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42 ユニバスの決断

42 ユニバスの決断


 悪魔の巣窟にいるすべての者たちが、俺を見ていた。


 上にいるブレイバンとオンザビーチ、下にいるティフォンとイズミ、そしてポーキュパイン。

 国王をはじめとする、討伐隊のメンバーたち。


 それどころか、ここの主であるデストラまでもが、俺に注目している。

 まるで、アリの生態観察をする子供のように、嬉しそうに。


 王女と精霊姫たちを裏切って、勇者たちの冤罪を着て、人間社会で極悪人として裁かれるか。

 王女と精霊姫たちとここに残り、悪魔の囚われ身となって、永劫の苦しみを味わわされるか。


 みなはそれが、ことさら重大な決断だと思っているようだった。

 そしてオンザビーチは、もはや答えはわかりきっているようだった。


「さ、ユニバス、あがってきなよ。勇者パーティにいたときみたいに、あーしが可愛がってあげるからさ」


「い……行かない」


 するとオンザビーチは青天の霹靂に打たれたような表情になったが、すぐに取り繕うと、


「あっそう。ならここで死ねば? あーしはユニバスがどうなろうが知ったこっちゃないし」


「ぎゃはははは! バカなヤツだ! んじゃ、ここでサヨナラってことで!」


 岩戸を閉めようとするブレイバンを、オンザビーチは長い爪で遮った。


「ユニバスってば、意地張っちゃって。あーしにはぜんぶわかってるし。

 そんなブサイクな王女と精霊のことよりも、あーしのことが忘れられないんっしょ?

 言っとくけど、これが最後のチャンスだよぉ? これで断ったら、あんたは永遠に……」


「行かない」


 俺がキッパリそう言うと、オンザビーチは豹変した。


「チッ! ガキみてぇなこと言ってんじゃねぇよ!

 これはあーしの命令だってこと、わかってる!? あーしの命令を断ったら、どうなるか知ってるっしょ!?

 ほら、さっさとあがってこいよ、このバカユニバス!」


 いきりたつオンザビーチに、ブレイバンは気後れしていた。


「おいおい、お前が怒鳴るだなんて珍しいじゃねぇか」


 肩を抱こうとするブレイバンの腕を、オンザビーチは乱暴にはねのける。


「あーしに触んじゃねぇって、何度も言ってるだろ!」


「落ち着けって、お前には俺様がいるじゃねぇか。もうあんなゴミほっといて行くぞ!」


 オンザビーチはなおも暴れていたが、ブレイバンに力ずくで通路に引きずり込まれていた。

 ブレイバンはひょっこりと顔を出すと、「んじゃ、アバヨ」と告げ、隠し通路の扉を閉める。


 その隙間から漏れ聞こえてきたのは、オンザビーチの悲鳴だった。


「あんたなんかより、今のあーしに必要なのはユニバスなんだ!

 やめてっ、お願いだから閉めないで、ブレイバン! ユニバスを連れて帰らないと、あーしは……!

 やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」


 ……ガシャァァァァァァァァーーーーーーーーーーーーーンッ!!


 彼女の哀願は、扉が岩壁に戻る音で遮断された。

 追いかけるように、デストラの高笑いが響き渡る。


 人間たちの醜い姿を見られたのが、嬉しくてたまらない様子だった。

 そして我が下僕(しもべ)を世に送り出し、新たな不幸が量産されるのを想像しているかのようだった。


 俺はデストラに背を向け、国王のもとへ走った。

 秘密の通路が閉ざされた今、デストラは襲ってはこないだろうと思ったからだ。


 「ユニバスくん!」「ユニバス様!」と寄ってくる精霊姫たちをなだめながら、国王の容体を確認する。

 国王は肩から腰にかけての袈裟斬りで深い傷を負っており、意識はすでに朦朧としていた。。


 普通なら出血多量で死んでいるはずの重傷だが、傷は黒いオーラのようなものに覆われ、血が止まっている。

 これが勇者も言っていた『デストラの呪い』だ。


 このオーラがあるかぎり、国王は死ぬことはない。

 しかし治癒魔法なども効かないので、元気になることもない。


 現に、イズミが水の力で国王の傷を癒そうとしているが、まったく効いていなかった。


 この状態で逃げた場合、デストラから離れた時点でオーラが消え、国王は即死する。

 デストラを倒せば俺たちは生きてここから出られるかもしれないが、国王の死は免れない。


 国王を生かしておくためには、国王を見捨てて俺たちだけで逃げるしかない。

 しかしその決断をした時点で、デストラは襲いかかってくるだろう。


 なにをやっても『詰み』……!?


 ポーキュパインは国王にすがりつき、泣いていた。

 涙にくれた顔をあげると、俺に向かって悲痛な叫びをあげる。


「ゆ……ユニバス! あなたの力があれば、パパを助けられるんでしょ!?

 お願い、パパを助けて! ウチにできることがあれば、なんでもするからっ!」


 俺は、ある覚悟とともに、ゆっくりと頷き返した。


「よし。4人でまた、属性相生をやるぞ。国王を救うためには、それしか方法がない」


「わ……わかったわ!」「うん!」「かしこまりました!」


 ポーキュパイン、そしてティフォンとイズミは、地面に寝かせた国王を中心にして手を繋ぐ。

 前回は俺はティフォンとイズミを両隣において手を繋いでいたが、今回はポーキュパインを右に、イズミを左においた。


 俺は何度も唾を飲み込みながら、ポーキュパインに言う。


「こっ……国王を治したいという、強い思いが必要なんだ。だっ、だから、俺と……」


 ポーキュパインは「わかったわ!」と俺の手を力強く握ってくれた。


「もう、どんな感情が流れ込んできたってへっちゃらよ!

 パパを治すためなら、あなたの感情だって耐えてみせる! それに今のあなたになら、ウチの感情を見られたって平気!」


 そして俺たちは、二度目の属性相生に挑む。


 デストラはなんの手出しもしてこない。

 まるで、水たまりに落としたアリがもがいているのを見る、残酷な子供のような表情で静観している。


 俺のなかに流れ込んでくる彼女の感情は、純粋そのものだった。

 父を想い、この国を想い、民を想う……。


「俺の決断は、間違っちゃいなかったな……」


 そうつぶやいたあと、俺は閉じた瞼をカッと見開く。


「悪魔の裂傷よ! 汝、その身を離れ、我と同化せよっ!」


 次の瞬間、俺の全身は、まっぷたつに引き裂かれるような痛みに襲われた。


「ぐっ……! あっ……!」


 こらえるつもりが、たまらず膝をついてしまう。

 国王の身体からは傷が消え去り、かわりに俺の身体に深く深く刻まれていた。

新連載、開始いたしました!

このお話がお好きな方であれば楽しんでいただけると思いますので、ぜひ読んでみてください!

このあとがきの下に、お話へのリンクがあります!

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― 新着の感想 ―
[良い点] オンザビーチの哀願 ユニバスを恫喝脅迫しているようで実は追い詰められている描写が素晴らしい。 [一言] ユニバスが一時的にコミュ障から脱却しての明確な完全なる拒絶宣言。 ……終わったな…
[一言] オンザビーチはユニバスが有能だと知ってたのかな〜?
[一言] あれ、デストラさん。自分の趣味趣向のためとはいえ誰も殺してないしなんなら保護してるのでは……そもそも縄張りに侵入されたあげく正当防衛だし。
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