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[ŌPENT] 狛江市警察特殊捜査班  作者: ドロップのハッカ味は賛否両論&川崎メロン味&YAMIKAN
1/1

寒中鼠追い

LEやミリタリーが好きな方に読んでもらえると嬉しいです。文章は二人で書いているので、それぞれの違いを楽しんでいただければ。


人を救う事は善い行いだろうと思う、しかしそれが必ずしも成功するという保証もなく、失敗した場合は関わったものに責任が問われる場合がある。

だからこそ警官、消防士、軍人の様な存在は尊敬されるのだと、彼らは自ら責任を背負い戦うのだから当然だ。

時に責められ、罵倒され、屈辱を味わうこともあるだろうが、強く優しい心をもって職務を全うしている。

また、彼らも人間だろう、


                 





2050年1月13日 PM:09:42 雨 01℃

狛江市警察署刑事部ŌPENTのオフィス


狛江市警察特殊捜査班に所属する翔奈と夕の二人はオフィス脇のソファーで仮眠をとっている。

五時間の交代勤務で今は同じチームの九三七とリヴァが外回りに出ているので、そのうちに眠っておかなければ後が怖い、しかしそんなところにオフィスの扉を開き誰かが入ってきた、


「翔奈、夕起きろ、仕事だぞ」


この声は、


「んん~・・・あぁ、おじさ」


「お父さんな」

目崎翔大(mezaki shota)、掲示部殺人課の刑事である。


翔奈は眠そうなしぐさで目をこすりながら尋ねる。


「まだ休憩時間内のはずじゃん」


「悪いが今日は休みの奴が多くてな、音信不通の情報提供者に会ってきてくれ、詳細は翔奈の車に送ってあるからよろしくな」


「はぁ、了解」


翔奈がため息交じりに承諾すると、それを得た翔大はすぐに部屋を出て行った、


(夕を起こさなくちゃ、)

そう思いさっきまで一緒に寝ていたソファに目をやると、ちょうど目が覚めた夕がこちらをジッと見つめていた。


「なんだ、起きてたの」


「んn今起きたぁ、」


「仕事だってさ、音信不通な情報提供者の家に行って安否の確認」


「まじか、なんでこんな時間に…」


「詳細は私の車に送って有るってさ、なんか準備とかある?」


「ないな、銃と防弾衣がアタシの車にあるからそれだけ」


「了解、じゃぁ駐車場で」



狛江警察署地下駐車場 PM:09:58 


地下駐車場は異様な空気だ、それは駐車してある車両が原因であろう、

狛江市警察の車両は予算の都合上ほとんどが警官自らの私用車であり車種は多種多様な上、古い車が目立つ、それにパラボラアンテナや航空無線用のやたら長いアンテナ、発煙筒発射機etc、様々な装備が搭載してあるので初めて目にしたものはギャングかマフィアとでも思うのではないだろうか、そんな光景に年端も行かない少女が二人いるのだからさらに情景は悪化する。


「夕、この車左ハンドルだよ」


「アメ車は慣れねぇなぁ....」


翔奈の車両は「チャ〇ンジャー・RT」他の車両と同様に狛江市警察車両規定に基づいた改修を施されている。



「寒゛い゛ぃ、」


夕が助手席に座り唸るようにつぶやく、車内が寒いのはそうなのだが主に原因は革張りのシートであろう。翔奈が暖房をつけてこの問題はすぐに解決した。


「とりあえず車出すから住所と詳細見てくんない?」


「ん、住所が中和泉1-16-7だから出て右に行って松原の交差点を左だな、」


「建物の名前は?」


「三経ハイツB棟」


「詳細はどんな感じ?」


「桑原敦也年齢は23歳 独身 ロシア系マフィア「ロシュカリ」の書類管理係で、二年前から狛江市警察に市内の犯罪組織関連情報を提供していたが、一週間ほど前から2日おきの定期連絡が途絶えているので早急に安否の確認を求む、だってよ、これが写真な」


