直前ではないですから、いいですか? 俺はまだ20代前半ですから」
自分よりも年下だと主張するのでエマさんではなく、エマ君と呼ぶことにする。
そのエマ君とは自分達が生きていた時代の話もした。エマ君的に昔の話も聞きたいらしく、自分も未来の日本がどうなっているか聞きたい。
「ハンダさんのいた時代って何時代ですか? あ、年号の事です」
「自分は平成ですね」
「平成? それって江戸時代よりも前ですか? それとも後ろですか? それと俺の方が年下なので敬語は止めて下さい」
江戸時代よりも後だと答える。エマ君の時代では歴史の授業で、縄文弥生に平安と戦国、江戸に明治そして第二次大戦辺りは勉強するが、その他はたいして勉強しないらしい。理由として、特に何もないからだそうだ。
だからそれ以外の時代はよく分からないらしい。
「平成って何があったんですか?」
と聞かれたが、正直自分も何があったか分からない、というか特に思い当たる事も無い。
野球の優勝チーム位なら印象に残ってるけど‥‥、それ以外となると、特にないな、何があるんだろう平成って。
そしてエマ君の時代、つまり自分が生きた時代よりも500年後の世界だが。
「仮想現実が実現してますね」
「仮想現実?」
「あれ、知りませんか? 疑似空間の中に入れるんですけど、んーほら! ゲームの中に実際に入れて遊べるみたいな」
何か聞いたことあるな。
「VRってのなら聞いたことあるけど、眼鏡して見るやつ」
「あ~、それに近いですかね。俺がいた時代だと、頭にヘッドギアを付けて、脳から出る電磁波を使って、直接ゲームの中にいるような体験が出来るんですけど」
「へーそんなのが‥‥」
「最初は医療として発達した技術で、植物人間状態になった人とかに使われていたんですけど、頭の後ろに穴をあけて、そこにプラグを差し込んで━━」
「えっ!? 頭の後ろに穴?」
「はい、穴です。それが進歩して穴を開けずに出来るようになったんですよ。それで俺も仮想現実のゲームとかはまってたし、その影響で学校の部活は剣道部だったし」
その仮想現実では、現実の事が直接役に立つらしく、例えば剣を使ったゲームでは、実際に剣道などをしている人が多く、そうした経験のある人はゲーム内でも上位にいるらしい。
そのせいでもあるが、未来では武道などが学校の部活で人気があるという。
そしてここでこの世界に来た時のギフトにも関わるのだが、前世つまり日本にいた時の行いがこの世界にも反映される。エマ君は剣道部に所属していたのもあり、ギフトは剣術とそれに伴う技を頂いたという。
「それと、俺がいた最近だと‥‥軌道エレベータ―が着工したって感じですか?」
「エレベーター?」
「はい、エレベーターです」
「エレベーターなら自分の時も合ったけど」
「ん? ‥‥あ、そっちのエレベーターじゃなく、軌道エレベータ―です。宇宙まで行けるやつ」
「宇宙?」
宇宙まで行けるエレベーター? ‥‥そんなの倒れてきたら危ないじゃない
「それって‥‥、倒れたら大惨事になるんじゃ?」
「ああ、それも言われてたんですが、何でも地上から立てるんじゃなくて、宇宙から吊るす感じになるみたいだから安全だって言ってましたよ。自分もよく分かりませんが」
「吊るすって‥‥、でも落ちてきたら‥‥」
「それも何か大丈夫らしいですよ、落ちないように出来ているみたいですから」
どうやらその時代の日本ではとんでもない物を建てようとしているらしい
「俺の地元、沖縄でも軌道エレベータの誘致をしたんですけど、結局駄目で、着工場所は小笠原になったんですけどね」
エマ君から詳しくその話を聞くと、どうやら未来の地球では資源が枯渇状態にあり、その為に宇宙に資源を求めて着工を始めたそうだ。
資源の枯渇により、世界は大きく変わっており、それまで大国だった国が分裂したり、無くなったりしているらしく、世界は大きく変わったらしい。
