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プロローグ

 全く何もない空間で、二つの人の形をしたものが立っている。

 二人を囲む色彩は、黒なのか白なのかはたまた何の色なのか? それすらも認識できない。

 『人』では作る事すら出来ない空間、生涯かけても到達することの出来ない場所で、一人の男と、人という存在から逸脱した存在が対面していた。

 その存在は女性の姿をしており、その表情や話し方、そして声から全てが優しさに溢れている。その存在を何かに当てはめるとしたら━━

 『女神』だろう‥‥


「私はここを管理する女神、セルヴァチアと申します」


 自分の名をセルヴァチア、そして女神を名乗る女性が目の前にいる一人の男性にそう告げる。


「赤塩 祐司さん‥‥残念ながらあなたは、雷に打たれ命を落としてしまいました‥‥」


 女神セルヴァチアはその目を伏せ、男を憐れむような悲しそうな顔をした


「もっとやりたいこともあったでしょう‥‥、もっと長く生きて見たかったでしょう‥‥。

 たった18年という人生しか生きられなかった悠人さんに、私は心を痛めております。それで‥‥もし正さんが自身の人生に後悔しているのであれば、別の星にて第二の人生を歩まれませんか?」



「あなたの記憶はそのままで、新しい母親から生まれた瞬間からの第二の人生です。ただし記憶が蘇るのは5歳になってから」



「はい、ええ、そうです。それと言葉の心配はありません、あなたと同じ境遇の方が沢山おられます、その結果、公用語はあなたのいた国と同じ言葉を話します、文字もそうです。なので心配ありません」



「それと赤塩さんが行こうとしてる世界では、赤塩さんがいた星の中世あたりの文明であり、まだ未発達な箇所も多々あります。

 それと、15歳と20歳になった時、私からの贈り物が届くと思います。

 『神のギフト』と呼ばれている力を授かる事が出来るでしょう、それは道具であったり、能力であったりしますが、生活において大変役に立つと思います」



「はい、その通りです。その中で祐司さん‥‥あなたの力を貸して下さい。その星では多くの人達があなたの力を必要としています‥‥。

 正さん‥‥第2の人生をその星で歩まれませんか?」



「‥‥そうですか! ありがとうございます! でしたらさっそくその星に貴方の魂を送り込みましょう。他に質問はありますか? ━━そうですか、では赤塩 祐司さんに第二の人生を!」


 女神を名乗るセルヴァチアが両手を広げると、その男の体は光り輝き消滅した‥‥


「ふぅ‥‥」


 一人になったセルヴァチアは軽く息をつく


「それにしても今の方は魂の形がしっかりとしていました‥‥」


 本来なら、人が死にこの場に来る時、その形は球体の形をしてやってくる。だが今の赤塩 正は完全な人の形をしてやってきた


「形を保ったままここに来るとは‥‥、よほど意思の強い方だったのでしょう、そんな方ならあの星にとって重要な存在になるやもしれません」



 セルヴァチアが管理する星は、元々の創造主である存在から託されたものだった。

 その星‥‥名をエンダルテンという生命が宿る星は、元々生物が住むには困難な環境だった。そこで創造主は人よりも環境適正があり、個体の能力が強い『魔族』という存在を作り出した。

 魔族はその体に有害なものを取り込み己の力にする性質があり、その環境を徐々に人が住めるように変えていった。


 寿命が異常に長いが、繁殖力が低い魔族は早々数は増えなかった魔族だが、彼らは力を持つ物が全てを奪うという凶暴な性格をしており、尚且つ、文明とは程遠い生活をしていたため、創造主は文明の高い星から魂を送り込み改善しようと試みる。

 そしてそれに最も適した星が地球であり、最も魂を送り出しやすかったのが、日本という国であった。

 年齢を重ねた魂だと、余計な固定観念などがあるためか、文明の発展に貢献しなかった為、年齢は20歳以下のまだ未熟ともいえる魂を送り込むことにした


 日本から魂を送り込み続けた結果、魔族にも文明が芽生え、文化も定着していった。その結果、言葉や文字が日本由来であり、文化も日本的になっていく‥‥。


 だが、創造主が望んだのは『魔族』ではなく『人』である。

 創造主は魔族によって人が住めるようになると、魔族の中でも、もっとも温厚な種族の能力を徐々に低下させていった。

 そして魔族には魂を送り込むのを止め、人に近しい存在となった者達に、今度は日本から若くして死んだ魂を送り込み続ける。

 そうする事で人に近しい者達の文明力は格段に上がっていった。


 遠い未来には、星の有害物質を必要とし、それが無ければ生きられない魔族は滅び、人がこの星の大地を制圧するだろう‥‥。

 一定の成果が出た所で創造主は、この星の管理を任せる為に女神セルヴァチアを創造し、管理を任せた。

 そして、そのセルヴァチアは次に来るであろう魂を待つ。

 この場所に来る魂は、エンダルテンにおいて必要な知識を持つ魂を厳選して送り込んでいる。

 今回送り込んだ魂も星にとって必要な魂であった‥‥。


 魂を待つセルヴァチアがふと‥‥目の前にある球体に気付く


「あれ?」


 その球体は魂であり、その場所にあった


「?」


 状況が読めていないセルヴァチアに対し、魂は『自分はどうすればいいのか?』と伝えて来る。

 