そう言うと夕はスタビライザーを曲げて翔奈に画面を見せる。


「年の割に老けすぎじゃない?」


写真の男は確かに二十代前半にしてはシワやシミが目立つ。


「下の方に注釈で書いてあるだろ、ヘロイン中毒者」


「なるほどね.....もうすぐ着くよ」


歩道の名残で段差がある狭い二車線道路の脇、むき出しの配管や不安定に備え付けられた室外機が目立ち、タイル貼りの玄関が切れかけの蛍光灯に照らされている五階建ての縦長なアパート、

市内ではよく見かけるありがちな外観だ。


「ぼろいがそれなりって感じだな」


「この辺にしたらましな方かもね、部屋の番号は?」


「203だよ、階段上って一番奥から一歩手前」


「了解、何かあっても嫌だし防弾衣は着てこ」


「だな、銃は・・・」


「規定通り通りで、協力者に会うときは」


「「拳銃と防弾衣」」


「そういうことだね、ほんとポンポン痛くなるよ、私に何かあったら署からがっぽり慰謝料いただくかな」


「アタシもその予定だよ、」



[A-47号車、降車する]


二人は階段を一階上り左手に伸びる短い通路を奥に歩く、外装が外装なら中も似たようなものだろうか、かなり汚れが目立つ、203号室は夕の言った通り最奥から一つ手前に位置しており塗装の剥がれた鉄製のドアが寒さに軋んでいた。


「ここだな」


「よし、ごめんくださーい警察の者でーす

.

.

.

.

.

優しい口調で声をかけるが反応は無い


「翔奈、お前はあの父親から何学んだんだよ、やり方ってのがあるだろ」


夕は拳で扉を強く叩き扉に怒鳴りつけ、


「開けろ!狛江市警だ!!」


中から荒い物音が聞こえ、続いてをガラガラというような音が聞こえた。


「これはあれだな」


「あぁ」


小早に階段を下り右左と見渡すと右手には小脇に何かを抱えた桑原が車に乗り込むのが見えた。

二人はすかさず車へ飛び乗りエンジンに火をともす、薄汚れた街中にV8の咆哮が響く。



「本部へ、こちら刑-47号車、[297]繰り返す[297]対象は松原通りを南に進んでいる」


夕が無線機で[被疑者、若しくは対象人物が逃走、追跡を始める]を意味する297を繰り返し、パレードの山車の様に派手なLEDの青赤色灯に灯が灯る、独特なサイレン音は狛江市警察の特徴でもあろう、数種類の喧ましい唸る様な音と連打される高音が混ざり合っている。


[本部了解、巡回中の刑-60を向かわせます]


「了解」


「刑-60って誰の車両だっけ?」


狛江市警察では他警察組織と同様に部隊別隊員別に呼称を分けている、オーペントの場合所属が刑事部であるので「刑」と「数字」で決められている、しかし「刑」の呼称を用いるのはオーペントのみであり、殺人課や麻薬課は刑事部であるものの呼称は「刑」と課の頭文字、と区別されている。


「リヴァでしょ、あのセリカ爆音だから数キロ先にいてもわかるよ........ほら聞こえてきた」


逃走車がさくら通りの交差点に差し掛かった頃、発砲音にも似た炸裂が連発して聞こえてきた、

同時にサイレンの音も聞こえる、音はどんどんと大きくなり数秒もしないうちに逃走車の真横に黒いサテンのセリカが滑り込んできた、A-60で間違えない。


[こちらA-60、追跡に加わります]


翔奈の車両に無線が入り、リヴァの声と助手席にいるであろう九三七の(ヴぇ)という唸り声が聞こえてきた。


[A-47了解、リヴァは猪駒通りと多摩川沿いの適当なT字路に先回り出来る?]


[逃走車がそこに行くとは限らないんじゃないの?]


[大丈夫、私たちのこと巻きたいなら狭くて速度の出せる道を選ぶはず、この辺でその条件に合うのは猪駒通りだけだから...多分]


[ちょっと本当に大丈夫なの?]


