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32 はじめての戦闘

32 はじめての戦闘


「はんっ! キミたちはペット失格だ! 追放を言い渡す前に、そっちのゴミ捨て場に行ってくれたから、手間が省けたよ!

 さぁて、お互いスッキリしたところで、先に進もうではないか!」


 対岸のドラハンは一方的に言い捨てて、通路の奥へと進んでいく。

 そのあとに、10名のギャルたちが続く。


 こっちも10名のギャルがいるので、総勢13人の大所帯となった。


「えへへ、だいぶ冒険者パーティらしくなったね! 嬉しいな、嬉しいな!」


「はい。賑やかで、とっても楽しいです」


 手をとりあって進むティフォンとイズミ。

 明るくて華やかな精霊姫コンビたちがいるおかげで、こちらの雰囲気は和気あいあいとしている。


 かたや、向こう岸は寒さと不安せいか、もう誰も口を開こうとはせず、誰もが無言で歩いていた。

 しかし俺たちの通路の先に現われたものを目にした途端、ドラハンは急に調子づく。


「どぉら、見たまえ! モンスターだ! しかも、なかなか手強いとされる『アイスオーク』ではないか!

 まぁ、僕にかかればイチコロだがね!」


 俺たちのいる通路の物陰から現われたのは、20匹ほどのアイスオーク。

 氷のような青白い毛並みを持つ、二足歩行のブタのようなモンスターだ。


 「ブヒーッ!」といななき、氷の槍を振り回している。

 ドラハンの言うとおり、油断ならない相手と言えるだろう。


 しかも彼らの背後からさらに現われたのは、最悪の相手だった。

 ドラハンは狂喜する。


「わははははははは! なんとあれは、『アイスウイッチ』ではないか!

 きっと、ツインデビルの邪悪なる瘴気が呼び出したのだろう!

 ああ、可哀想に! 彼らはここで氷漬けとなる運命のようだ!」


 『アイスウイッチ』。ツララのようなドレスを身にまとう魔女。

 悪しき心に染まった水の精霊たちがモンスター化したもので、その名の通り、強力な氷結魔法の使い手だ。


 俺は敵の戦力分析をしつつ、リュックを降ろして身軽になる。

 仲間たちはまだたじろいでいたので、彼らを正気に戻すべく叫んだ。


「ティフォン! アイスウイッチは俺が注意を引きつける!

 その間に、キミたちはアイスオークをやってくれ!

 地属性が弱点だから、魔法が使える者は『ロックシュート』の魔法を使うんだ!

