30 有能チームと無能チーム
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30 有能チームと無能チーム
俺と同じく引率者としてやってきたドラハン。
ヤツと再会した俺の思いは複雑だったが、よく考えたら悪いことばかりでもなかった。
なぜなら、ドラハンがこの場をすっかり仕切ってくれていたから。
何かにつけて、俺のことを槍玉に挙げて魔導女たちの笑いを誘っているが、俺はまったく気にならなかった。
そんな嘲りよりも何倍も酷い扱いを、俺は勇者パーティにいた頃に経験済みだ。
それに魔導女の卵たちと話さなくてよいのも、俺にとってはありがたかった。
彼女たちはすっかりドラハンの虜で、はべらされるのを自ら望むかのようにヤツのそばを離れようとしない。
ドラハンは「どうだ」と言わんばかりに得意気に鼻を鳴らした。
「洞窟内は2チームの魔導女に分かれて進まないといけない構造になっているんだ。
どうやら組み分けもすんでいるようだから、さっそく出発するとしよう。
呼び方は、『有能チーム』と『無能チーム』でかまわないね?」
ドラハンと20人のギャル魔導女、総勢21名が『有能チーム』。
俺とティフォンとイズミの3名が『無能チーム』ということになった。
洞窟には途中で鍵を開く仕掛があるので、ギャルのひとりが、学院から預かっているという鍵の片方を俺に預けてくる。
そのあとは、各人が装備の最終チェックをしてから出発。
俺はひとりで大きなリュックを背負っていたので、ドラハンやギャルたちからまた笑われた。
「あっはっはっはっ! ちょっと洞窟に入るだけなのにあんな大荷物だなんて、バカじゃね!?」
「はんっ、その通り、彼は無能なうえにオツムが足りないのだよ」
洞窟の入口にあった鉄格子を、ふたつの鍵を使って施錠を外し、洞窟内へと入る。
洞窟内は坑道のような一直線のトンネルとなっていて、真ん中には大きな川が走っていた。
川の両脇にはそれぞれ道があり、奥の暗闇に向かって伸びている。
左右どちらの壁にも魔導ランプが点々とあって通路を照らしてたので、リュックから明かりを出す必要はなさそうだった。
そしてどうやら、川を挟んだふたつの通路を進まなくてはならないようだ。
ドラハンがギャル魔導女たちを引きつれ、さっさと歩き出す。
ドラハンたちが右のルートを選択したので、僕たちは左のルートを進むことになった。
このように、ふた手に分かれて攻略しなくてはならない地下迷宮というのは珍しくない。
ほとんどの場合は完全に分断されてしまい、分かれたチームの様子はわからないのだが、川を挟んだ向こう岸にいるチームが常に目視できるのはありがたい。
向こう側のチームが戦闘になった場合、こっち側から遠隔攻撃で援護することもできるからな。
さっそく様子を伺ってみると、『有能チーム』の魔導女たちは全員、最新式の魔導真写装置を取りだしていた。
俺が過去にオンザビーチにあげた、動画も撮れるタイプのやつだ。
魔導女たちはお互いを撮りあい、装置の様子を確かめていた。
「これでクエストの様子を撮影して、学院に提出しなきゃダメなんだよね」
「そういうことなら、このドラハンの勇姿をたっぷりと撮るといい。
オンザビーチ様もきっとお喜びになるはずだ」
ティフォンは羨ましそうにしている。
「いいないいなー! ユニバスくんはああいうの持って……ってユニバスくん、なにしゃがみこんでるの?」
「いや、洞窟の地面ってのはデコボコしてるだろ?
モンスターの奇襲があるといけないから、少しでも歩きやすくしようと思って」
「えっ? 地面を歩きやすくするだなんて、そんなことができるのですか?」とイズミ。
俺は地面の凹凸に触れながら、ささやきかける。
「大地の精霊たち、すまないがちょっとの間だけ、整列してくれないか?