[そういえば家にループドが数カートンあった様な]


[A-60了解、世田谷通りで分かれる]


「(あぁそれでいいんだ......)[了解]」


予想は外れ、逃走車は世田谷通りを都心方面に曲がろうとする、しかし翔奈は車を寄せ逃走車を猪駒通りに誘導する、数個の曲がり角で同じようなことを繰り返すと想定の道へ入る。


「私もIQ上がったかな、こんなに予想通りだとぞっとしちゃう」


「さっき幅寄せで誘導してただろ」


「狡いところは父親譲りだから私は悪くないよ」


逃走車が駒井大通り付近に差し掛かったころ、前方の横道に薄っすらと車両の影が見えるのが分かった、

しかし、夜に馴染んだ黒いサテンの車体は月明かりで判別するにはあまりにも漆黒に近く、赤色灯を付けない限りはパトカーだと見分けるのは困難である、桑原がその存在に気がついた時には既に手遅れであり、乱発するLEDの発光が蒼白の顔を絢爛と映し出していた。



[A-47降車する]

[A-60降車する]


「桑原!手を頭の後ろに回してゆっくり出てこい!!」


夕がお決まりのセリフを叫び、四人は車の位置から拳銃を構えた、

すると桑原が言われた通りの姿勢でゆっくりと車を降りてくる、手にはファイルが握られている、重要なものであるのは間違えないようだ、


[車両が邪魔で被疑者が見えない、手を突かせるならボンネットにして]

リヴァ達から車が邪魔になっているようだ。

[了解]


「ボンネットの方に行って車に手をついて!」


桑原は指示通りに車の前方に行きボンネットに手をつく、

翔奈が銃を構えて近づく、


「そのまま動かないで!変な事考えないでよ!」


「大丈夫だよ!何にも考えてない!何にもだ!」


「いいから黙ってて!!」


警官が声を張り上げるのは決して興奮しているからではない、相手を威圧し、抵抗心を削ぎ、容易く拘束するためである、

しかしこの場の四人は二十歳にも満たない少女であり、銃を持っていようが幾ら怒鳴ろうが、それには変りないのだ、容姿というのは人の精神面に大きく干渉し、その行動を左右する、

桑原は隠し持っていた拳銃を撃ち乱しながら小さなアパートの中へと走り出した、

乱れた弾丸がアスファルトを跳ね、パトカーのフロントガラスに数本の穴をあける、ヒュンと掠める音が現場を象徴している。


「あぁクソ....私の車が.....」


「そういえば翔奈、前にオープンカーが欲しいって言ってたよな?」


「黙って、」


「もぉ二人とも後にしなさいよ、」


「そうですよ夕先輩も翔奈先輩も、桑原はあのアパートの中なんですからとっとと捕まえましょう」


「あぁ無線入れるから待ってくれ、[A-47号車、984、984、被疑者は駒井大通り付近のアパートへ侵入した為さらに追跡する、応援はいらない]行くか」


[本部了解]






四人はドア越しに中を確認しからリヴァ、夕、翔奈、九三七の並びでアパートに入る、


アパート内部の廊下はシンとしていた。


真っすぐ伸びていく廊下を壊れかけの電球が照らしている。


殿を歩く九三七は、廊下の突き当りにある階段から、等間隔で階段を駆け上がる音を聞いた。


自らの聴力で聞いたのではない。九三七の持つアビリティ「リップル」が桑原が階段を駆け上がる「足音」を九三七の耳に届けたのだ。


「リップル」で聞き分けた音は、ただ耳で聞くだけの音の情報の何倍も正確である。


今九三七には桑原が「何階に居て」「どれだけのスピードで動いていて」「息があがってるのかどうか」すら、まさに手に取るようにわかる。


九三七は桑原が階段を登るのをやめ、拳銃を頻りに動かし始めた音を聞き、こう考えた「まだ抵抗するつもりなんだ」と。


ここら一帯のアパートの階段は螺旋階段である。つまり上の階層にいる桑原の方が銃撃戦においては有利になり、下から登る四人達は撃たれやすくなり不利な状況ということになる。


