09 ちっさい勇者、ついにキレる。しかし1時間後に謝罪会見(ざまぁ回)
伝映装置に映ったふたりのティフォン。
その真逆の表情に、集まった民衆たちは困惑しきりだった。
「見ろよ。王国の手配書の伝映には、ユニバスとかいう変態に無理やりさらわれたティフォン様が描かれてるけど……」
「こっちにある、新聞社の号外の伝映のティフォン様は、とても無理やりさらわれているようには見えねぇぞ……」
「いったい、どっちの言ってることが本当なんだ?」
「そりゃ、新聞社のほうに決まってるだろ! 号外のほうは似顔絵じゃなくて、ありのままの真写なんだぞ!」
真写というのは、静止画を記録することのできる魔導装置のことで、いわばカメラのことである。
裁判などにおける証拠能力としては、目撃証言よりも遥かに上とされているものであった。
ティフォンに逃げられたという事実は、いままでごく限られた一部の人間しか知らないことであった。
しかしこんな真写が出回ってしまった以上、もはや世界中の人々が知ることとなる。
しかも最悪なことに、すぐ隣に真逆の内容の似顔絵があったせいで、民衆はさらなる真実にたどり着いてしまう。
「なぁ、もしかして勇者ブレイバン様は、この真写に映ってるユニバスとかいう男に、ティフォン様を取られてしまったんじゃないのか……?」
「あっ、そうか! 勇者サマが姫を寝取られとあっちゃ赤っ恥だから、こんな似顔絵を作って、無理やりさらわれたってことにしようとしてるんだ!」
「なんだよそれ! ブレイバン様は偉大なる勇者様だと思ってたのに、あんがい器がちっさいんだなぁ!」
「もしかすると、アッチのほうがちっさかったのかもしれねぇぜ!」
どっと笑う民衆たち。
その場に居合わせていたブレイバンは、思わず叫んでいた。
「ぶ……無礼者ぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!
俺様は、ちっさくなどなぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーいっ!!」
◆ ◇ ◆ ◇ ◆
ブレイバンは民衆をなぎ倒すようにして馬車に乗り込むと、速攻で城へと戻る。
ヤブヘビのような作戦を提案したゴーツアンに痛い目を見せてやろうと意気込んでいたのだが……。
そこには、いまいちばん会いたくない者たちが待ち構えていた。
それは、精霊8ヶ国の大臣たち。
彼らは手に手に、例の手配書を持っていた。
「ブレイバン殿、これはどういうことなのですかっ!」
「やはりブレイバン殿は、ユニバスさんが生きていることを知っていたんですな!」
「しかもこの手配書には、『生死を問わず』と書かれている!
我ら精霊に内緒で、ユニバスさんを始末しようとしていたのでしょう!」
「あなたはやはり、どうしようもない最低最悪のウソつき勇者だ!
見て下さい、この号外に映っているティフォン様の笑顔を!」
「ユニバスさんが亡くなったと聞いてから、ティフォン様はずっと塞ぎ込んでおられました!
こんな笑顔を見せたのは本当に久しぶりです!
ああ、ユニバスさんと一緒にいられるのが本当に嬉しいのでしょう!」
「今回のことには、精霊王も大変お怒りになっておいでです!
ブレイバン殿が心を入れ替え、誠意ある対応をしてくださらなければ、同盟破棄も辞さぬとおっしゃっています!」
「さあっ、どうするのですか、ブレイバン殿っ!」
大勢の精霊大臣たちからまくしたてられ、ブレイバンは頭のキャパシティがオーバー。
後先考えずに喚き散らしていた。
「ぶっ……無礼ものぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーーーっ!!
貴様らは勇者である俺様の言うことよりも、そんなケツ拭く紙みてぇな新聞を信じるってのかっ!!
ユニバスは凶悪なド変態で、器がショットグラスみてぇにちっちぇんだぞっ!!
アッチに至っては、グラスがすっぽり被さるくらいなんだ!!
あーっはっはっはっはっはっはぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーっ!!
なにが同盟破棄だ! 精霊ごときが人間と同盟なんて思い上がってんじゃねぇぞっ!!
この俺様が本気を出せば、精霊の国なんて簡単に滅ぼせるんだ!!
わかったら、もう全員先に死んどけっ!
曜日ごとに分かれて、先に死んどけぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーっ!!」
精霊大臣たちを、口汚い罵りで追っ払ったブレイバン。
大声を出してスッキリしたのか「最初っからこうすりゃ良かったんじゃねぇか」と上機嫌。
しかしその数分後、フーリッシュ王国の国王に呼び出されてしまった。
「たったいま精霊の国々より、同盟破棄の伝書が届いた……。
ブレイバンよ、貴様、なにを考えておるっ……!?」
「そ……それは……! 精霊の大臣たちが、あまりにも生意気だったからです!
ヤツらは精霊のクセして……!」
「黙れっ! 魔王を退けたいま、人間の国々はすべて我がフーリッシュに従っておる!
あとは精霊の国々を従えることさえできれば、フーリッシュは世界を統べる帝国となれるのだぞ!
その絶好の機会をみすみすフイにするなど、このワシが許さん!
ワシの娘との婚約も、取り消しとするっ!」
「そ、そんな、父上! それだけはお許しください!」
「その呼び方も、今日かぎりで終わりだ!
それが嫌なら、いますぐ同盟だけでも回復せよ!
このワシの手を、これ以上煩わせるでないっ! この無能が!」
「こっ……この俺様が、無能っ……!?」
国王の執務室を追い出されたブレイバンは、かつてないほどに打ちひしがれていた。
生まれてこのかた一度たりとも、『無能』呼ばわりされたことなど無かったからだ。
しかもその原因は、彼がいままでさんざん『無能』呼ばわりしてきたユニバスにある。
本当はユニバスはなにもしていないのだが、ブレイバンは完全に逆恨みしていた。
しかし復讐に燃えるよりも先に、彼にはやらねばならぬことがある。
このままでは、本命である王女との結婚ができなくなってしまい、世界征服の野望が潰えてしまうからだ。
ブレイバンは1時間ほど前に追い払った精霊大臣たちを、すぐに呼び戻す。
そして彼らの前で、恥も外聞もかなぐり捨て、
「す……すまなかった………! このとおり謝るから、さっき言ったことは許してくださいっ……!」
なんと勇者、あれほどバカにしていた精霊たちに、最敬礼っ……!
舌の根も乾かぬうちに、謝罪会見開催っ……!
次回、勇者の謝罪会見! それがとんでもないことに……!?
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