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魔王軍四天王 不死のサベラス

 魔王軍四天王が1人『不死のサベラス』・・・


 その見た目は転生者が見たら赤鬼と連想するだろう。

 それもそのはず、容姿は人に近いが体は赤く染まり、膨れ上がるような筋肉に体を覆われている。

 四天王の一人として、魔王軍に250年尽くして来たその鍛え抜かれた体は、その重役を十分に全うできるものである。


 だがその体に、自ら人と名乗る劣等種によって傷を付けられたことに、サベラスは怒りに震えていた。傷はもう治っているが、鏡を見ると今でもその傷が残っているように感じてしまう。

 傷のあった場所を見るサベラスの表情は鬼のようであり、まさに赤鬼だった。


 そのサベラスに話しかける人物がいる。

 魔王軍四天王が一人『狡猾のフック』、体はやせ細っており健康な体には見えない。しかしその知識は魔王軍一であり、その頭脳で魔王軍を陰ながら支えていた。


「本当にあなたが直接戦うのですか? そうじゃなくともグンサーは確実に滅ぼせますよ」


「ああ、俺が直接出向く、そうじゃないと腹の虫がおさまらないんだよ。鏡を見るたびにあの時の怒りが蘇って来ちまうんだ」

 

 サベラスはその拳を鏡に叩きつけ、当然ながら鏡は粉々に割れていった。


「‥‥偵察に出していた『黒』も発見されてしまい、王都からかなりの兵がグンサーに集まってきています。『アレ』を使えば集まって来た兵ごと消滅出来ます。しかしあなたが直接行くとしてもグンサーにはあなたに傷をつけたあの槍の男もいるのでしょう? それに劣等種とはいえ大量の兵士に囲まれては流石に無傷とはいきませんよ? それでも行くと言うのですか?」


「それでもだ、あの槍の男を直接この手で葬り去ってやらなければ、俺はこの先魔王軍の四天王として顔を上げられねえ。だから頼むフック、ゴーレムを俺に使わせてくれ」


 はぁ‥‥とフックはため息をつくと

「わかりました。使用を許可します」


「すまないフック‥‥」


「本当に仕方ないですね、また傷を負って鏡を割られては困りますからね」


「あ、あぁ‥‥すまない」


 怒りに忘れいつの間にか自分が鏡を割っていたことに気付く。


「ですがいいですかサベラス、ゴーレムは魔王軍にとっても最後に残った一体です、これを失う事は有りえません。先人が作り出したあの最終兵器は我々ではもう作れない(・・・・)のですから」


「ああ分かってる、ゴーレムは無傷で持ち帰るしグンサーは確実に滅ぼす‥‥これから生まれてくる子孫たちの為にな」




 ◇◆◇◆




 ゴーレムを操っているサベラスの視界が揺らぎ、視線は地面に向けられた。


「な、なんだ! 何があった!」


 視線が地面を見ている事に訳が分からないとサベラス、しかしすぐにゴーレムは倒れたと認識した。


「倒された!? あのゴーレムが!」


 魔王軍の最終兵器であり、劣等種に倒されるものではなかった。

 それが今、ゴーレムは大地に両手を付いている。

 劣等種如きに両手を付かされ、サベラスは一気に頭の血が上った。


「何をした劣等種ぅぅ!」


 それまで力のない虫を弄ぶようにゴーレムを操っていたサベラスだが。


「くたばれゴミどもがぁぁ!」


 もはやそれは蹂躙だった。

 ゴーレムの腕を振り回し、倒れた劣等種を踏みつぶし、柔らかな果実のように握りつぶした。本気で蹂躙しだしたサベラスが操るゴーレムを止めるのは不可能‥‥‥‥だった。


「ん! ん、何だ!」

 

 サベラスの視界が一瞬揺らぐ、いや一瞬ではなくそれは連続的に揺らいでいった。


「一体何が起きている!」


 サベラスは気づいてはいない、操るゴーレムは視界を共有できるが、感覚まで共有出来ない為、背中に核まで届く穴が空いたことを知らなかった。

 その穴を兵士や冒険者たちは集中的に狙っていたのだ。


「何をしたゴミども!」

 

 急所が露出した事を知らないままサベラスは暴れるが、その度に視界が揺らいでいった。

 そして‥‥プツリとゴーレムの視界が途切れた。


「‥‥ゴーレムの目が‥‥、まさか‥‥倒され‥‥たのか?」


 ゴーレムは本来なら劣等種如きに倒される存在ではなかった。だが今ゴーレムからの反応は全く無くなっていた。

 サベラスには何が起きているのか全く理解できていない、そんな事があるはずがないと‥‥。


 ゴーレムを倒されたのが信じられないサベラスは呆然とする。そして徐々に先人から受け継いだゴーレムを失ってしまった事に対し、額から汗がにじみ出してくる。


「嘘だ、そんなはずが‥‥ゴーレムが倒されるなんてことは━━」


 サベラス言葉を遮るように男の声が割って入ってくる。


「倒されたんじゃない?」


 のんきな声で、そんな事はどうでもいいという口調だった。

 