九三七は前を歩く三人を一度止め、判断を仰いだ。


「リヴァ先輩、待ってください!今階段を登ると危険です!」


「え?」


「桑原はさっきから拳銃を下に向けなおす動作をしています。多分、階段を登って逃げるついでに私たちに攻撃するつもりかと…」


夕が舌打ちをしながら続ける


「…面倒だ…アイツ相手に傷作んのは癪だしよ、なによりまだ住人が残ってる。」


このアパートにはまだ住人が残っている。四人が傷を負ったら、誰が住人を護れるだろう。いくら人数が多いといえど、桑原も拳銃を持っている。


住人が怪我などしたら、警官の面目丸つぶれである。リヴァが翔奈の方に向き直り呟く


「翔奈、この状況じゃ住人の避難優先は無理そうじゃない?」


「…そんなことわかってるよ。とりあえず『速攻』で桑原を無力化する。」


夕は髪をかき上げて溜息をつくとタバコを口に咥えた。九三七が夕にライターを向ける。


煙を一度吸った夕は気だるげに翔奈に質問を投げかける。


「どうやって?」


翔奈は質問には答えず、目をつむって天を仰いだ。目を開けると壊れかけの電球が「カチカチ」と申し訳なさそうに点滅していた。


一つの考えが翔奈にあった。翔奈個人にとって、良い策だとは思えなかったが「選り好みしてる場合じゃないしなぁ…」と、ぼんやり思った。


「みんな聞いて、私に考えがある。」


翔奈の言葉を聞くと、夕はタバコを壁に投げつけるように捨てた。火は消えなかった。


リヴァは夕に「ちゃんと火を消せ」という視線を送ってから翔奈に顔を向ける


「勝算は?」


「やってみればわかるよ」


火は九三七が消した。


「じゃ、作戦スタートー!」


真顔のくせに妙にテンションが高い翔奈が作戦の号砲を告げる。


翔奈の前に立つリヴァは少し苦笑した。隊列はリヴァ、翔奈、夕、九三七の並びである。


『クリスタルスカイ』


リヴァがアビリティ「クリスタルスカイ」で二酸化炭素を結晶化させ、氷のような見た目の盾をリヴァ自身の前方に展開する。


四人は盾を持つリヴァの後ろに隠れながら螺旋階段を駆け上がり始めた。


「クソォa!来るんじゃねぇ!!」


突然駆け上がってきた四人に面食らった桑原は、焦り気味に拳銃を四人に向けて乱射した。


放たれた5発の弾丸のうち、2つは外れ手すりや階段に着弾、残りの3つは結晶の盾に弾かれた。


桑原は弾を交換するために一度銃を上げたが、その隙を四人は見逃さなかった。翔奈、夕、九三七が一斉

に射撃する。放った弾丸はいずれも命中しなかった、しかし桑原はすでに最上階にいるため逃げ場はない、


「一気に登るよ!」


リヴァが先導し、体制を崩さずに素早く最上階まで駆け登る。

途中で数発撃ち込まれたがどうやら弾が切れたようで銃を四人に向けて投げ捨て、最上階に着くころには壁にへばりつくようにして隠し持っていたであろうナイフをこちらへ向けていた。


「桑原!諦めなさい!もう逃げ場はないわ!」


「うるせぇ!!来るんじゃねぇ!」


リヴァが説得するが、桑原はどうも正気には見えず恐ろしい剣幕で叫び立てている、

すると桑原の隣の扉が開き、中から背の引く老人が出てきた。


「こんな時間に何事だ!」


「警察だ!危ないから部屋にもどれ!!」


夕が声を荒げ部屋入るよう促す。


「なんだ?お巡りさんかい、ご苦労様だね、それじゃぁ」


老人は状況を理解したようでそそくさと部屋の中へ戻ってゆこうとするが、


「ジジィ!ちょうどいいとこに出てきたなぁ!!」


桑原は部屋に戻ろうとする老人を引き寄せナイフを首に突き立てる。


「なんだ!私が何をしたっていうんだ!」


「ジジィは黙っとけ!おい!お巡りさんよぉ!それ以上近づいたらこのジジィの首かっ切っちまうぞ!」


「そのお爺さんを離しなさい!」


桑原はリヴァの言葉を軽く笑い飛ばすと部屋の中へと消え、後に鍵のかかる音が聞こえた。

部屋に逃げたからと言ってここは八階、逃げ場などないだろうが正常な判断が出来なくなっていることは明らかだ。


「うわ、みんな人質救出とか経験ある?」


「ないな」

「ないわ」

「ないですね」


「だよね」


かなりの犯罪率の高さを誇る狛江市ではあるが、人質事件の事例は過去に大きなものが一件のみで対処のノウハウは疎か、狛江市警察自体でもネゴシエーターの様な専門職はおらず、この場の四人も特殊部隊の隊員ではあるもののそのような訓練は一切受けていない、しかし手段は持ち合わせている。


