29 ドラハンふたたび
『精霊たらし』書籍版第1巻が、いよいよ9月10日(金)に、マッグーガーデン・ノベルズ様より発売となります!
イラストレーターはあんべよしろう様です!
書籍版の書き下ろしとして、『ゴーツアン大臣の末路』を収録!
本気で精霊を怒らせてしまった、ゴーツアンの最期が明かされます!
ちょっと気の毒すぎたので、Web版ではお蔵入りにしてしまった衝撃的なお話を、ぜひご覧ください!
また書籍版ではさらに、書泉様・芳林堂書様店におきまして、購入特典としてSSペーパーが配布されます!
『ティフォンといちゃラブ 愛してるゲーム』です!
本編では見られない、いちゃいちゃするユニバスとティフォンをお楽しみください!
特典配布には開催期間、および配布数には限りがありますのでご了承ください。
なお、新型コロナウイルスの感染拡大を受け、営業状況や時間が変更になっている店舗様もございますので、ご確認のうえお求めください!
そして電子書籍のほうにはKindle版限定として、『ティフォンの宝物』を収録!
ユニバスとティフォンの初めての出会い、そしてユニバスがティフォンのハートを盗むにいたった、『とんでもないこと』がついに明らかになります!
Web版から加筆修正を施した、『精霊たらし』!
ユニバスの活躍、ティフォンのかわいさもさらにパワーアップしております!
9月10日(金)はぜひ、お手にとってみてください!
29 ドラハンふたたび
首輪騒動がようやく収まったので、俺たちはトランスの馬車でクエストへと出発した。
御者席で俺の両隣に座っているティフォンとイズミは、手鏡を持ったままニヤニヤしっぱなし。
自分の首に光るネックレスを、飽きもせずにずっと眺めている。
「あぁん、ユニバスくんにこんな素敵なネックレスを貰えるだなんて、夢みたい!」
「はい、左様でございます! わたくしの涙腺はもう、うれし涙専用になってしまったのでございます!」
そしてふたりは俺のほうを向いては、何度も何度もお礼を言った。
「ありがとう、ユニバスくん! これ、ずっと大切にするね!」
「ありがとうございます、ユニバス様! わたくしは幸せすぎて、バチが当たってしまいそうです!」
ティフォンもイズミもよっぽど嬉しかったらしい。
喜んでもらえたならなによりだが、いまは仕事に向かっているのだから、そろそろ気を引き締めてもらわないと。
「ふたりとも、もうすぐ目的地に着くぞ。そしたらそのネックレスのことは忘れて、クエストに集中してくれ」
「あ……そうだった」「あ……すっかり忘れておりました……」
「おいおい、しっかりしてくれよ。
俺は戦闘能力ゼロなんだから、いざとなったらキミたちが頼りなんだ」
ティフォンは「任せて!」ビキニアーマーの上から胸を叩いた。
「ところで、どこでなにをするんだっけ?」
目的地はツエリアの街からだいぶ離れた場所にある、シニストラ山。
シニストラ山の中腹にある洞窟には、この山の名前にもなったモンスター、『ツインデビル・シニストラ』が封印されている。
モンスターの封印というのは時間によって効果が薄れていくので、定期的に封印を確認する必要がある。
その確認の任務というのはあまり危険ではないので、冒険者の卵の仕事だったりする。
今回は、魔導女を育成する学校である『オンザビーチ魔導女学院』の魔導女たちが行なうことになったようだ。
俺たちに与えられたクエストは、魔導女の卵たちを引率し、封印を確認の後、無事に帰還させることだ。
ティフォンとイズミにクエストの内容を説明しているうちに、馬車はシニストラ山の麓にさしかかる。
悪魔が封印されているほどの山となると、舗装がしっかりとしているので、馬車のまま山に入ることができた。
山の中腹まで一気に上がると、整地された広場に出る。