日本は元々資源が無いはずだったが、日本には資源は無くとも自然エネルギーが豊富に存在し、そのおかげでGDPも今だに世界の上位にいるらしい。
エネルギーにはさほど困らない日本だが、地球の環境が大きく変わり、外出にも時間制限が付いたり、時には外出禁止指示が出たりもするらしい‥‥。
一体未来の日本はどうなってしまったのだろうか? もう日本とは関係が無い自分だが不安になってしまう。
ここまでがエマ君との話である。
そしてエマ君には3人の仲間がいた。
その3人を身長順で紹介しようと思う。
自分の胸の位置くらいの身長で、どちらかと言えば軽装にポニーテールの女性。
名前を『セッコ』と言い、ギフトは『投擲』と『危険察知』を頂いたという。パーティの斥候役を務め、見るからに元気そうな女性である。
二人目は『マーミ』という名で、ちょっとポッチャリとした体形におっとりとした顔、とんがり帽子にゆったりとしたローブ。どことなく男性にもてそうな容姿の女性であり、何と魔法をギフトでいただいている。『火球』と『雷撃』の攻撃魔法だった。
三人目の一番身長の高い女性は、自分と同じくらいの身長で、少しきりっとした目に、鼻筋の通った奇麗な顔で、名は『マナ』。『探知』と『鑑定』のギフトを頂いている。
自分が助かったのも、このマナさんの『探知』のおかげで発見されたのが大きい。
3人共見た目の良い女性達だが‥‥。
全員エマ君の婚約者らしい‥‥。
羨ましい‥‥
◆◇
数日の移動で、目的地であり今後自分が生活の基盤にする町であろう『グンサー』に到着した。
「ところでハンダさん、名前の事なんですが。この世界ではかなりの数の日本人が送り込まれていて、文化にもその影響が大きく出ています。それで名前も何ですが日本の影響が大きいんですが、ハンダさんのようにそこまで日本らしい名前は、あまり良くないというか目立つんです、悪い意味で。なので名前を少し変えた方がいいんですが」
なるほど、半田 正という名前はどうやら都合が悪いらしい、なら‥‥。
「じゃあ『ゴテ』にします」
「はい、えっ? っと‥‥随分変えましたね? どうしたら『ゴテ』になるんですか?」
「学校ではそう言われてたんで、はんだごてから取ったんだけど」
エマ君は不思議そうに。
「はんだごてって‥‥何ですか?」
「あれ、知らない? はんだごて。工作の時間で使うと思うんだけど」
「工作の時間‥‥?」
そう‥‥中学の工作の時間で使う事になる『はんだごて』。学校や学年によっては違うだろうが、ラジオだったり、電灯だったりする。ちなみにウチの学校はラジオだった。
大体中学校で習うのだが、その授業で必ずと言っていいほど『半田』の苗字を持つ者にはあだ名が付く。
『半田ごて』もしくは『はんだ付け』である。これは全国の半田姓の宿命でもある。その授業を境目にあだ名が決定してしまう。
自分の学年には半田姓は自分一人しかおらず、『半田ごて』という道具が出てきた際、クラスの全員が一斉に自分事を、にやっとした顔で見たのを今でも覚えている。
それから半田ごてとはんだ付け、二つのあだ名が交差するが、その内半田ごてが優勢になり、その後短縮化され『ゴテ』になる。
中高と学年で一人の半田姓だった為、ずっとゴテと呼ばれていたし、会社に入っても一月後にはゴテと呼ばれていた。生涯付きまとうあだ名だった。
しかし、500年後の未来には工作の授業が無いのか? 半田ごてという道具の名前さえエマ君には伝わらなかった。
「では名前はゴテさんでいいですね? それと、出身地なのですが、流石に日本という訳にはいかないので、『名も無い村の出身』と言う事でいいですか? そこから生まれて初めて出て来たと言う事にしましょうか」
その日から『名も無き村出身』の『ゴテ』という名で自分の二度目の人生が始まる事になる。