 イズミはケガ人が出たら治癒を頼む!」


 「わかった!」と風に乗って特攻するティフォン。

 「かしこまりました!」と水芸のように両手から水を出すイズミ。


 ギャル魔導女たちのもそのあとに続く。

 俺は彼女たちの背中を見送りながら、人さし指を掲げる。


 コレをやるのもの久しぶりだな、なんて思いながら。


「俺といっしょに飛び回って遊びたい風の精霊たち! この指、とーまれっ!」


 次の瞬間、俺の身体は波にさらわれるように飛び上がっていた。

 その勢いは凄まじく、先行していた仲間たちを抜き去り、先陣をきって飛んでいたティフォンにあっさり追いついてしまう。


「ゆ、ユニバスくん、飛べたの!?」


「俺の力じゃない、風の精霊たちが力を貸してくれたんだ」


 俺の身体は、まるで羽毛布団の中で転げ回ったかのように、綿毛がびっしりとまとわりついていた。


 これこそが、『風の精霊』。

 ティフォンと同じ属性の精霊だが、ひとりひとりの力が弱いので、普通の人間では目視できない。


 彼らは大気中からどんどん集まってきていて、勇ましい顔で俺の身体を支えて飛んでくれている。


「風の精霊たちはかなりの力を俺に貸してくれている。

 どうやら、精霊たちはこの洞窟のモンスターたちに悩まされているらしいな」


 ティフォンは「そんな問題じゃない」と言いたげな顔をしていた。


「魔導装置も魔法もなしに空を飛べる人間だなんて、初めて見たよ……。

 ユニバスくんってば、もう精霊なんじゃ……」


 しかし話の途中で、ティフォンは敵のことを思い出したのか、腰に携えていたレイピアを引き抜く。


「お城で習った剣術が、ようやく役に立つ時が来たみたい! 見ててね、ユニバスくん!」


 「ああ」と俺が頷き返すと、彼女は百人の味方を得たような表情でさらに加速、敵陣に乗り込んでいった。


「そりゃぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」


 ティフォンはさすが風の精霊だけあって、疾風のような動きでアイスオークたちの周囲を飛び回る。

 そしてスキを見てはレイピアの一撃を叩き込む。


 俺は感心しつつ、アイスオークたちをかいくぐり、一気に本陣へと向かう。

 奥に控えていたアイスウイッチは魔法を詠唱し、援護射撃の準備をしていた。


 俺は洞窟の外で拾っておいた石ころを取りだし、アイスウイッチめがけて投げつける。

 こめかみに石を受けた氷の魔女は、恐ろしい形相で俺を睨み据えた。


 その怒りに任せるように杖を振りかざすと、鋭利なツララが放たれ、投げナイフのように飛んでくる。

 俺が身体を傾けると、支えてくれている風の精霊たちが急旋回してかわす。


 俺は体勢を立て直しながら、戦場を俯瞰する。


 ……アイスオークたちはおそらく、アイスウイッチの魔法で操られているのだろう。

 もしアイスウイッチを先に倒してしまったら、主を失ったアイスオークたちは凶暴化するかもしれない。


 そうなると、ティフォンたちが危ないだろう。

 それにアイスウイッチの気を俺が引いている間は、アイスオークたちを支配する魔力が弱まり、アイスオークたちは弱体化するはず。


「ならば、ティフォンたちがアイスオークが全滅させるまで、鬼ごっこだ……!」


 俺はアイスウイッチの周囲を、挑発的に飛び回った。

 アイスウイッチがアイスオークたちのほうに注意を向けようものなら、石を投げつけてさらに怒らせる。


 彼女のツララ攻撃は激しさをどんどん増していく。

 だが俺は、勇者パーティでオトリ役をやらされていて、こんなのとは比べものにならないほどの攻撃に、毎日のように晒されていたんだ。


 おかげで、避けるのだけはやたらとうまくなった。

 俺は紙一重の余裕をもってツララをかわしつつ、仲間たちの戦況を伺う。


 前衛のティフォンにアイスオークたちのターゲットが集中し、魔導女たちがロックシュートで援護するという、理想的な状況のようだ。

 しかし一瞬のスキを突いて、アイスオークがティフォンの背後に回り込んだ。


 不意討ちの一撃を浴びせようとしていたので、俺はすかざす手をかざして叫んだ。


「地の精霊よっ! 頼む!」


 すると、不意討ちをしようとしていたアイスオークの足元の地面が変形。

 人の手のような形になり、足首をガッと掴んでくれた。


「ブヒィーーーーッ!?」


 悲鳴とともにアイスオークは転倒、不意討ちは失敗に終わる。

 そうやって、俺は風の精霊の力でツララ攻撃から逃げ回り、地の精霊の力で仲間たちを援護した。


 アイスオークはタフなので長期戦になったが、1匹、また1匹と倒れていく。

 しかし10匹まで減らしたところで、ティフォンに疲れが見えはじめた。


 ハァ、ハァ、ハァ、と肩で息をするティフォンを、チャンスとばかりにアイスオークたちが取り囲む。

 ティフォンは後ろに下がろうとしていたが、背後は川べりで、足を踏み外しそうになっている。


 まるで敵の親玉のように、ドラハンが笑う。


「わははははははは! 善戦したようだが、そこまでのようだな!

 風の精霊といえど、そこまで疲れてしまっては飛ぶことすらできぬようだ!

 みんな、しっかり真写(しんしゃ)に収めるといい!

 精霊使いの僕に愛想を尽かされた精霊(モノ)が、どんな最後を迎えるのかを!

 さぁ、やれぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」


 その合図とともに、対岸のギャルたちは魔導装真写(しんしゃ)装置を構え、レンズをティフォンに向ける。

 アイスオークたちは槍を構え、ティフォンめがけて突っ込んでいった。


 俺は洞窟じゅうに響き渡るほどの大声で叫ぶ。


「頼むっ! 風の精霊たちよっ!」


 次の瞬間、ティフォンの周囲に無数の羽毛が出現し、ティフォンの身体を上空にさらっていく。

 間一髪、ティフォンは槍ぶすまから逃れた。


 しかし、これで終わりじゃない。


「もっと、俺に力を貸してくれ!」


 間髪いれず、アイスオークたちの背後に風の精霊たちが出現する。

 それはおびただしい数で、羽毛を通り越して雲のような規模だった。


 これならいける、と俺は確信する。


「もらったぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」


 俺の気合いに呼応するように、雲はアイスオークたちに体当たり。

 壁のような突風となって、10匹まとめて吹っ飛ばした。


「ブヒィィィィィィィーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!?」


 アイスオークたちは人間と同じで精霊が見えないのだろう、何が起こったのかわからない様子で、目を白黒させながら、次々と川に落下。

 そのまま激流に飲まれ、流されていった。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] ドラハンって正気なのか? ユニバスと精霊姫たちが死ねばユニバス側のギャルはどうなる? 彼女たちが攻撃魔法使って斃すか、先刻使った瞬間移動の魔法でドラハン側に戻らない限り死ぬだろ。 そう…
[一言] ドラハン側のギャルも当然痛い目に遭うんですよね? 苦戦してる人(精霊)を写真に撮るとか言われたとしても性格悪すぎる 次の回で何事もなくユニバス側に来て受け入れたら頭お花畑すぎる
[気になる点] >「どぉら、見たまえ! モンスターだ! しかも、なかなか手強いとされる『アイスオーク』ではないか! まぁ、僕にかかればイチコロだがね!」 >「わははははははは! なんとあれは、『アイス…
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