俺の大事な人たちを案内したいんだ」
すると、あたりに散らばっていた岩がせわしなく動き始める。
固い地面から剥がれた岩は元の位置にくっつき、天井から落ちてきた岩は邪魔にならないように隅っこの方によけてくれた。
ティフォンとイズミはギョッとしていたが、いつものことかと思い、すぐに気を取り直す。
俺に続いて歩き出し、感激の声を漏らしていた。
「うわぁーっ!? すっごく歩きやすーいっ! ありがとう、ユニバスくん!
「はい、まるで街のなかを歩いているみたいです! 流れる石でございます、ユニバス様!」
舗装された道のように、通路をスイスイと進む俺たち。
対岸ではさっそく、ギャル魔導女たちがバタバタとドミノ倒しになっていた。
「いってぇ!? なんだよこれっ!?」
「ブーツのカカトが挟まっちゃった! ああん、取れねーし!」
「マジ、さいってー! このブーツお気になのにーっ!」
ギャルたちは厚底ブーツを履いているせいで、地面の凹凸に靴底を取られ、一歩ごとにつんのめっている。
誰かひとりが倒れると、近くにいた魔導女につかまろうと、とっさに手を伸ばして巻き込んでいた。
おかげで彼女たちは数歩進むたびに髪を振り乱し、強風を受けた稲穂のように倒れていた。
さっさと先に進んでいたドラハンは、あきれ顔で振り返る。
「はんっ、ただ前を歩いているだけで、ペットたちを腰砕けにしてしまうだなんて……。
僕はどうやら、罪深いほどのカリスマを手に入れてしまったようだ」
ギャルたちは言い返したそうにしていたが、ぐっとこらえていた。
やがてひとりのギャルが、俺たちのほうを見て叫んだ。
「えっ!? なんでティフォンとイズミ、あんなにスイスイ歩いてんの?」
「地面がこっちに比べて、デコボコしてないからっしょ!」
「ちょっと待ってちょっと待って! あの無能のおにーさん、しゃがんでなんかやってるし!」
「えっ……えええっ!? なにアレ!? 地面が平らになってくんですけど!?」
「なんでなんで!? あんな魔法、見たことない!」
「たぶん、精霊だ! 大地の精霊に命令してるんだよ!」
「すっげー! あんなの初めて見た!」
「マジ!? アイツ、無能じゃなかったの!?」
ギャルたちは一斉にドラハンのほうに向き直ると、俺のほうを指さしながら懇願する。
「ドラハン様! あれを見てください! こっちも、あんな風にしましょうよ!」
「ドラハン様はギルドでも有名な『精霊使い』ですよね!?
大地の精霊に命令して、地面を平らにするくらい、カンタンですよね!?」
「当然でしょ!? 無能って言ってたヤツができるくらいだから、ドラハン様にかかればもっとすごいに決まってるっしょ!」
「お願いします、ドラハン様! このままじゃ私たち、封印に着くまでにアザだらけになっちゃいます!」
「どうかドラハン様のお力で、この道を歩きやすくしてくださいっ!」
ギャルたちにすがられ、ドラハンは肩をすくめる。
「はんっ、しょうがないなぁ。可愛いペットたちのためだ。
それにここいらで、僕の優秀さを見せておくのも悪くないだろうね」
「どぉら」とギャルたちに背を向け、床をコツコツと爪先で踏みならすドラハン。
「大地の精霊たちよ、聞いてのとおりだ。
お前たちは人間に踏みつけられるためにいるのだから、その人間を転ばせてどうする。
わかったらさっさと歩きやすくするんだ。
おっと、この僕を引き立たせるために、派手にやってくれよ」
すると、ドラハンの声に呼応するかのように、ヤツの真下の土が盛り上がる。
拳の形をなしたそれは、瞬きほどの間に突きあげてきて、
……ドムッ!
ドラハンの股間にめり込んでいた。
「ぐっ……! はっ……!」
男の弱点への、予想もしなかった不意討ち。
ドラハンは叫びをあげるどころか、息もできなくなった様子で膝を付き、地面にうずくまっていた。