広場の奥のほうに、鉄格子のおりた洞窟が見えた。
洞窟の前にある立て札には、『ツインデビル・シニストラ封印中 関係者以外立入禁止』とある。
なるほど、鉄格子は鎖でグルグル巻きにされていて、大きな錠前がふたつかかっていた。
「ねえねえユニバスくん、鍵が掛かって入れないみたいだよ。しかも、2個いるみたい」
「ああ、鍵は『オンザビーチ魔導女学院』の子たちが持ってるはずなんだ。
まだ来てないみたいだから、ここで待っていよう」
しばらくすると、ゴトゴトと車輪の音が聞こえてきた。
デコレーションされた馬車が現われ、俺たちの前で停まる。
中から次々と出てきたのは、まさにギャル軍団と呼ぶにふさわしい、派手なメイクの少女たち。
魔導女のローブの下は着崩した制服にミニスカートで、うら若き太ももを惜しげもなく晒している。
彼女たちは俺を見るなり爆笑した。
「あっはっはっはっはっ! なにこのオニーサン!」
「マジ、ヤバくねぇ!? 超イケてなくなくない!?」
「なんで作業服なん!? 超ウケるんですけど!」
ティフォンとイズミにも積極的に絡んでいく。
「あっ、精霊じゃん! こっちは超イケるし!」
「そのビキニアーマー、超オシャンティじゃん!」
「こっちのメガネっ子は水の精霊かぁ、水ちょーだい、水!」
ギャルたちはふざけてティフォンの身体に抱きついたり、イズミの指を咥えたりしている。
のっけから信じられないほどの距離感だったが、精霊姫たちは慣れたものだった。
「でしょでしょ!? これ、動きやすくてダンスにもいいんだよ! ほら、見てみてこのステップ!」
「お水ですね、かしこまりました、はいどうぞ」
どうやらティフォンとイズミの通う精女も同じノリのようで、彼女たちはクラスメイトと過ごしているかのようにすっかり馴染んでいる。
俺はすっかり蚊帳の外だったが、ホッとひと安心。
「彼女たちの相手は、ティフォンとイズミに任せておけば大丈夫かな……」
と胸をなで下ろしていたら、馬の蹄が駆け上ってくる音が聞こえてくる。
次に現われたのは白馬に乗った王子様のような身なりの男だった。
「どぉら、キミたちのハートを味見しに来たよ」
見覚えのあるその顔と口調。
俺と精霊姫たちはげんなりしたが、ギャルたちは騒然となった。
「ああっ、『精霊使い』のドラハン様じゃん!?」
「うそうそ、マジでっ!?」
「ドラハン様があたしらの引率してくれんの!? ヤバくない!?」
馬から下りたドラハンは、俺たちには目もくれずにギャルたちに近寄り、
「どぉら、今日からキミたちは僕のペットさ。今夜といわず、今すぐ抱いてあげよう」
馴れ馴れしく肩や腰に手を回していた。
ティフォンがすぐさま突っかかる。
「ちょっと、なんなのあなた!?」
ドラハンはいま初めてティフォンに気付いたような顔つきをした。
「はんっ。こんな所まで僕を追いかけてくるだなんて、ようやく自分の過ちに気付いたようだね。
僕のためにそんな格好までしたのであれば、許さないわけにはいかないじゃないか。
さぁ、跪いて服従のキッスを靴に……」
「はぁ!? なに言ってるの!?
なんでもいいけど邪魔しないで! これからわたしたちは洞窟に入るんだから!」
「ああ、そのことなら心配はいらない。僕が悪しき無能の手からキミを助けてあげるからね」
「はぁぁっ!?」
話が通じないドラハンに、唖然とするティフォン。
ドラハンは俺に流し目を向ける。
「はんっ、キミみたいな邪悪な男に引率を任せるのは心配だと、レセプルが僕に相談してきたんだ。
だから洞窟へは、僕も同行させてもらうことにした。
どぉら、残念だったね、無能くん。
少女たちに良からぬことをしようというキミの野望は、ここで潰えてしまったというわけさ」
俺の心のなかに、やるせない気持ちの暗雲がザワザワと広がっていった。