 ハッと我に返るサベラスはいつの間にか目の前にいる、『槍を担いだ男』に目を見張る。いつからそこに居たのか分からない、しかし奴はそこにいた‥‥サベラスの額に傷を負わせた男が。


「‥‥お前はあぁぁぁぁ!」


 呆けていたサベラスの顔が一気に怒りの表情に変わり、次の瞬間には槍の男に対し金属製の棍棒を叩きつけていた。

 サベラスが神から受け取ったギフトの一つ『棍術』は、棍棒系の武器の重さを感じなくなり使用技術が格段に上がるというギフトだった。

 自分の身長と同じくらいの大きさの棍棒を軽々と振り回す。


「お前に受けたこの傷! 今ここで何倍にもして返してやる!」


「いや要らんよ、俺は貸した物に利子とか付けないし、貸した物を返してとか言わない人間だからそのまま取っときな」


 槍の男はサベラスが振り回す棍棒を、少しだけの体の移動と槍の受け流しだけで軽々と躱していた。


「あ゛あああぁぁぁぁぁぁ!!!」


 それがサベラスの怒りに余計に油を注ぎ、更にサベラスの攻撃を激しくする。少しでも掠れば劣等種如き簡単に命を終わらせる事ができるが、攻撃は全く当たらなかった。

 それどころか━━


「よっ」という気の抜けた軽い掛け声と共にサベラスの体には痛みが走る。


 棍棒を振り回した後の右腕にに劣等種の男は槍を突きさしていた。しかも命を取らない完全に手を抜いているような浅い突きだった。

 以前サベラスに傷を負わせた時には、槍の男はもっと必死に戦っているように見えた。だが、今戦っている槍の男はその必死さが全く見えない。


「ぐあぁぁっ!」


 腕を突かれたサベラスは瞬時に五歩下がり、突かれた腕を抑える。


「また俺に傷を付けたな!」


 劣等種に2度も傷を負わせられ、怒りも最高に達する。

 そして傷を負わせた相手はというと、持っている槍をクルクルと回転させサベラスの出方を待つ。

 それがサベラスを更に逆上させた。


「こ‥‥こんな屈辱‥‥! おまえだけは肉片一片も残らないようにこの大地から消し去ってやる!」


 巨大な棍棒を劣等種目掛け縦に振るう、棍棒から繰り出される攻撃の音は空を切るような音ではなく、空を壊すような轟音だった。


「叩き殺して!」


 横に振るう。


「すり潰して!」


 振り上げる。


「引きちぎってやるぅぅ!」


 風圧でも殺せそうな勢いで棍棒を振るうが、槍の男には掠りもせず、反対に男の槍がサベラスの右腕を突く。


「ぎゃ!」


 サベラスは痛みで一歩後ろに下がるが、槍の男は手を止めなかった。

 無音で繰り出される槍の突きは腕、そして足、更に胴体へと無数の突きを放ってくる。

 その数、十を超え二十もの突きの傷をサベラスの体に植え付ける。


「ぐああああ!」


 たまらずサベラスは攻撃を避け、距離を取る為ため方へ飛んだ。


「う、うぁぁあ‥‥こ、こんなにも俺の体に傷を付けやがってぇ‥‥」


 体からは無数の出血のがあり、そこから絶え間なく血が流れ出ていた。体の痛みに耐えながらも槍の男を睨みつける。

 槍の男は槍に付着したサベラスの血を飛ばすためなのか、また槍をクルクルと回してからまた構えた。


 それまでサベラスは劣等種など興味も無く、ましてやその顔などまともに見た事は無かったが、初めて劣等種の顔を見る事になる。

 それは‥‥劣等種ではなく、サベラスは一人の戦士として槍の男を認めたと同じことだった。

 そして語り掛ける。


「俺をここまで手こずらせるとは、お前名前は何という?」


 槍をサベラスに向けていた男だが、対話をしようとするサベラスに応えたのか、構えを解き槍の石突をトンと地面に立てた。


「‥‥フェルド」


「そうかフェルドという名前なのか、俺は魔王軍四天王が1人不死のサベラス。お前のその槍捌き誠に見事なり、それほどの腕の者は劣等種はおろか魔族でも珍しいだろう」


 ここでいったん言葉を切りフェルドという男の反応を見るが、フェルドに反応が無い為そのまま話を続ける。


「どうだろう? それほどの腕ならば魔族軍でも活躍が出来ると思うし、それなりの地位も手に入れる事が出来る、もしかしたら四天王になれる可能性も大いにあるが、どうだろうか? 我々と共に来ないか?」


