24 精霊服従の首輪
24 精霊服従の首輪
ドラハンに付き従っていた『ドラハン精霊軍団』。
彼女たちはドラハンの絶対なる下僕のように振る舞っていたのに、俺の顔を見た途端に豹変。
主であるドラハンの命令を無視するどころか、ドラハンを突き飛ばし……。
「ユニバスさまユニバスさまユニバスさまっ!
ユニバスさまぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
ドドドドと土煙をあげるほどの勢いで、俺めがけてまっしぐら。
「まっ……待つんだ、お前たちっ! だっ、誰が特攻しろと言った!?
僕が命じたのは遠距離攻撃だっ! はっ、早く停まれっ!」
精霊軍団の首輪のヒモを持っていたドラハン。
彼女たちの猛ダッシュについていけず、とうとう倒れてしまう。
ドラハンは容赦なく地面を引きずりまわされていた。
「うわああっ!? とっ、止まれ止まれ止まれっ! 止まれぇぇぇぇぇぇーーーーっ!?!?」
しかしその悲鳴すら届かず、精霊軍団は人参をぶら下げられた馬のように停まらない。
俺の元へとやって来るなり、すかさず俺を取り囲んだ。
彼女たちは実に色っぽくて、多くの男を手玉に取っていそうな大人の女といった風情だった。
しかし俺を前にした途端、人見知りな子供みたいにもじもじする。。
「あっ、あのあの、そのっ……!」
「はっ……ははっ、初めまして、ユニバス様!」
「わっ……私たちは、私たちは……! ああっ、だ、ダメェ! 緊張しすぎて、言葉が出てこないよぉ!」
「わっ、私も! まさか本物のユニバス様、こんな所でお会いできるだなんて……!」
「も、もう、夢みたい! 私もう、今日死んでいいっ!」
「私も……! 嬉しすぎて嬉しすぎて、うっ……うぇぇっ……!」
「な、泣いちゃダメ! ユニバス様の御前よ! わっ、私も必死にガマンしてるんだからぁ!」
「もっ……もうダメ! ユニバス様のお側にいると思うと、心臓が張り裂けそう!」
精霊軍団は半泣きどころか、興奮しすぎて過呼吸に陥っていた。
ハァハァしている彼女たちの前に、ティフォンが割り込んだ。
「ちょ……ちょっと! あなたたち、いったいどういうつもり!? いまは精霊バトルの最中だよ!?」
すると精霊軍団は「わぁーっ!?」と顔を見合わせる。
憧れのアイドルに会ったファンのように、さらに盛り上がる。
「あ、あなたはもしかして、ティフォン様!?」
「は、初めまして! 私たち、あなたに憧れてるんです!」
「えっ、わたしに憧れてる? なんで?」
「だって、ユニバス様のそばにおられるではないですか!」
「ユニバス様に憧れる精霊は、それこそ何億、いや何兆といます!
その中でもユニバス様のおそばにいられる精霊というのは、世界でも有数の精霊だといわれているんですよ!」
「わ、わたしが、世界でも有数の精霊……?」
ティフォンはキョトンとしていたが、褒められたとわかるやデレデレになる。
「い、いやぁ、それほどでもぉ~!」
「私たち、ティフォン様みたいになるのが夢なんです!」
精霊軍団はイズミにもすっかり懐いていた。
「握手してください、イズミ様!」
「きゃあ! イズミ様に握手してもらっちゃった!」
「ありがとうございます! これで、みんなに自慢できます!」
『精霊バトル』の緊張感はどこへやら、精霊姫と精霊軍団はすっかり仲良しになっていた。
俺は精霊たちが戦わずにすんだのでホッとする。
しかし、水を差すような呻きが、足元から立ち上った。
「はっ……はははっ……はぁぁぁんっ……!
かっ、飼い主である僕の命令を無視するどころか、この僕に暴力を振るうだなんて……!
許さない……! 許さないぞ、お前たち……! いますぐ、僕を助け起こすんだ……! でないと……!」
そこには、キザったらしい顔と貴族の華々しい装束を土埃まみれにされたドラハンがいた。
しかし精霊軍団はヤツの脅しを聞いても、せいせいしたような表情をしている。
「イヤです。そもそも私たちは、あなたのことを飼い主だって思ってませんから」
「そうですよ。首輪を付けられてしまったから、イヤイヤ従ってただけです」
「私たちの主人は、ずっとユニバス様おひとりです」
ドラハンはもはやキザの仮面をかなぐりすて、憎悪を満面に浮かべていた。
「僕にそんな口をきいて、いいと思っているのかっ……! どぉら、これでもかっ……!」
ドラハンが手を掲げると、手首から繋がっていた引き綱から、黒いオーラのようなものが放たれる。
それは汚水のように引き綱をのぼっていき、精霊軍団の首輪に広がった。
途端、彼女たちの表情が苦悶に歪み、ドラハンの口元が嫌らしく歪む。
「くっ……!? なっ、何をっ……!?」
「くくくく……! 『精霊服従の首輪』の効果だ……!
僕がこうやって合図をすると、首輪からキミたちの弱点属性が出るのだ……!」
ティフォンとイズミがギョッとなる。
「弱点属性を首に!? なんて酷いことを!」
「どうか、おやめになってください!」
「精霊ごときが僕に指図するなっ!
しつけのなっていない精霊は、こうやって力ずくで屈服させるのが一番なんだ!」
ドラハンはサディスティックな笑みを隠そうともしない。
「どうだ!? 痛いだろう、苦しいだろう!? 死にたいほどの苦痛だろう!?
やめてほしいか!? ならば戦え! ユニバスに攻撃するのだ!」
「ゆっ……ユニバス……さまっ……!」
すがるような瞳で、俺を見る精霊軍団。
俺はもはや、迷いは無かった。
「この、外道っ……!」
俺は倒れているドラハンめがけ、足を振り上げる。
ドラハンの濁った瞳が、ギラリと輝いた。
「やってみるがいい! 『精霊バトル』では、飼い主どうしの直接攻撃は禁じられているっ!
僕に指一本でも触れた時点で、キミの負けだっ!」
「うっ……!」と俺の足が止まる。
「くくくく! 戦いというのは常にカッコイイほうが勝ち、ブサイクなほうが負けるのだ!
さぁ、我が精霊軍団よ! そこにいるユニバスを、得意の蹴り技でメチャクチャにしてやれっ!」
……がばあっ!
サッカーボールを蹴るみたいに、一斉に振り上げられる美女たちの脚線美。
「やっ……やめてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーーーーーーっ!!」
「おっ……おやめくださぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーいっ!!」
ティフォンとイズミが同時に俺をかばう。
しかし精霊軍団は軸足でクルリと回転、背後に倒れているドラハンに、強烈なトゥーキックを見舞っていた。
……ズドォォォォォォォォォォォォーーーーーーーーーーーーーーーーンッ!!
「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!?!?」
先にお伝えした『精霊たらし』のコミカライズですが
現在、『マグコミ』様にて企画進行中です!
作画担当は、タバタグランドキャニオンさんに決定いたしました!
そして第1巻の書影もできあがりました!
このあとがきの下に掲載してあります!