「いつも通りでいきましょ」


「つまりここは夕の出番じゃん?」


「露骨にあたしに回すなよ....いいけどさぁ」


四人は扉の左右に分かれて突入に備え、夕がアビリティを放つ。


「よっと」


夕が軽く後ろ蹴りをすると、ヒンジもノブもドア自体も勢いよく吹き飛んだ。

『ヒートチャージ』

ヒートチャージは自らが意識した部位の筋肉を熱することで人体の限界を超えることができる。


同時にリヴァを先頭に四人は突入する、桑原は逃げ場がないことを理解したのか、老人の首元にナイフを突きつけた状態でこちらに向かって叫び散らす。


「クソがぁ!銃捨てやがれよぉ!!ジジィの首掻っ切っちまうぞぉ!!」


老人の首元には血がにじんでいるのが分かる、桑原は本気だ。


「わかったから落ち着きなよ、ほら皆弾抜いて手を上げてるでしょ、そのお爺さん放してあげなよ」


「その前に俺を外に出せ!」


可哀そうな男だ、逃げられるはずもないのに、


「翔奈、狙えるか」


夕が小声で尋ねる。


「任せて」


翔奈は小声で返す、リヴァと九三七もなにをしようか理解している。


「ほら、通りなよ」


桑原は拍子抜けした様だが、老人を抱えたままゆっくりと扉へ歩き出す、2歩目の終わりに翔奈が言った。


「お爺さん、下を見てみなよ」


年寄りは言われた通り下を見下げる、するとその瞬間翔奈の手元から黒い塊が勢いよく真っすぐと飛び出した。その塊は桑原の右側頭部に直撃しその場で倒れこんだ。老人は何が起きたのかわからない様子である。


「ど、どういうことだい?!、急に倒れたぞ!」


翔奈が保有するアビリティは[オブジェクト・アクセル]

このアビリティは触れた物体に推進力を与えることができ、その物体は障害物にぶつかるか若しくは使用者の意思以外によっては止まることはない。この場で翔奈が桑原に向けて飛ばしたのは銃弾の装填された拳銃の弾倉であり、これは数百グラム程度であるが、大型トラックの様な超重量物や数十回の連続使用などをした場合は、強い吐き気、短時間の発熱とそれに伴う体のだるさや関節痛、頭痛、激しい発汗、酸欠などの症状が現れる。


「上手くいったじゃない、お爺さん迷惑かけてごめんなさいね?この人は署でじっくりしごかせてもらいますね」


「あ、あぁ、助かったよ・・・よろしくな嬢ちゃんたち」




PM:11:04 雨 -3℃ 狛江市警察署・尋問室


気絶した桑原はリヴァの車両に載せられ、此処に運ばれた。


尋問室は取調室とは違い麻薬、殺人、侵略協力、強姦、その他重大犯罪を犯した者を取り扱う、小さな公園ほどの広さで一面コンクリートであり、犯人を尋問する隔離室とそれをガラスで隔てた視聴質に分かれている。

この場には桑原を捕えたリヴァ、翔奈、夕、九三七の四人と殺人課のジョン・デル・アミコとマーク・グリーン、麻薬課のヤコフ・シーシキンとカン・ドジュンが立ち会っている。