「あなたは‥‥!!━━」


 ここで何かに気付いたセルヴァチア、恐る恐る‥‥


「もしかして赤塩 祐司さん‥‥ですか? ですよね?」


 『そうです』と魂は告げる、続けて『自分もエンダルテンに行くんですね?』と聞いて来た


「な、なるほど‥‥」


 セルヴァチアの手が震える、ではたった今送り出したのは一体何者だったのだろう? 

 今回ここに来るのは雷に打たれ、命を落とした者だったはず‥‥。


 でも‥‥、もし‥‥、たまたまではあるが、不幸にもその場にいて巻き込まれたとしたら‥‥。そして今送り込んだ者の後ろに、この本来送るはずだった魂が隠れて見えなかったとしたら‥‥。


 送り込む魂は創造主が星に必要な魂を、厳選してここに来るようにしている。そして魂を送り込む場所、時間も創造主が決めている。

 セルヴァチアが魂を送り込むための力も、創造主から一回分ずつ渡されている。

 つまり、次の魂がココに来るまで星に送り込むことが出来ず、この魂はそれまで宙ぶらりんになる。もし次で送り込んだとしても、今度はその時に来た魂が送り込むことが出来なくなってしまう。

 

 つまりセルヴァチアは大きなやらかしをしてしまった。もしこれが‥‥創造主にバレてしまったら‥‥。

 本来汗などかかない存在であるはずのセルヴァチアだが、全身に不快と思えるほどの汗が吹き出して来た。

 今目の前にある魂は、必ずその時間帯に送り込まなければならないはずであった。そうしないと創造主の計画が狂ってしまうからだ


「‥‥」


『‥‥』


 しばし双方無言だったが、セルヴァチアは不意にニコッとほほ笑む


「赤塩 祐司さん」


 セルヴァチアはその魂に触れると━━。




 ギュッ! と握りつぶした。



 握りつぶした魂は弾けるように潰れ、消える‥‥。

 セルヴァチアは握った手をゆっくりと広げ、暫くその手のひらを見ていた。


 セルヴァチアは‥‥創造主にバレるのを恐れるがあまり、一つの魂を消滅させてしまった。無かった事にしてしまった。


「‥‥んーさて、今回の魂は送り込みました。次の来るであろう魂に━━」」


 そう言いかけた時。


「あ~あ見ちゃった! 見ちゃったよ!」


「ヒウッ!!━━」

 突然背後から声がかかり、無いはずの心臓が飛び上がる。この場に来ることが出来るのは創造主だけ、つまりセルヴァチアの背後には‥‥


「いや、見ちゃったよ。今魂を潰したよね?」


 ゆっくりと振り返るとそこには創造主━━ではなく、まったく知らない存在が立っていた。その存在はニヤニヤしながらセルヴァチアを見ている。

 『誰?』と思うが、この場所に来れるのは創造主のみ、だが目の前にいる存在は確かにこの場所に居る。

 ならばこの目の前の存在は創造主と同等の力を内包する者‥‥確かに目の前の存在からは創造主と同じ、計り知れない力を感じる。

 その存在はセルヴァチアに向け手を伸ばして来た。


 消される!


 そう一瞬思ったが、その手はセルヴァチアの肩にポンと乗せる。


「ねえ? 君さあ、魂を握りつぶしたよね? いたいけな20歳を過ぎていない、可能性を秘めた若き優秀な魂を潰したよね? ね?」


 自分がいました事を創造主と同じ力を持つ者に問い詰められる。


「そ、それは‥‥」


 セルヴァチアはそう口にするのが精一杯だった。


「送り出す魂は決められているはずだよね? それを君は一個無駄にした訳だ。それって‥‥‥‥。


 




創造主の意思に(・・・・・・・) 反する行為だよね(・・・・・・・・)?」


 その存在は体が冷えるほどの低い声でそう言った。セルヴァチアの思考が一瞬止まりかかる。


「これってさあ‥‥君の創造主にバレたらどうなるんだろうね?」


 が、創造主という言葉にセルヴァチアはハッと正気に戻った。


「そ、それだけは!」


 自らの創造主に伝えられると思ったセルヴァチアは、取り乱しその存在に懇願した。


「いや、別にさチクろうとか思って無いんだけどね━━」


 その言葉に一瞬ホッとするが‥‥。


「代わり‥‥と言っては何だけど‥‥。お願いがあってね? 俺を君の管理するエンダルテンに招待してよ、人として」


「えっ?」


「つまりさ、人として過ごしてみたいんだよね。あっ大丈夫大丈夫、送り込む力とか自分で何とかするからさ、それに人として生きてみたいだけで、この星に変な影響とか与えないからさ」