 ダメもとで誘ってみるが、当然ながら━━「それは無いな」と一蹴される。


「そうかそれは残念だ、それはそれとしてお前の槍捌き見事な物だ。さぞかし名のある師に教えを請うたのだろう?」


「‥‥ああ、宇宙一の槍の使い手にな」


「ほぉ‥‥宇宙とは大きく出たな」


 宇宙という概念はサベラス含む魔族や劣等種にもある。だが宇宙というのは揶揄だろうか、世界一という比喩だとは思うが。


「大きくも何も事実だけど? だから俺は強い、それに比べて‥‥四天王のサベラス。お前は‥‥弱いな」


 フェルドの槍使いは認めたが、劣等種にそうハッキリと言われ一瞬で頭に血が上る、だが歯を食いしばる事でそれを抑えた。

 そしてフェルドは話を続ける。


「ああ、弱いと言うのはちょっと違うか、強いよお前。人と比べたら比較にならないほど強い、でも対人をした経験がないだろ?」


「!?」

 ハッとするサベラス、実際対人の経験はあるにはあるが、実際は少ない。


「いやそれはちょっと違うか? 人よりも身体能力があり過ぎて対人にならなかったという所かな? 相手よりも早く、相手よりも頑丈で力があるとなれば、その棍棒を振り回すだけで方が付くからまともに戦った事が無いんだろうな、痛みにも耐性が無いようだし‥‥。

 お前と少し武器を交わした事で何となくそう感じたけど‥‥どうかな?」


 フェルドが言っている事は正しかった。

 対人の経験はある、劣等種と戦った場合、片手でも十分に倒せるほどサベラスは強かった。だがそれは対人というよりは蹂躙に近い。

 サベラスが答えられないでいると。


「お前の攻撃は直線的で癖もあるし予備動作が大きい、だから攻撃が読みやすい。サベラス‥‥お前に俺は倒せないだろう、それに今の攻撃だって手を抜いているから、それくらいは分かってるだろ? 傷も塞がったみたいだし今日は帰ったらどうだ?」


 サベラスに付けられた傷はフェルドが言うように完全に塞がっていた。

 『不死のサベラス』その二つ名の所以の一つがその異常な回復力にあった。

 傷の回復の為にサベラスはフェルドに会話を求めたのだった。


 完全にあしらわれ、まるで相手にされていないかの対応に━━


「ダレガ帰れだと!?」


 サベラスの怒りが頂点に達する。


「後悔するなよ? ここまで俺を怒らせたのはお前が初めてだ誇るがいい」


 サベラスは身に着けていた腕の防具の留め金を外し地面に捨てると、その防具はズン‥‥と音を立て地面に沈んだ。しかも一つだけではない肩や足、胸当てなども地面に捨てられた際、重い音をたてる。

 サベラスの防具は全てかなりの重量を持つ特注品だった。

 全ての防具を外した後、首の後ろに手をやり骨を鳴らし、その場で高くジャンプをすると、その高さは10mを軽く超えた。

 そしてズシンと音を立てて着地したサベラスは━━


「さあ、やろうか?」

 薄ら笑いを浮かべた。


 それに対し軽く呆れたようなため息をついたフェルドは無言で槍を構える。

 

 最初に動いたのはサベラスの方だった。

 その鍛えぬかれた両足で地面を蹴ったサベラスは一瞬で間を詰める。その動きは先程までとは違いまるで閃光だった。


(一撃で決める!!!)


 同時に繰り出された棍棒の一撃でフェルドの体は間違いなく木っ端みじんになるだろう━━なるはずだった。


「フウジンランブ」


 採石場の戦いでサベラスに傷を付けた技を発動させるフェルドは、槍を中心に螺旋状に回転する風を纏わせ、サベラスの振るう棍棒に合わせると、棍棒はその軌道を反らされ、それだけではなくサベラスの体のバランスさえ狂わせた。

 完全に空振りされた棍棒を持つ手に激しい痛みを受ける。


「ああああああああ!」


 生涯で受けた事が無い大きな痛みが左手首に感じ、本人が出した事の無い本気の叫び声をあげてしまう。

 左手は動かなくなっており、手首には骨まで届く深い傷がぱっくりと空いていた。その事実を確認しただけで気が狂いそうになりそうだった。


「それくらいで情けない声を出すな」


 フェルドの攻撃は止まらない、スキルが発動され風を伴った槍の一撃が今度は左の肘に直撃すると、まともに受けた肘の肉片が飛び散る。

 ただそれで終わらない、一度だけではなく二度三度と連続で肘に集中攻撃されたサベラスの左手は、四度目の攻撃で体から分離され、宙を舞った。


 その日サベラスは生涯で初めての痛みと、体の一部を失うという光景を見てしまった。

 

 

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