重犯罪人であっても普段はこれほどの大所帯で尋問室に詰めかけることは珍しいのだが、それには桑原が持っていたファイルが関係している、


「いつまで寝てんだ、」

ヤコフがバケツ一杯の液体を桑原の頭から被せると、桑原はハッと目を覚ます。


「な、此処はどこだ!」

理解力が乏しいのは薬の弊害だろうか、数秒も見渡せば大抵の人間はこの状況を理解できると思うのだが。


「此処は狛江市警察署の地下三階、東階段を下りて左手七番目の扉の中にある尋問室だよ、後ろのレディ四人組に見覚え有るだろ?」

ヤコフの低い威圧的な声に桑原は一瞬反発しようとしたが、目を合わせると怖気づきすっとおとなしく脱力する。


「おいジョン、君とヤコフは桑原の事しってるのかい」

グリーンが小声でデルアミコに尋ねる、それもデルアミコと警官になる前は桑原と同じロシアンマフィア、[ロシュカリ]の構成員であったからだ。


「あぁ、覚えてるよ、俺とヤコフが組織にいた頃は下っ端のクソガキでな、今はそれなりに偉くなったのか知らないが、あの重要なファイルの保管を任されるくらいにはなったみたいだな」


「なるほどね、しかも組織を裏切って僕たちに情報を流していたのに、ファイルの情報を渡すのはさすがに怖くなって逃げたと」


「そんなところだろうな」


二人の会話の間にもヤコフは水の入ったバケツに桑原の足を入れて上から鉄のふたをかぶせている。


「おい、俺たちを覚えてるか?敦也」


デルアミコはわざとらしく桑原を下の名前で呼ぶと、首元を力強く掴み顔を見合わせる。

桑原は同時に気付き驚き、シーシキンとデルアミコの顔を数度見返す。


「あ、ぁあ!シーシキンさんとデルアミコさんじゃないっすか!二人とも暫く見ないと思ったらこんなところで何やってるんですか!」

見ればわかるだろうに、シャツにネクタイに革靴にそれなりな外套、そして警察署という立地から考えればシーシキンとデルアミコはあからさまと言えるほど[刑事]といった見た目だ。


「見て分からないか?敦也、俺たちは正義の味方やってんだよ」

これから桑原が受ける[尋問]の事を考えればデルアミコの言う正義の味方とは強烈な皮肉であろう、しかし桑原はそんなことを知るわけもなく、二人が警官であるという事実だけは理解したようだ。


「もしかして警官になったんですか!道理でここ数年見かけないと思いましたよ、いやぁでもほんと良かったすよぉ、助けてくれるんですよね?」


「あ?んなわけねぇだろ」

デルアミコの辛辣な言葉は当たり前である。


「そ、そんな・・・」


「敦也、お前は自分の置かれてる立場が分かってないっみたいだから教えてやるよ...お前はほんの1時間の内に、警官への発砲、公共物の破壊、数十キロの速度超過と信号無視、民間人への暴行、違法薬物所持、と、7つの犯罪を冒してる、だがこれらの罪はお前がここにいる理由ではない、となるとだな、あのファイルだ、内容はロシュカリが行った過去5年間の他組織との取引の詳細、その中には対軍連盟の名前もあったんだが、これが問題でありお前がここにいる理由だ」


「俺はどうなるんですか!」


「....情報を寄こせ、それが嫌なら吐かせるための道具も時間も存分にある、楽しむことだな」

桑原は怯え切って言葉も出ない様子だ


「そういえば君たち四人はなんで此処に?」

唐突にグリーンが疑問を投げかける、確かに四人が此処にいる必要はないし連行した時の流れで行きついただけであった、しかし話からするには対軍連盟、即ち川崎関連事案であるのは間違えないであろうし、その捜査を行うのはオーペントである、尋問が終わるまでは署内に留まることになるだろう。


「流れですかね」

「流れっすね」

「流れです」

「流れですね」


「君らは仲いいね、まぁこの事案は確実にオーペントも関わるだろうし何か分かったら情報は紙にまとめて部署に送るからよろしくね」

「四人とも露骨に嫌そうな顔するね・・・」


当然であろうが、マフィア関連の事案は面倒ごとが多く好まれるものではない。

それでも特殊捜査班の任務に合致する以上は仕方がないことだ。


「まぁ了解しました、私達今日はオフィスにいると思うのでよろしくお願いします」


「あぁ、何かわかればすぐに伝えるよ」


「はい」


内容を伝えてくれると分かった以上は此処にいる意味も無い、それに刑事たちが行う[尋問]とやらは見ていて気分の良いものでもないのだ、後は体を労わるとしよう。


時間は空きますが話は続きます。コメントなど貰えると嬉しいです。

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