 目の前の存在はエンダルテンに、人として入りたいといっている。


「それは、一体‥‥」


「要はさ、『遊びに来た』ってこと」


 再びセルヴァチアの思考が止まりかける。目の前の存在はエンダルテンに『遊び』に行きたいと言っている。

 なぜそう考えるのか理解できない、あからさまに怪しかった。


「もし良いって事になったら、魂の事は内緒にしてあげるから」


 内緒にしてあげるという言葉に、怪しさもあったがセルヴァチアは飛びついてしまった。


「ほ、本当ですか!?」


「ああ! 本当本当、嘘はつかないよ。星のルールにのっとって動くし、変な影響とか与えないからさ。ただ、ちょっとだけサービスしてよ」


「さ、サービス?」


「そうそう、エンダルテンてギフトが2つ貰えるんでしょ? その他にさ、もう一つ付けて欲しいんだよねぇ~」


「もう一つ‥‥?」


「そう、もう一つ、この‥‥なんて言えばいいかな?‥‥マジックボックスとか言った方が伝わるかな? 要は物をいっぱい持てる魔法なんだけど、その魔法と、その中にある道具やら一式を持ち込みOKにして欲しいんだけど?」


 内緒にしてあげるという言葉に一瞬揺らいだが、更にもう一つギフトを付けてくれというのと、その中身を一式持ち込むという事に、セルヴァチアは我に返る。


「そ、それは駄目です! この星には規則があり、私はその規則に━━」


「規則? 破った本人がそれを言うのかい?」


 それまでヘラヘラとしていた存在が一変、低い声で恐ろしい雰囲気を漂わせる。


「ヒッ!」


 その突然の豹変にセルヴァチアは悲鳴のような声が出てしまう


「言っとくけど、お願いの部分じゃなくて脅迫だから。人の子を見守る立場の存在が、自らのミスを隠す為に魂自体を消滅させるというのは‥‥許されない事なんだぞ? それを創造主から創造されただけの分際の者が?」


 あまりにもの剣幕にセルヴァチアはその場にへたり込んでしまう。この存在には逆らってはいけないとセルヴァチアの魂がそう告げる。

 へたり込んでしまったセルヴァチアに対し、目線を合わせるようにその存在もしゃがみ込み。


「な? お願い(・・・)だよ」


 その存在は笑顔でそう言った。


 そうなってしまうとセルヴァチアには。


「分かりました‥‥」


 そう答えるしかなかった。


 


 ・・・・・・


 ・・・・



「では、ギフトとして持って行かれるのは、サービスとしてマジックバックの魔法と、後はどれにされるのでしょうか?」


「んーそうね」


 その存在は暫く「アレかな?」「それともコレかな?」と悩み、出した結論が━━。


「よし! この槍にしようかな?」


 どこからともなく一本の槍を取り出した。それは真っすぐで細い槍であった。


「もう一つのギフトはどうしましょうか?」


「そうね、もう一つは君が決めてよ」


「わ、私がですか?」


「そうそう」


「私が決めてもよろしいのですか?」


「頼むよ、そっちの方がランダム性があって楽しそうだし」


「ではもう一つのギフトは私が決めさせて頂きます。それと‥‥その槍の名は何というのでしょうか?」


「名前? ‥‥特に名前とか無かったな、そんな中二病っぽい事しなかったし。名前も勝手に決めてよ」


「分かりました‥‥それと、生まれる環境はどうされますか? お望みなら裕福な家庭に送りますが?」


「いや、子供からやり直すのはしんどいのは分かってるからさ、さっき送り込まれた男のようにこのままで行く」


「‥‥このままとは?」


「さっきの男は魂の状態じゃなかったから、赤ん坊として生まれるんじゃなくて、成人した人間として降り立つはずだからさ、それと一緒でいいよ。俺が下りる場所も適当でいいからさ」


 目の前の存在は魂の事も熟知していたようで、先程間違って送ってしまった男性も赤ん坊ではなく、成人男性として降り立つと言った。

 セルヴァチアも初めての事だったので、その事実は知らなかった。


「ではこのまま送り出してもよろしいでしょうか?」


「問題ない」


「ですが‥‥その姿ですが、エンダルテンに住む者とは違いますゆえ‥‥目につくと思いますが」


「そうだねじゃあ今変えてくよ」


 そう言うとその存在は一瞬でその姿を変え、エンダルテンによくいるような見た目になった。


「ではエンダルテンでのお名前はどうされますか?」


 現地の子供として生まれないのなら、名前が当然必要になる。その存在は暫く考えた末。


「じゃあ‥‥フェルドにしようか?」



主人公は最初に出て来た男性です

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