39 国王救出作戦
39 国王救出作戦
それから俺たちは、トランスの馬車で王都を出る。
ポーキュパインの案内で、デストラの洞窟があるという、『デストラ山』へと向かった。
そこにはてっきり、多くの兵士たちが待っているのかと思ったら……。
たどり着いたのは山の麓の森で、誰もいなかった。
「あの、ポーキュパイン様。もしかしてわたくしたちだけなのでしょうか?」
イズミがそう尋ねると、ポーキュパインは「当然でしょ」とにべもない。
「ウチはこっそり城を抜け出してきたんだ。
王女のウチがパパを助けるなんて言ったら、みんなに反対されちゃうからね。
それに人質を助けに行くのに、大勢でゾロゾロ行くバカがどこにいるの」
「す、すみません……」と恐縮するイズミ。
「洞窟の入口も今は封鎖されて、大勢の兵士たちが見張ってる。
だからウチはパパの部屋をあさって、この山についての手掛かりがないか調べてみたの。
そしたら金庫のなかに、正統なる王族だけに伝えられている、『秘密の入口』があるのがわかったんだ」
「なるほど!」とティフォン。
「今からそこに行こうっていうんだね! でも王様の部屋にある金庫を開けちゃうだなんて、ポーキュパインちゃんはすごいよ! 伝説の大泥棒かなにか!?」
ポーキュパインは満更でもなさそうに笑み、被っていたローブを脱ぎ捨てる
すると、若き魔導女特有の、白いボンテージ姿が現われた。
彼女は艶のある黒髪のロングヘアで、顔立ちはクールビューティ。
いわゆるギャルの仲間なのだが、派手なメイクのオンザビーチと違ってナチュラルメイクのようだ。
そういえば、オンザビーチと彼女は魔導女学院の同級生で、ライバル同士だったらしい。
「うわぁーっ! パインちゃんってば美人さん!」
「お肌も御髪もとってもお美しいです!」
精霊姫コンビはさっそくポーキュパインと絡んでいた。
「ふふん、そうでしょ? 髪なんて毎日2時間もかけて手入れしてるんだから。ティフォンとイズミの髪もとっても綺麗ね」
ポーキュパインは気難しいところがあるので心配していたが、精霊姫たちとは同じお姫様という立場もあるのか、あっという間に仲良くなっていた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
それから俺たちは、山の麓の樹海へと分け入る。
ポーキュパインが城から持ち出した地図のようなものを片手に先導していたのだが……。
「あれ? こっちでいいんだっけ? なんか、わかんなくなっちゃった」
「もー、しっかりしてよ、パインちゃん!」
「しょーがないでしょ、地図なんて見るの初めてなんだから!」
「俺が行くよ」
俺は独り言のように行って、彼女たちの前を歩いていく。
すると、冷たい声が追いかけてきた。
「ちょっと待って、ユニバス。あてずっぽうで樹海を歩くのは危険なのくらい、常識でしょ。
あんた、そんなのでよく勇者パーティにいられたよね。
勇者様が無能だって言ってたのが、今ならわかる気がするわ」
「まあまあパインちゃん、ユニバスくんに任せておけば大丈夫だって」
「いや、無能になんか任せられるわけないでしょ」
「でもポーキュパイン様は、ユニバス様を頼られたのですよね? でしたら信じてさしあげても……」
「いや、それとこれとは話が……」
背後でそんなやりとりをしている間に、俺は崖崩れのような跡を見つける。
「ここか」と積み上がっている岩を、いくつかどけてみると、吹き出す風を感じた。
「あった、どうやらここが『秘密の入口』のようだ」
かがんでやっと通れそうな風穴を示すと、ポーキュパインは呆気に取られていた。
「えっ……? たしかに地図には、崖崩れに偽装してあるって書いてあるけど……なんでわかったの?」
「その、精……」
俺がそれだけ絞り出すと、ティフォンが翻訳してくれた。
「ユニバスくんは、地と木の精霊に聞いたんだって」
「精霊に? そんなわけはないでしょう。あなたたちみたいなちゃんとした精霊以外は、人間の目には見えないんだから」
俺はその言葉に引っかかってしまい、つい言い返してしまった。
「ちゃ、ちゃんとしてな……せっ、精霊なんて、いっ……いないから……」
「はぁ? 何を言ってるの?」
「まあまあ、とにかく先に進もうよ!」
精霊に取り持ってもらわないとコミュニケーションが取れないとは我ながら情けないが、ともかく俺たちは洞窟へと歩を進めた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
洞窟の中は入口と同様に狭く、人ひとりがやっと通れるくらいの広さだった。
そして一歩歩くごとに、マグマに近づいているような熱気を感じる。
「うう、暑ぅ……ビキニアーマー着てくればよかった……」
今回のクエストは急だったのあまり準備ができず、ティフォンとイズミは普段着だった。
イズミがあたりに打ち水をしてくれたおかげで、だいぶ涼しくなった。
しばらく進むと広い部屋に出る。
そこには、トコナッツ王家の紋章が刻まれた鉄製の扉が立ちはだかっていた。
俺たちは揃ってポーキュパインを見る。
彼女は「聞いてないよ」みたいな顔をしていた。
「え……うそ……。こんな扉があるだなんて、地図には書いてなかったのに……」
「でもパインちゃんは王様の部屋の金庫を開けたんでしょ? それだったら、このくらい楽勝でしょ!」
ティフォンが囃し立てると、ポーキュパインは気まずそうな顔をした。
「いや、パパの部屋の金庫は、暗証番号がウチの誕生日だったから……」
「えーっ、伝説の大泥棒じゃなかったの!? じゃあ、どうするの!?」
「どうするもなにも、引き返すしか……」
俺は扉に近づき、潮騒を聞くように耳を当てた。
背後から、苛立ったような声がする。
「ユニバス、なにやってんの。そんなことしたって開くわけないでしょ。
王家の封印なんだから、正統な手続き以外じゃ絶対に……」
……ゴゴゴゴゴゴゴゴ……!
次の瞬間、分厚い扉は重厚な音をたて、道をあけてくれた。
これにはずっとクールだったポーキュパインも絶叫する。
「えっ……えええええっ!? い、いま、なにをやったの!?」
「扉のなかにいる、金の精霊さんとお話したんだと思うよ」とティフォン。
「扉には金の精霊がいるのは知ってるけど、精霊の施錠って正規の方法じゃないと、絶対に開かないはずじゃ……!?」
「ユニバス様は、そのへんをぜんぶ超越した場所におられるのです」とイズミ。
精霊姫たちがまったく動じていなかったのだが、ポーキュパインの混乱にさらに拍車をかけたようだった。
「精霊を超越!? いや、そんなのありえないでしょ!? 神様じゃあるまいし!
あっ! さてはウチの部屋に呼ばしたときも、同じ手を使って開けたんだね!
ユニバス! あんたいったいどんな手品を使ったの! 白状して!」
ポーキュパインは俺の胸倉をガッと掴むと、ガクガクと揺さぶってくる。
精霊姫たちが止めてくれなければ、危うく俺はまたボコボコにされるところだった。
次回は掲載を1週お休みさせていただきます。
再開は 12月8日(水) の予定です。